虚ろな弾道

主人公は弾道分析のエキスパート。事件現場で、ヘッドマウントディスプレイと触感グローブを装着する。そして拡張現実空間の物理演算と、自分の経験・勘を使って分析する。ある難事件の捜査で、3Dモデラーの妻に最新の技術でモデルデータを作ってもらい、解明したことがある。主人公は名声を得る。歳をとってから、自分の技術を引き継ぐべく弟子をとった。若い女性だった。


主人公と弟子は、ふたりで現場に向かうことが増えて親密になる。弟子は誰にも言わないで欲しいと、秘密を打ちける。弟子は、あの難事件の犯人の娘で、現場検証に参加していた。当時は幼かったので、弟子のARディスプレイには事件当日の家具の配置だけが投影された。大人たちにだけ、二段目のARとして弾道や被害者が投影された。弟子は、大人が何を見ているのか不思議に思ったことが、この世界に入るきっかけだったと言う。


妻が、主人公と弟子が親密すぎると咎め、問い詰める。主人公は、若干の好意を弟子に抱いている後ろめたさもあり焦る。とっさに弟子の秘密を打ち明ける。妻は泣き崩れ、弟子への罵詈雑言を吐き出し、そして家を出ていく。


翌日、弟子に秘密を漏らしたことを咎められる。あの難事件のとき、妻が作った3Dモデルデータの大人版には、存在しない戸棚が投影されていた。主人公が誤った判断し、犯人が有罪になった。おそらく犯人は有罪だっただろうけれど、証拠は偽造されていた。子供が来るのは予想外で、慌ててデータを用意したときに不整合が出たのだ。


弟子はARを見ながら、大人たちが存在しない棚を見ていることが気になり、この業界に興味を持った。そして真実を知りたくなった。おそらく妻は、犯人につまり弟子の父親に、強請られていたのだろう。あなた達を不幸にしたいわけではなかった、申し訳ない。そういうことを言って弟子は去った。



参考文献

小林泰三「クラリッサ殺し」

森博嗣「小鳥の恩返し」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る