内側に移動するためのライセンス

多くの人を乗せて地球を出発した巨大宇宙船。回転する筒形で、外側には遠心重力がかかる。内側では重力が小さく、重要な設備が集中している。そのため内側に入るには、設備の修復ができる「クルー」の資格が必要だ。さらに体ひとつでも自在に動けるように、強い体幹と三半規管が必要とされる。


勉強も運動も苦手なカナコはクルーではない。だが、よくつるんでいるショウヘイに、二階層内側に遊びに連れて行ってもらう。ショウヘイは船壁の掃除夫をやっているが、クルーではないので、あまり内側へは行けない。


カナコは数年前、あるクルーと仲がよかった。クルーは何回層も内側に連れて行ってくれて、いつも知らない話をしてくれた。カナコはクルーに好意をもっていたが、自分が求められている確信があり、何もアクションを起こさなかった。やがて、クルーは内側での職を得て、去っていった。


クルーとときどき一緒にいたショウヘイが、カナコに声をかけ、二人はつるむようになった。ショウヘイの運動神経のなさ、話のつまらなさ、そして、二階層までしか内側に連れて行ってもらえないことを、カナコは漠然と不満に思っていた。


ある日、カナコはショウヘイが手に入れたマリファナを吸った勢いで、セックスをする。ショウヘイは体幹が弱くて動きが悪く、三半規管が弱いため酔ってぐったりしてしまった。カナコは、ショウヘイを好きではないこと、そんな相手とセックスをしたことを悔やむ。この一年をまったく無駄にしたと悟る。


カナコはひとりでその場を去り、まずは運動神経を鍛えるべく、トレーニングジムに入会する。そして帰りに図書館の会員カードを作った。誰かに連れて行ってもらうのではなく、自分の力で行きたいところへ行くために。


----

参考文献

田中啓文「宇宙サメ戦争」

山内マリコ「君がどこにも行けないのは車持ってないから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る