第3話

「うおぁっ!熱っ!」


!?!!???????!?


なんだ?え?火、だと!?

何がどうなってるんだ?見たこともない動物があり得ないこそを起こした...

それ以前に訳の分からない植物もあったし、ここはやはり地球とは違うようだ。


俺とあの火を噴く生き物が1メートルくらい離れていたお陰で、服に引火することはなかったが...それでも熱いし、何より驚きで頭がいっぱいだ。


現に今、尻餅をついて起き上がれないでいる。


さっきまでのワクワクは吹き飛び、すぐにでも元の世界に帰りたくなる。


そこで、ふと見てしまった。気づいてしまった。自分が下りて来たあの丘に、ゲートが無いという事に...


「は、ハハ...嘘だよな?夢だろう?まだ、テントの中で寝ているんだな。なかなか面白い夢じゃないか」


水たまりの上に座り込んだせいで水が染み込んでくる。その感触は、リアルで、いやが応にもこれが夢ではないと知らせてくる。


あぁ...最悪だ。もうどうしようもない。地球に帰ることはできないんだろう。

最後に、童貞くらい捨てたかったなぁ...


ダメだと分かっていても、あの子に告白ぐらいしておけば良かった。親にもっとありがとうと言っておけば良かった。もっと色んな人と関わっていれば良かった。


次々と後悔の念が浮かんでくる。だが、


違うだろう。そんなんじゃないだろう。おい、俺はここで自殺でもするのか?

ずっと俺の友達だったのは何だ?俺は子供の頃から生き物が好きだったろう?

今、目の前には見たこともない、不思議な生き物がいるだろう?


ーーーこんなことで挫けてたまるか。


帰れないからどうだというんだ。この世界を探していけば帰る方法くらい分かってくるはずだ。


俺は立ち上がってそいつに向き直り...


ブォゥ!


「やっぱムリムリぃー!」


逃げ出した。






「はぁー。服、乾かさないとな。替えは二着しかないし。それよりも食べ物だよな」


面白い生物がいても、やられてしまったら終わりだ。人命最優先だ。


とりあえず丘の上にテントを張り、濡れた服を引っ掛けて干しておく。

着替えて、何か食べられる物を探す。

ナイフを持って辺りを散策する。


「やっぱアレ、気になるな」


アレとは、最初に見つけた穴だらけの植物だ。

アレが生えているところまで歩く。


「食べられるかはわからないけど、とりあえず切ってみるか」


コン、コン。


普通に刃を当てるだけじゃ切れない。

突き刺してみる。


ザク。


表面は硬かったが中は柔らかい。見た目通りだ。

最初に刺したところを起点として、切れ目が繋がるようにして突き刺していく。

すると、中のスポンジのような部分まで取り出せた。


果たしてこれが食べられるかだが、あまり期待しないでおこう。

よく見てみるために顔まで近づけるが...


「うぉ、クセェ!」


とても臭かった。何か、肉が腐ったような臭いがするし、こんなもん食えるか。


俺はカケラをポイして別のものを探しに行った。




そういえば、足元に生えている雑草はまだ一種類しか見てないな。

細くて低い、良く燃えそうな...

お、これを火種にするか。

草は脆く、簡単に引きちぎることができる。だがどうやら根が地面とガッチガチに絡み合っていて根絶することは出来ないようだ。


両手で握る程の量をテントまで運び、置いておく。


しかし、俺はあることに気がついてしまった。


「ここ、木がねーじゃん。枝すら落ちてないじゃん」


火種は確保できたが、こんなんじゃ直ぐにに燃え尽きてしまう。


どうしようか...木を使わずに火を使う方法...


あ、思いついた。だが、いや、果たして俺にできるか?





取り敢えず火については頭の中では解決したので、次は食べるものを探す。


たまに大きな水たまりだったり池っぽいのがあるし、魚がいるかもしれない。

ちなみに足元にはしょっちゅう黒くて小さいサンショウウオのようなものを見かけるが、小さ過ぎて食べる気にならない。


凸凹の地面を歩き続け、ようやく大きな池を見つけた。

直ぐにでも食べ物を探したい気分に駆られるが、グッと堪えて丘までの目印を付けていく。


何キロも離れている訳ではないのだが、チェック漏れが無いように丘を中心としてグルグルと回っていたから、だいぶ時間が掛かった。直線にすると歩いて5分以上はかかる感じだ。

歩きしかねーけど。


目印は丘から池の方向に土を思いっきり蹴ることにした。




歩き疲れてきたが、これからだ。まずは周りから池の中を覗き込む。

直径20メートル、深さ1メートルくらいで、水は澄んでいる。


よしよし、魚がいやがるぜ...!食い物には困らないか。




そう思っていた時期がありました。

全く取れない。バカだった。そもそも魚より早く動けるわけもなく、悉く逃げられてしまう。


こうなったら、別の小さい池を探すしかないか。





そうこうしてだいぶ時間が経った。既に昼は過ぎているに違いない。スマホがあるが、時間を確認したところでここの世界と地球の時間が一緒とは考えづらいし、そんなことでもしもの時のためのバッテリーを使いたくない。


この世界には太陽もあるし、それで大体わかるんじゃないだろうか。




そしてやっと見つけた小さい池。池というより大きい水たまりだ。その中に、手のひら程の魚が3匹泳いでいる。これなら浅いし追い込んでいけば捕まえられる。



「はぁ、はぁ...速すぎる...しかも硬い」


30分くらいはやっただろうか。俺の左手には1匹。右手にも1匹。


「お前は見逃してやるよ。今日のところは、だがな。ふぅ...」


さぁ、丘に帰るか。




そして調理だが。やっぱりあの火を噴く奴を使うことにした。

というわけで最初にあいつに出会ったところまで戻り、そこから続く痕跡などで位置を掴む。人間の俺よりは動き回っていないだろう。


そうして探すこと...意外とすぐに見つけた。あまり離れていなかったようだ。

そして今...俺とあいつは相対している。正直、怖い。火を付けるのは全く怖くないが、自分に向けられるとなるとそりゃあ怖いに決まっている。


あいつは口を開き、火を噴こうとしてくる。


いまか...いまか...


「ヴ・・・」


「今だっ!」


俺はナイフに突き刺した魚を炎に向ける。

ジュゥ、といういい音と共に、自分もああなってたのかなぁと考え、ちびりそうになる。

よし、反対側だ。


魚を抜き取って...


「ってあづいぃぃい!」


まあ、焼いたばかりの魚を直で掴んだらこうなるよなぁ。先が思いやられる。





そんなこんなで2匹の魚を焼いてもらうことに成功し、意気揚々とテントに戻った。

丘で食べる予定だったが、あまりにも空腹で途中で1匹食べてしまった。






「あぁ、色々あったなぁ...死にかけたり絶望を味わったり。結局ここはどこなんだろうな」

残りの一匹を平らげ、骨を投げ捨てる。


まあ、初めての日にしては良くやったと思う。

それにここの生き物には興味が尽きなさそうだし、自分で捕まえて自分で焼いて食べるのがこんなに美味いなんてな。

焼いたのは俺ではないが。


たが、やはり疲れた。


「明日からはもっとこの環境に適応できればいいなぁ。あいつの炎に頼ってばかりじゃ、脆弱だよな」


もう空は暗くなってきた。地球で見た最後のあの星空も綺麗だったが、ここには木すらない。宇宙を独り占めできる、そんな錯覚に囚われた。

地球と同じく美しく、冷淡で、どこも一緒なんだなぁと思い。


まだ見ない不思議な生き物達という自分だけの宇宙を見つめ、これからの発見に思いを馳せた。










雑草(名称未定)


広大な地域に生える、細くて軽い草。葉は脆いが根は地面に深く食い込んでおり、千切られてもしぶとくまた生えてくる。

その根は凸凹な湿地の地面がなかなか崩れない一因である。

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