片道気風
人類はエネルギー効率の悪い有機的な肉体を捨て、人格をニューラルネットワークモデルとしてコンピューター上に保持するようになった。機械やロボットを操作して、物理的な活動をする。ただしニューラルネットワークモデルはメモリを大量に使うため、1人格あたり1インスタンスだけ持ってよい(コピーをいくつも動かしてはいけない)というルールがある。遠くの人格や機械とやりとりするには、ネットワーク越しに通信するか、自分自身のモデルを別のデバイスにコピーではなく移動させる必要がある。
主人公はインフラレスキュー隊員で災害時の対応を職務とする。だが、まだ大きな成果を出していない。むしろ上司に守られた、甘えた坊っちゃんと評価されている。本人は、それが嫌で、成果を出すタイミングを探していた。
発電設備が破損したため、主人公は作業に立候補する。設備からの下り回線が損傷し、発電設備内部のデータを取得できないことが分かる。16個の明かりがついた窓のある外壁を、カメラ撮影した情報くらいしか得られない。主人公は、窓の明かりのログを記録するプログラムを書いておく。そして上司を説得し設備内のサブネットワークのコンピューターのメモリに、自分自身を移動させて、設備内から対処する。
最後の仕上げは、発電設備のメインコンピューターの再起動だけ。だが主人公はメモリ上にだけ存在するため、リセットすると消滅することが分かっている。サブネット外への通信は遅く、自分を移動させるには何日もかかる。自分が消滅して発電設備をすぐに復活させるか、自分が生き残るために発電設備を止めておくか二択だ。
上司は帰ってくるように指示する。自分が育てた部下をなくしたくないからだ。だが、これまで上司に甘やかされていると評価されてきた主人公は、成果を出さずに帰れば、再びバカにされることを恐れ、殉死してでも再起動を選ぶ。
発電設備のサブネットに残っていた主人公は消滅する。再起動後、発電設備は正常に再稼働し、コンピューターネットワークも正常に戻る。
上司は悲しみつつ、報告書の作成に取りかかる。発電設備の16個の窓の明かりを記録したデータを見直すと、窓の明かりが点滅していることに気づく。16進数のデータを出しているように見えるので、デジタルデータに変換し、ニューラルネットワークのモデルとして再構築する。すると、主人公の人格の一部が蘇った。
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参考文献
三方行成「地球灰かぶり姫」
ケンリュウ「もののあはれ」
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