秘密の鍵
母子が、未来から現代に逃げてくる。母は現代に馴染んでいるが、未来の標準語訛りがあり、近所から政府寄りだとバカにされる。母は気にしなかったが、成長した息子は母を疎んじる。居づらくなった母は、最後のタイムトラベルキットを使って、単身過去に逃げる。
息子が大人になてから、母が持っていた箱の鍵を発見し、開ける。中には母からの手紙があり、母が未来より現在を愛してタイムトラベルしたこと、過去にトラベルすると平行世界に分岐すること、そして、母が失踪の前日にタイムトラベルしたことを知る。平行世界で、母は自分の近くにいるのだ。
息子はセキュリティソフトの開発職を辞して、タイムマシンの研究募集に応募し採用される。当時のタイムマシンは、ようやく量子レベルではなく、原子レベルで過去に転送できるようになっていた。研究所はタイムマシンに先じて、観測装置を作った。そして「過去に送る物体にランダムな文字列をつける」ことを義務付ける。観測装置は、そのランダムな文字列を記録するのだ。やがてタイムマシンができあがる前に、観測装置にランダムな文字列が届くようになる。
ところが、一部の研究者たちが、すでに観測されている文字列を、過去に飛ばすという不正をしはじめた。これは研究進捗のポイント稼ぎが目的になっており、研究の進捗には寄与しない。
息子はセキュリティの知識を使った新たな観測方法を提案する。インターネットの公開鍵・秘密鍵をつかった認証方式と同じことを、タイムマシンの検証に使うのだ。
(1) 各研究者は転送する文字列を、監査部門に渡す。
(2) 監査部門は、秘密鍵を使って、文字列と現在時刻タイムスタンプを暗号化して、研究者に返す。
(3) 研究者は暗号文をタイムマシンに放り込む。
(4) 監査部門は過去の履歴から、該当するらしき暗号文を、そのまま研究者に渡す。
(5) 研究者は公開鍵をつかって、復号する。元の文字列と監査部門が埋め込んだタイムスタンプが一致すれば成功とみなす。
この提案は採用され、不正な研究は淘汰され、結果として研究が前進する。
研究グループは、転送元と転送先の重力場が大きく変動するときを狙えば、タイムトラベルが成功することを発見する。記者発表会は、周期的な重力場の歪みが起こりやすい日を選ぶ。その前夜、重力場の歪みを捉えた息子は、母の失踪先の日時を指定して、単身タイムマシンの箱に入る。
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参考文献
法月綸太郎「ノックス・マシン」
ケン・リュウ「紙の動物園」
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