第2話

近づいてみるとその揺れは、ヴォンヴォンと音を立てていてさながら異世界への扉のようであった。


不思議と恐怖心は無かった。体験したことのないキャンプや山歩きのせいか、興奮状態にあったのかも知れない。


ーーー入っちまうか


一瞬そんな考えが脳裏をよぎるが、直ぐに打ち消す。もしこれが異世界への扉ではなくてUFOとかエイリアンの国への入り口だったらどうするんだ。

ってそれはもう異世界だな。


それに、ラノベで良くある異世界転移だとしたら、神様の声が聞こえるとか不思議な少女に助けを求められるとかあるだろう。だがそれがないのは何故なんだ。

まぁ、異世界があるとか馬鹿馬鹿しいし考えるだけ無駄か。


もしかしたら川のヤバイものでも食べてしまって幻覚でも見てるんじゃないかという気もしてきた。

とりあえず今日は寝て、明日になってもあるなら入ってみよう。入れるのかは定かではないが。









そして、朝。


なんか昨日は変な夢を見ていたなぁ、ゲートっぽいヤツが出てくる...と思ってテントの外に出ると。


まだあった。


どうしようか。夢ではないらしい。やっちまうか。

ここを通ったらどうなるのか。とりあえずそこらの石を拾って投げ込んでみる。


プシュ、という音を出して、消えた。反対側には落ちていない。どうやら別の場所へ飛ばされたみたいだ。


そういえば昨日、朝になってもまだあるなら入ろうとか決めてたな。

自分で勝手に決めたことだから破っても誰にも迷惑はかからないのだが、いや、やはり、好奇心が勝ってしまった。



俺は荷物をまとめると、どこでも○アをくぐる気分を味わいつつ、とうとうやってしまった。

いいさ、彼女の一人もできなかったんだ。こんな世界に未練はない。








気がつくと俺は、小さい丘の上に立っていた。見渡す限りの青空で、丘の下には湿地が続いている。


本当に来てしまった。夢かも知れないから頬をつねってみたら、痛かった。どうやら現実のようだ。

痛ければ現実、というのは証拠には到底なり得ないのだが、頭の中ではここが夢か現実かなどという些細な問題は、目の前に広がる光景に吹き飛ばされていた。


リュックを置き防水ブーツに履き替え、一目散に丘を下る。


意を決して、水たまりに一歩踏み出してみる。それからは夢中になって辺りを歩き回った。


ここはどこだ。日本ではなさそうだ。外国でもなさそうだ。人がいないしゴミも落ちていない。


そして...見たこともない草が生えている。草と呼んでいいのかわからないモノが。

ずんぐりとしていて若干三角錐を途中で切ったような形だ。

背は低く、腰あたりまでしかない。頂上では小さい膨らみが集まっていて、どことなくエ○グッズを彷彿とさせる形だ。


そして極め付けは太いボディに開いた、無数の穴だ。様々な形をしていて、のぞいてみると中に続いているようだが、曲がりくねっていて奥までは見えない。


表皮は硬いが、迷路の中身はスポンジみたいだ。といっても指で押して見ても変形しないくらいの強度はあるみたいだ。


こんなものは見たことがない。穴ぼこだらけの草?それにしても太すぎだ。


ここは一体、どこなんだ。考えられるのはアメリカかロシアがヤバイ感じの研究をしていて、俺は創り出された世界に放り込まれたモルモット、というぐらいか。


そんな思考は、謎の草を見下ろしていたからだろう、視界の隅をよぎった影によって中断された。


動いた。この世界で初めての動物か。第1動物はなんだ?


そいつを追おうと目を向け、隠れている細い草どもを掻き分けて進んでいくとさっきのヤツと思しき生物が姿を現した。


頭をこちらに向け、口を大きく開けている。威嚇のつもりなのだろうか。確かに頭から尾にかけての赤と黒のまだら模様は、警戒色のように見える。


コイツは30cm程の爬虫類のようだが、食物連鎖の頂点ではないのだろうかなどと考えていたら、そいつのとった行動は想像を絶するものだった。


ブォウッ!


あろうことかそいつは、火を吹きやがった。

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