第5話「ギルドの地下牢」
本日二度目のギルド訪問も例の受付嬢に『また来やがった!』と初っ端から臨戦態勢の構えを取られており、それを横で見ていたマチスからは『憐れを通り越して逆に面白い』とまで評された俺だったが、色々なやり取りの末に今のところは悪い人ではないくらいには思ってくれるようになった。
「すみません……本当にすみません、カツアキさん」
受付嬢の態度が軟化したのはマチスが誤解を解いてくれたからというわけではない。こ奴はもの凄い剣幕で睨まれている俺を見て終始腹を抱えて笑っていただけなのだ。
「人を見た目で判断するなんて、ミーシアは最低ですっ!」
結局俺を擁護してくれたのは獣人の女の子のメリンだった。彼女は自分もタケロウに暴行を受け傷ついているはずなのに、妹の手当てを家にいる弟に託したのちにすぐギルドまで駆け付けてくれたことらしい。
メリンが俺を追いかけてギルドに来た本来の目的は改めてお礼をするためだったらしいが、ミーシアという受付嬢から酷い扱いを受けている俺を見てプンスカと怒ってくれた。メリンがミーシアと旧知の仲だったことも幸いしてか『異世界転移初日から既に詰んでしまう』という悲惨な状況だけは何とか回避された。
「だって、いきなり暗殺拳なんて祝福を得ているのを知っちゃったものだから……」
「それは確かに最初見たときは私もちょっとはおっかなかったですけど、ポポと私を助けるためにタケロウって言う人をやっつけた素敵な力なんですからっ!」
「いいんだメリン。俺も初めてこの力を使ったとき自分でも恐ろしくなってしまったんだから」
暗殺拳が発動している瞬間は自分の心が真っ黒になっていくような、そんな感じだった。
「ちょっと! ちょっと待ってくださいっ! あの人攫いとかを働いていた悪行レベル5のタケロウをやっつけたって本当ですかっ!? 今その人はっ? まだ生きていても弱っているなら皆で力を合わせて捕まえにいかないとっ!」
メリンの言葉に受付の机から身を乗り出すようにして驚きの反応をみせたミーシアが言葉を捲し立てる。
「あ、いや、そのことなんだが……一応タケロウを捕縛しているんだ。ほら、俺の能力って暗殺拳の他にもう一つあっただろう」
「ええと……そういえば何故かもう一つ『アイテムBOX』とかいうスキルがあったような」
ミーシアが顎の下に指をあてて魔法陣の書かれた羊皮紙で能力チェックをしたときの事を思い出していた。
「そう、そのアイテムBOXっていう能力は気を失っている者なら人も収納できるみたいなんで、試しにそれをやってみたから、もしどこか牢屋みたいな安全な場所でもあればそこに出してみたいんだが」
「え? じゃあ今タケロウはそのアイテムBOXとかいう能力で?」
俺はコクリと頷いた。
「こっ、こちらに来て下さいっ! 今すぐ案内しますっ!」
受付から飛び出したミーシアに手を取られた俺はマチスとメリンと共に彼女の案内する場所へ移動する。
そこは建物こそ別れていたが、ギルド本部の敷地内にある地下牢で収監できる牢がかなり多数存在するもそこに入っていた者は少数でその殆どが空だった。
「祝福などの特殊な力を持たない私たちに捕まえられるのは、能力の低い人だけなんです……」
つまりハイスペックな祝福を得て悪事を働いている転移者や転生者は野放しというわけか。
地下牢の通路を暫く歩いていると、見張りというか番人のような男がいてミーシアにそっと耳打ちされた彼は目を丸くしていた。
「まさか!? あのタケロウが……ですか?」
「ええ、そのようです。―――ではカツアキさん、こちらの牢の中へお願いします」
ミーシアは俺とタケロウとの戦いを見たわけではなく、アイテムBOXの能力も目視できるわけではないので、彼女とて未だ半信半疑なのだろう。
「何があるかわからないから、皆は牢の外で待っていてくれ」
マチスやメリン、そしてミーシアたちがお互いの顔を見ると、ゆっくりと頷いて一人で牢の中に入る俺を見守っていた。
「じゃあ、いくぞ―――解放!」
俺が牢の床へ手のひらを向けながら『解放』と叫ぶと、捕縛したときと同様にブンッと音を立てて気を失っている横向きに倒れているタケロウがそこに姿を現して、心配そうに見つめていた皆が『おおっ』と一斉に感嘆の声を上げた。
未だタケロウが意識を取り戻していないところから察するに亜空間だと思われるアイテムBOXの内部は時が停止しているのかもしれない。
タケロウが気絶していることを知り、自分たちの身の安全を確認した皆がゾロゾロと牢の中へ入ってくる。
「暗殺拳もそうだが……改めて考えるとこの力も凄えな」
「ええ、本当に……」
マチスとミーシアがタケロウを凝視しながらそう呟いていた。
「ああ、そうだ。もう一つあったんだ」
アイテムBOXの中に入れていた別の物を思い出した俺は、タケロウと解放した時と同様に自分だけが見えるストレージ内の中に残っていたそれを頭の中で念じながら放出する。
すると、俺の手のひらの前から一本の剣が表れてそのまま床へ落下した。
「これってもしかして……タケロウが祝福で得ていた草薙の剣ですかっ!?」
ミーシアの問いかけに俺は『ああ』と答える。
「これもギルドで管理して貰えないだろうか」
「えっ!? 本当ですか? カツアキさんの戦利品ですのに、私たちに頂けるのですかっ?」
目を丸くしながら驚きの声の上げるミーシア。
「タケロウも最初から悪い奴じゃなかったかも知れない。それと同じで俺だって自分の力に溺れたらどうなるかわからないんだ。だから、そのときは遠慮なくその剣で俺を切ってくれ」
そんな俺の弱気な言葉にメリンが『カツアキ様に限って絶対そんなことはありませんっ』と何の根拠もないのにそう言ってくれて、マチスは『やっぱ勿体ねえな』と呟き、ミーシアは俺の手を両手で握りながら『やった! やった!』嬉しそうに喜ぶという三者三様の反応を見せていた。
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