実技試験 0.2

パワードスーツとARゴーグルによって介護ヘルパーの負担が軽減されつつあるが、機材も有資格ヘルパーも希少な世界。


主人公はリハビリ施設で働くヘルパーで、学んだことを仕事に活かして日々スキルを高めている。ある日、要介護の老人をケアする実技試験に臨む。


ARゴーグルはクリアすべき基準と、行うべき介助動作を映し出し、主人公は指示に従う。脚を怪我した老人は、不自由ながらも、介助を受けながらも、椅子から立ち上がりテーブルの物を取る。老人はこれまで困難を避けて生きてきたので、慣れない不自由さに戸惑いつつも、可能な限り体を動かしている。


ARゴーグルの指示を受けて、主人公は椅子をどかせて、老人を誘導する。しかし老人は移動を拒む。動かしにくい脚がもどかしく、苦痛だからだ。ARゴーグルの表示では、老人が自力でクリアすべき障害とあるため、主人公はゆっくり見守る。だが、実技試験の制限時間が近づく。時間切れを避けるべく、主人公はARゴーグルの第二提案に従って、介助する。


実技試験の対象は老人のほうで、試験結果からリハビリによる身体機能回復の見込みが低いと判断される。最新機材と有資格ヘルパーによる介護は高額であるため、成果が出る見込みがある被介護者だけを対象に、行政が補助をしているからだ。


老人は機械介護の施設に入居する。衛生的で快適な設備である。ただし身体機能の回復を目的にしないため、緩やかに衰えていく。老人は苦しまずに延命できることを喜ぶ。



# 取材


「自分が疎い分野に関して、近くに知識がある人がいる」という基準で分野を挙げ、そのひとつ「介護」を選びました。ホームヘルパーの研修を受け、資格を持っている知人に取材を依頼しました。


この時点で「資格が細分化され、そのサービスを受けるには生活保護のような基準が存在するであろう」程度の仮説を持っていました。


取材の結果、おおざっぱに以下のことが分かった。

- ホームヘルパーと呼ばれる資格は、比較的簡単に取得でき、そのため報酬が安い。

- 被介護者が自力でできることは、できるだけ自分でやらせるように促す。

- 試験というものはなく、座学、研修、レポートでよい。資格であって免許ではない。


「自力でできることを自分で」を、物語の核にしようと決めて、関連しそうな本を読みました。


- 介護サービスには複雑なレベル分けや、施設の種類がある。

- リハビリを前提にした設備・サービスが存在する

- 認知症が大変そうだが、それだけでもない。

- 人によって、状況が異なるため、形式化しにくい

- だが行政によるサポートが必要なため、なんらかの画一化が必要


あたりを抽出して、今回の物語世界の設定を作りました。



# 参考文献


結城康博「介護 現場からの検証」、岩波書店、二〇〇八年

髙山善文「これ一冊でわかる!介護の現場と業界のしくみ」、ナツメ社、二〇一九年

藤原るか「介護ヘルパーは見た 世にも奇妙な爆笑! 老後の事例集」、幻冬舎、二〇一二年

若林美佳 監修「入門図解 介護施設・高齢者向け住宅のしくみと疑問解決マニュアル すぐに役立つ」、三修社、二〇一七年

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