僕のために鈴は鳴る
年内の仕事を片付け終えた大晦日、45歳の僕は、参詣客がいない神社の境内のベンチに腰掛けて、一年を振り返っていた。モバイルゲーム開発の仕事にも慣れ、年明けには新作のリリースが控えている。賽銭箱の前の鈴が鳴り響き、高校生のころの僕がいた。
高校生の僕はスーツアクターを目指していた。ライバルに、バク転が下手だからダメだと言いふらされ、年始のショーでヒーロー役を取れなかったと怒っていた。運動不足の僕の体を見て、夢が叶わないと知りさらに怒り出す。自棄になって人気のない広場でバク転の練習を始めるが、危なっかしい。怖くて腰が引けることを、僕は知っている。
僕は、ご近所さんマッチングアプリで体操部の学生を見つけ、バイト代を払うから指導して欲しいと依頼する。三ヶ日の間、ずっとバク転の練習をしているのを眺めていた。
一月四日の朝、鈴を鳴らして高校生の僕は去った。出社した僕は、年末に段取りした仕事に取りかかる。戦隊ヒーローものゲームのリリースだ。
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参考文献
宮部みゆき「わたしとワタシ」
稲田一声「実のところ幽霊は熱い」
https://school.genron.co.jp/works/sf/2019/students/17plus1/3345/
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