二
第1話「獣人ファミリー」
「ポポとトトはちゃんと草引きをやってますか?―――って、何でカツアキ様が代わりにそんなことやってるんですかっ!?」
何故かと言われると、人間で言うところ見た目小学生高学年くらいの姉のポポと低学年くらいの弟のトトの草引きを見ていたら、口を出さずにはいられなくなったからだ。因みにメリンは女子高生くらいだろうか。
「駄目だ、ポポもトトも草引きの何たるかを全くわかっちゃいない。草引きのセンスが皆無なんだ」
俺が学生の頃、引き取られた先の親戚にはそれほど可愛がってもらった記憶はないが、今みたいに自主的に草引きなどをやったときは結構褒められたものだ。その時に培ったスキルをポポとトトに教えてやっている。
「そんなこと言ってポポとトトは見ているだけで、全部カツアキ様がやっちゃっているじゃないですか! 雑用をさせるためにカツアキ様をウチへお招きしたんじゃないですからねっ」
いや、まずはお手本を見せてやり方を教えるのが最も効率的なワケで……
「草引きなんてやっているうちに勝手にやり方を覚えていくもんなんですっ!妹たちを甘やかさないでくださいっ!」
『んもぅっ!』と興奮した子牛のような溜息をつくメリンに、良い感じに仕上がりつつあった草引きを途中で止めさせられた。ポポとトトよ、俺がしてやれるのはここまでだったらしい。見て覚えるよりもやって覚えるのがメリンの教育方針ならば仕方があるまい。
俺がメリンの家に居候させてもらってから早ひと月が経とうとしていた。家は彼女が言ってたように結構なボロ屋だったが、菜園できるくらいの庭もあって家の中も俺がお邪魔する分くらいは全然問題ない広さだ。
そして俺と同じで両親は他界しておりメリンがギルドで請け負ったちょっとした仕事をしながら下の二人の姉弟を育てている。それでも自分たちのことを不幸だなんてこれっぽっちも思っていないのは俺が育った日本と違って、この世界での人の死はそれほど珍しいことではなく、メリンくらいのある程度の年齢に達した子供ならば自立して生活できるように、このエリーナ街全体が支援する構造になっているからだ。
きちんとした福祉がある日本だったけれど、他人の大人の顔色を伺って生きて行かなければ行けなかった自分の学生時代を思い出すと、同じ子供なのにちゃんと地に足をつけて頑張って生きているメリンと比べたらどちらがより幸福なのだろうかと考えさせられてしまう。
「あーっ! ポーションの瓶詰も全部終わっちゃってますっ!?」
ふふっ、早起きした俺が終わらせておいたのだ。その仕事はメリンがギルドから請け負っていたものなのだが、家事もしている多忙な彼女に変わって居候の俺が善意で行ったこと。でもそれがバレたらまたメリンに小言を言われてしまうので今はこの家から退散すべきだと判断した。
草引きをしていた庭からそのまま逃げ出そうとすると俺を見るポポとトトが指先を口にあてて『シー』と笑いながら見逃してくれた。去り際には手もフリフリしていて何とも可愛いものだ。
「居候を始めた最初の頃は弟のトトに怯えられて、カツアキも泣きっ面だったのにな……んで今日は何の用事なんだ?」
この世界に来てひと月は経過したものの、それほど行動範囲は広くないので暇を持て余した俺はいつものようにマチスの道具屋に来ていた。
「金を貸してくれ」
「いや、そりゃ貸してやるのはいいけどな、俺には何の遠慮もないのな」
俺も少しづつ物価やこの世界の通貨の価値がわかってきたんだ。タケロウの報奨金の大半をガメたマチスに使う気など生憎持ち合わせてはいない。
更に言い訳をさせてもらうと、あの時の残りの報奨金も全てメリンに渡してしまったので今は金がないだけで、一応その後もちゃんと働いている。
この前ギルドのミーシアから依頼されて『窃盗』という能力を使って盗みを働いているゴードンとかいう男を捕まえたばかりなのだ。そいつは武器を持って挑んでも窃盗されて無力化されてしまうが、俺の暗殺拳のような能力は奪えないみたいだったので楽勝だった。
ただ運が悪くそいつは手配されてすぐの状態だったので報奨金が準備されておらず、支払いまで少し待たなければいけないとのこと。
「―――だから今は金が無いだけで報奨金が入り次第すぐに返す。今日はトトが生まれた日らしいんだ」
「ああ、それで金が必要なのか。まあ、俺もあの時は貰い過ぎたなって思っててちったあ返す気でいたからいいんだが、何を買ってやるつもりなんだ?」
「メリンが作る料理の殆どは庭で採れた野菜が殆どだから、育ち盛りのあいつ等に偶には肉でも喰わせてやりたくてな」
特にトトは戦士の素質がありそうなので、今の内に筋肉をつけさせてやりたい。
「おおっ、それなら狩りに行ってみたらどうだ? 俊敏な動きもできるカツアキの能力だったら捕まえることも出来そうだし、それに気を失わせたら動物でもアイテムBOXって能力で簡単に運べるんだろ?」
なるほど、それは良い提案だ。この世界で肉と言えば代表的なのが猪の額に短い一本角がつけたような生き物の『ドンドン』という動物だ。俺が居候を始めたその日に奮発してくれたのか、メリンが振舞ってくれた料理のなかに少しだけ混ざっており、食べたときは脂が乗ってそれは美味かった記憶がある。
ドンドンの肉は結構高価みたいなので、メリンたちの生活レベルなら丸ごと一頭なんて財布をひっくり返しても不可能だろうが、俺が捕まえて来られたならばその限りではないのだ。
誕生日のトトに、それにメリンやポポにも腹いっぱいの肉を食わせてやりたい。
「よっし決まったな。ドンドンを捌くのはやってやるから、無事捕まえられたら俺のところに持ってこい。運が良ければ西の森で見つけられる筈だぜ」
マチスの提案に乗った俺は礼を言ってから意気込んで西の森へと足を運んだ。
しかしその道中で俺はふと思う。マチスはただ金の無心をしに来た男を
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