第4話 ファイアサラマンダー(前編)

目覚ましではなく自然に目が覚めた。

社会のゴタゴタや習慣から解放された、気持ちのいい目覚めだ。


テントの外に出て、この世界にもある太陽を確認する。

太陽との距離関係はわからないが、もうすぐで真上なので昼前ごろか。


寝すぎてしまった。昨日は異世界に飛ばされて初日、恐怖や絶望を感じたがなんとかやり切った。その疲れが出たのだろう。

だが、いつまでもオロオロしていられない。目の前には、「火」という差し迫った課題があるからだ。


ここら辺には木が見当たらない。生えている植物はよく燃えそうだが、長く持たない。やはり安定した火力が求められる。それにずっとこの場所に留まり続けることは出来ない。今はまだ火を起こさずに寝られるが、冬にでもなったら大変だ。

やはり人里を探すべきだろう。

まぁ、今日取り組むのは火についてだ。


ここに飛ばされてすぐここが異世界だと思い知らせた存在。

あの火を吐く爬虫類だ。これからファイアサラマンダーと呼ぼうか。


アイツを、飼いならす。


考えた方法は2通りだ。

1つは餌で釣る。これはあまり期待していない。

何故なら大きさが何倍もある俺にいきなり火を噴いてきたのだ。穏やかな性格でないのは確かだ。


2つ目は力づくだ。ファイアサラマンダーに襲いかかり、どっちが上かを思い知らせ、餌を与えて従える。好戦的なアイツにはこれが効きそうだ。


ま、怖いからまずは餌で釣ってみようか。






テントから離れて、昨日見つけた大きい池にやってきた。ここにいる生き物を餌にしよう。


狙いは魚ではない。ここにいる魚は大きくて、とてもファイアサラマンダーが食べられるとは思えない。だから、ザリガニか水生昆虫を探す。


靴と服を脱いで全裸になり、腰まで浸かりながら水際を探る。

窪みや影を注意深く見て、獲物を狙う。


いた。10cm程のザリガニだ。両手を伸ばし、左右から抑え込む。すぐに陸まで戻るが、指を挟まれ痛みが走る。

持ってきた飯ごうに突っ込み、蓋をする。

よし、この調子だ。




2匹を追加で捕まえて、昨日ファイアサラマンダーに遭遇した所まで戻り、そこから更に足跡を追う。


よし、いた。足音に気がついたのか、こちらを見ている。


出来るだけ姿勢を低くし...


ブォウ!


やっぱダメだった!作戦変更!

その場から跳びのき、一旦下がる。今度はいつでも動ける姿勢を維持しながら、ジリジリと距離を詰めていく。

こちらの動きに合わせてファイアサラマンダーも体の向きを変えてくる。

火がギリギリ届かないという所まで近づき、一気に飛び出す。

真横に。

俺のいた場所を炎が通り過ぎていく。


当たったな。コイツは知能が高い。自分の炎が届く間合いを把握しているようだし、こちらが動くタイミングも読めているようだ。それを利用して炎を避けた。


あまり感動に浸っている場合ではないな。直ぐに走り、間合いに入ったところでジャンプする。


よし、真下を炎が過ぎていった。

コイツの炎に。広がりはあまりない。どちらかというと直線的だ。どういう仕組みかは知らないが、力を集中させているらしい。だからこそ避けられたし、当たったら...考えないでおこう。


ファイアサラマンダーの真上に着地し、首を掴む。

当然もがいてくる。流石にここまで接近されたら逃げようとするのか。


だが、逃がさない。恐怖に耐え、動きを読んだんだ。苦労を無駄には出来ない。

ここで逃したら、また追う気力は無い。アドレナリンが切れて手が震え出すだろう。

近くで見るコイツは意外と大きく、40cmほどだ。全身を使って抵抗してくるが、こっちは人間だ。炎は噴けないが、お前以上の筋力と頭脳がある。

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