第四十章…「その身の真実は…。」


『突如として起きた爆発事件から一週間、今だ辺り一帯の封鎖は解かれておらず、関係者各位からの不安の声が多く噴出しています』

 テレビから流れてくるニュースには、鬼という単語は一切出てこない。

 あれから一週間、何事もなく日常は戻ってくる…という事は無いものの、平穏はその姿を見せていた。

『向寺夏喜さん、診察室へお願いします』

 俺は、足の事とか、定期健診も兼ねて病院に来ていた。

 いつも通っている個人経営の病院じゃなく、ご丁寧にココへ行ってくれ…と夜人の人らに言われてきた大きな県立病院だ。

 足の方もついでに見てあげるから…と、通っている所に連絡済みで、聞きたい事も少なからずあったから、断る事なく今日を迎えている。


---[01]---


 診察室…というには重々しい場所、診察室へと向かう途中、看護師に連れられて、気づけば診察室ではなく応接室のような場所へと連れて来られていた。

 この足になってから病院に行く機会は増えたとはいえ、大きい病院に来る事はほとんどないし、病院にもこういった部屋があるのか…と、当たり前な事にちょっとした驚きを覚えている。

 そんな当たり前…に驚く自分に呆れつつ、俺は応接室にいた先客に視線を向けた。

『やあ夏喜君、毎日のようにすまないね』

「・・・大切な事だからな」

 そこには、エルンがテーブルを挟んだ反対側のソファーに座って、挨拶代わりに手を振っていた。

 俺は看護師に促されるまま、彼女と向かい合うようにソファーへと座る。


---[02]---


 それを見届けて、看護師は部屋を後にし、応接室には俺とエルンの2人だけになった。

 少しの間…お互いに口を開く事はなく、病院という比較的静かな空間の影響もあり、不気味さすら感じる静けさが部屋を支配する。

 話すべき事はあるはずだけど、何から話せばいいのは決めかねていると、エルンの方がまず先に話し始めた。

「色々と聞きたい事はあると思うけれど、まずは君に報告がある。フェリ君が昨日…目を覚ました。今朝も健康を確認したが、身体面、魔力面と、共に健康状態は良好だ」

「そう…か」

 フェリスという存在、ソレは俺自身のもう1人自分と言えるモノ、その存在を失わずに済んだ…、その事実は嬉しいモノ…嬉しいモノのはずなのに…。


---[03]---


「・・・」

 エルンの言葉を聞いた俺は、それ以上、言葉を返す事ができなかった。

 視線を少しだけ落として、エルンと目を合わせる事すらできない。

 嬉しい…、嬉しいけど、それ以上に、自分の胸の内には、不安が膨れ上がっている。

「大丈夫~? なんか顔色が悪いように見えるけど」

「体調は…問題ない…と思う」

「歯切れが悪いな。君が最後にフェリ君になったのはいつかなぁ~?」

「・・・いつだったか…、この一週間は少なくともフェリスとして生活した記憶は無い」

「まぁそもそも彼女は寝ていたからねぇ~」


---[04]---


「そう…だな…。アイツは、いつも通りの…てのも変な話だけど、その…」

「いつもと変わりない気はしたねぇ。少なくとも、君がフェリ君として天人界で目を覚まして以降の君らしい受け答えだったと思うよ」

 用意されたお茶を飲み、エルンはいつになく真剣な表情でこちらを見て来た。

「まだフェリ君には無理をさせられないから、詳しい話を聞けていないけど、目が覚めてから一晩経っているし、記憶の引継ぎが行われていないか…と思ったんだけど…」

「今日はその話をしに?」

「それもあるけど、君は一応関係者…て事で、夢だ何だと誤魔化しも利かないから、ちゃんと話をして、起きた事を整理させる必要がある…と判断したまでだよ」

 関係者…関係者か。


---[05]---


 確かに間違ってはいない。


 悪魔界での一件、フェリスが悪魔界の学校を離れた後、何があったかと言えば、はっきり言って何も無かった…。

 イイ事だ…、実にイイ。

 学校の周辺に悪魔が集まって来はしたけど、出入り口を全てフィアが氷漬けにして通行不可にしたから、悪魔との接触はなくなり、あそこでどれだけの時間を過ごしたのかわからないけど、夜人の助けが来た時…、手に持っていた銃器の重みや悪魔に襲われる恐怖で、ソレを持つ手を震わせる必要がなくなった事実に、ホッとするどころか、脱力してその場に座り込んだまま立つ事さえできなかった。

 あの場にいた人達は、夜人に連れられて、社会復帰するためにリハビリするらしい。


---[06]---


 リハビリと言っても、起きた事は現実じゃない…と何も無かったと…、洗脳するようなやり方らしい…。

 そんな事で、事態が丸く収まるとは正直思えないんだが…。

 時間が経った今では、幾分か冷静を取り戻している事もあって、そもそもが非現実的な出来事で、本人たちはソレを必死に否定しようとするだろうから、他人…しかもちゃんとした医者とかに、現実じゃありません…と言われた日には、体が自然と、ソレを飲み込んでいくんじゃないか…と俺は思うようになっている。

 それでも、一朝一夕で済む話じゃないだろうし、だからこそのリハビリだろう。

 でも、それは悪魔界というモノの存在を知らないからこそできるモノ。

 俺はフェリスという存在を通して…というか俺自身が、その肌で悪魔界というモノを知ってしまった…知っていた…。


---[07]---


 ・・・知っているんだ…。

 ある事を知っている頭に、そんなモノは無い…と言う事は出来ない。

 誰かに言われた所で、鼻で笑ってしまうだけだ。

 だから、俺はその社会復帰のリハビリとやらはやっていない。

 その代わりに、何かあった時にいち早く対応してもらえるように…とホットラインを引かれたし、毎日のように簡易的な健康チェックをしてもらっている。

 人間界と比べて、悪魔界は魔力濃度が濃い場所だから、その濃度に慣れていない人間界の住人である自分は、すぐに健康へ影響が出ないにしても、ソレがずっとという事は誰も保証できない。

 その辺を危惧されたからこその対応だ。

 一応の関係者…という点も考慮されての事だろう。


「実際、そのリハビリってのは効果があるのかね」


---[08]---


「さ~。興味の湧く話ではあるねぇ~。夜人の人達は問題無いと言っているけど…、夢だの、集団催眠だの…、言い方…言い聞かせ方はいくらでもある。多分大丈夫なんじゃないかな。後は聞く側が、どの理由を自分の頭を正常化するために飲み込むか…だ」

「そう考えると、悪魔の記憶の改変は、ただただ便利に思えるけど…やっぱ怖い力だな」

「そうとも…、アレは存在しちゃいけない力だね。アレのせいで全てが疑心暗鬼の上に置かれてしまう」

「まぁでも、エルンはソレを治す手段を持っているし、不安は1つ無くなっているようなもんだな」

「あまりやる事はお勧めしないけど…、そうだなぁ~…うん、何かあった時は、私が何とかする事を約束しよう」


---[09]---


 記憶の改変、ソレがどれだけの影響をその個人に与えるのか、俺は知らない。

 現状、ソレをやられた経験のあるフェリスは、とくに変になっている所はない…が、俺の言葉に、エルンは、歯切れの悪い笑みを浮かべた。

 それは俺自身の無知のせい…だろうか。

 何も問題はない…と思っていても、実際はそんな事がないとか。


「何はともあれ、君の体に異常が出ていない事は何よりだ」

「一週間で異変が起きていなければ…、一安心…て所かね」

「概ねは」

「・・・やっぱ完璧とはいかないか?」

「いやいや、現状のままであれば、その体に影響は出ないと思うよぉ~。私が心配しているのは、君の中に、今回起きた一連の問題…そのフェリ君としての記憶が入って来た時にどうなるのか…が心配でね」


---[10]---


「フェリスの方の記憶?」

「そう。何事もなく君が悪魔界に入ってしまっただけなら、こんな心配をする必要はなかったけど、今回はどうなるのか、ちょっと予想もつかなくてねぇ~」

「つまり、フェリスの身に起きた事と次第によっては、俺の方にも何らかの影響が出るって事ですか…」

「そういう事~。だから…という訳じゃないけど、その辺の事をより詳しく知りたかった…ていうのはあるかなぁ~。フェリ君の事もそうだし、君の事も」

 一度こっちと目を合わせて、深呼吸の後に、エルンは再び口を開く。

「私が、そこまで心配になっている点には、いくつか理由がある。怪我の度合や先の戦いでの一種の暴走状態も…。目を覚ましたフェリ君自体は、特に変わった様子は無かったけど、記憶している一連の出来事は、無視できない。私の知っているフェリ君は、君自身…夏喜君だ」


---[11]---


「…はい」

「でも、あの私達の前に現れたフェリ君は、到底私の知るフェリ君とは異なるモノだった」

 そりゃあ、エルン自身、暴走状態…と言っているのだから、極度の興奮状態とも違うし、冷静とはとても言えない状態だっただろう。

「普段の君とは異なる…という点だが、君としてのフェリ君だけじゃなく、過去の…君ではない時の…本当のフェリス・リータを知るイクシア曰く、アレは…今ではなく過去の、君ではないフェリス・リータの印象を強く感じたみたいだ」

「・・・過去」

 私じゃない…、本来のフェリス・リータ…。

「どうしてそんな事になってしまったのかはわからないけど、気になる点としては、胸の傷だ?」


---[12]---


「胸の傷?」

「そう。ここね」

 そう言って、エルンは、自身の胸の若干下…、心臓付近を指差した。

「偶然か、それとも必然か、ソレはフェリス・リータが私の医療術室に運び込まれてきた時に負っていた傷の位置と同じだ」

「フェリスが、また死の縁を彷徨ったから、気を付けろって事か?」

「そんな簡単な話じゃないさ。君はフェリ君として生活をする事ができているけど、その体はフェリス・リータという人間の体だ。1から君が作り上げたものじゃない。別々の体じゃなく、同一の体…と言うのが重要だねぇ~」

「・・・そう…だな」

 1人の体に2人の存在…、言葉の意味は理解できるが、ソレが自分の身の事だと理解するには、幾ばくかの時間が必要だ。


---[13]---


 フェリスの体の感覚は、体験として覚えているけど、2人の存在…という点は、なかなか実感として感じない。

 二重人格とか、そういうモノとも違うだろう。

「まぁ混乱する話だよねぇ~。正直、私も話をしていて意味わからなくなりそうだし。・・・と言っても、2人の内の1人、本来の体の持ち主たるフェリス・リータという人間はいないに等しい」

「なんでそう言い切れるんだ?」

「まぁ…色々と? 孤児院にいる時は、トフラさんに君の魔力の流れを観察してもらっていたからね」

「人の知らない所で…」

「そこはそれさ。色々とわからない事が多かったからね」


---[14]---


「自分のためで、自分に危害が及ばなかったし、これ以上とやかく言うつもりはないけど、次からは教えてほしいね」

「もちろん、次からはね。・・・それでだ。続きだけど、人ってのは、背格好が同じ…とか、双子…とか、血縁者とか、魔力の性質が同じ…とか、他人といくら似ていたり…近い存在だったとしても、魔力の流れは違うんだよねぇ~。癖とかで魔力の扱い方が変わってくるから、流れも変わるんだけど、それはフェリ君…君も例外じゃないんだ」

「それで俺の魔力の流れを見続けて、フェリス・リータとしての魔力の流れが出ていないか、調べ続けていたって訳か」

「正解だよフェリ君」

「・・・」


---[15]---


 俺として、フェリ君…なんて呼ばれ方をすると、俺自身の名前じゃないから違和感を覚えるな…、フェリスの時は何も感じないんだが…。

「まぁ全く出てこなかった訳じゃないんだけどねぇ~」

「出てくんのかよ」

「限定的に…ねぇ。夏喜君は何処でソレが出てきたと思う?」

 どこで…?

 普段の生活で何も変わらない中で出てくる瞬間…。

「魔力に関連した動きの中で、一番変化が起きそうなのは、戦闘とか…そういうタイミングだと思うけど」

「ん~。当たらずとも遠からず…というか、ほぼ正解でもいいかなぁ~。それは限界まで力を…魔力を振り絞った戦いをした時だよ」


---[16]---


「・・・ただの戦闘じゃなく、もっと限定的…て事か」

「そう。何をきっかけにしてか、フェリ君の魔力の流れ変化する事があった。まぁソレは最初だけで、時間が経つにつれて、いつもの君に戻っていったけどねぇ」

「ちなみに、どの戦闘の時に変化したか教えてくれ。限定的って事は、訓練とかの戦闘じゃ変わらなかったって事だよな?」

「うん、確かに訓練とか、軽い戦闘行為の時には、さほど大きな流れの変化は起きていないねぇ。今回の件は例外も例外だから弾くとして、それ以外だと、一番大きかったのは、エアグレーズンでブループと戦闘をした時だ。その次はヴァージット君関連の悪魔と戦った時の2点。まぁ2点と言っても悪魔の時は、変化は確かにあったけど、そこまで大きいモノじゃなかった。ちょっとした波紋…乱れ程度だ。でもブループとの戦闘後のフェリ君は…」


---[17]---


「別人だった?」

「起きるまでの君は別人とまではいかないけど、所々普段とは違う流れを見せていた。まさに別人…なんて言い方ができる状態は、今回のフェリ君の方だ」

 エルンはそう言って、冷め始めていたお茶を一気に呷る。

 そして、軽いため息をついた。

「しかも、所々…なんてもんじゃない。フェリ君が意識を取り戻すその時まで、別人のソレに変わっていた」

「・・・」

「その変化は、所々変わっていた時のモノを全身にしたのに等しい。そして、その魔力の流れは、恐らくフェリス・リータのモノ」

「その根拠は?」


---[18]---


「イクシアだ。アイツは私達のように、魔力の流れを見たり読んだりする事は出来ないけど、戦闘に関してのカンとかはズバ抜けて高い。肌で感じるモノとか、臭いとか視覚とか、何でもいいけど、体で感じ取ったモノを本能的に理解する事に長けてる。戦っている時、イクシアは、フェリスに昔の面影を見たと言っていた。雰囲気もそうだが、その戦い方も昔と変わらない…自分が倒したかったフェリスだった…てねぇ」

「自分が倒したかった…か」

 どんな戦いをしていたかは知らないけど、その域に行けるのか、それすら疑問だな。

「つまりだ。一時的とはいえ、体が過去の君ではないフェリスに置き換わっていた…て事になる」

「・・・それはどんな問題があるんだ?」


---[19]---


 本来の形に戻っていると言っても、それもまたその体に本来ある形だろ。

 既に作られている跡を辿っただけじゃないのだろうか。

「単純な記憶喪失なら、過去を取り戻す…という点でイイ傾向かもしれないけどねぇ。フェリ君のソレは、君の過去ではないだろ? 本来フェリ君という存在は異分子だ。もし、過去の情報が復活した時、フェリス・リータという人格が目を覚ました時、君の…フェリ君がどうなるかわからない。本来あるはずのないモノとして、あの体から弾かれるのならいい。フェリ君として目を覚ます事がなくなったとしても、君という…向寺夏喜という君自身が健在だからね。失うモノがあるようで無い…と言える。でも…もし、フェリス・リータという存在とフェリ君が混ざりあってしまったら…」

 背中を冷たい何かが流れ落ちる。


---[20]---


「もし混ざりあってしまったら…、ソレはフェリス・リータでも、フェリ君でもない別の何かになってしまう。でも、それだってまだいい方だ。一番の最悪は、別々の存在が混ざり合う事も共存する事も出来ずに両者共に消滅する事だ。あくまで可能性の話…だけどねぇ」

 消滅…消滅か…。

 無くなるって事は…、つまり…死ぬ…て事か…。

 フェリスとして起きる事ができなくなる…なんてレベルじゃなく…、俺自身も…。

「・・・でもさ、そうは言うけど、結局今までも目を覚まさなかった…というか、本当のフェリスが表に出てこなかっただけで、俺と彼女は、あの体の中に居たんだから、今更消滅とか、そう言うのもないんじゃないか?」

「いや、あの体には、フェリ君しか存在していないよ。存在していたとしても、それは残りカスみたいなモノだ。あの体に宿っている魂…存在は、確かに君だけだ」


---[21]---


「・・・いや…でも、あの体はやっぱり俺じゃなくてフェリスのモノだろ? でも俺だけ…て、それじゃまるで、抜け殻みたいじゃないか? 魂だのなんだの…俺はよくわからないけど、中に何も無いとか…死体と同じだ」

 まるで…、まるで…人形だろ…。

「死体…か。まぁそれも当たらずとも遠からず…か。夏喜君は、私達が人の生き死にをどう判断すると思う?」

「どう…て、普通に心臓が止まってるとか、息をしてないとか…、そんな所じゃないのか?」

「それも間違ってはいないねぇ。でもそれはあくまで肉体機能が停止しているかどうか…しか見ていない」

「だから、その体の機能が止まっていたら、死んでるのと同じじゃないか」


---[22]---


「いや、それは正確な死じゃないんだよねぇ~。私達にとっての死とは、魔力の無い「無」だよ」

「…無?」

「そう。生あるモノ、その生そのモノである魔力、君も実感していると思うけど、魔力による治癒は、効率よく治療する上では知識が必要になるけれど、単純な身体能力向上時にもその体の回復能力は向上する。その時、君はどう治療するのか、どうすれば体は治っていくのか、考えた事はある?」

「・・・ない」

「そりゃないよねぇ。私だって明確にこうしたい…て治療をする時以外は考えてやったりしない。それでも、魔力があれば、体は治癒していくんだよ。その体の宿主の意思は必要とはしない。つまりだ…。その体に魔力が流れているならば、まだ生きていると言えるんだよ。実際、心臓を貫かれたって、死んでいない人もいるよねぇ」


---[23]---


 そう言って、エルンは俺の方を見る。

 俺は反射的に自分の胸を触った。

 俺じゃない…フェリスの胸元…、心臓の部分を…。

「でもソレと本当のフェリスが存在していない…てのと、どう関係してくるんだ?」

「魔力の有無は生死の話、魂…その人の存在は、その人固有のモノを見る」

「固有? ・・・魔力の流れか?」

「そう。その流れは、その人間固有の形だ…、その人をその人たらしめるモノだ。その流れが途切れた時…、その人間は居なくなる」

「…でも、人は経験してきた事の積み重ねで、その人間を作っていく。その経験は記憶で、記憶は頭に入っているなら残っているんじゃ…」

「君は、フェリ君じゃないフェリス・リータとしての記憶を思い出せるのかい?」


---[24]---


「・・・いや…それは…」

「すまない、意地の悪い質問だったねぇ~。記憶の事に関しては、しっかり調べがついてる。記憶改変なんてやる奴らがいるんだ…、ちゃんと調べるよ。その結論として、記憶は無い事になっている。少なくとも、悪魔のあの記憶改変は行われていない。フェリ君が目を覚ました後も、診療ついでにやってるし、その影響だと思うんだけど、君は悪魔の記憶改変の影響を受けていなかったろ? でも、フェリス・リータとしての記憶は、取り戻していない…違うかい?」

「…違わない」

「私の所に運ばれてきた時、フェリスの体は確かに魔力があり、死んではいなかった。実際、今も生きている。でも、魂はそこには無かった。魔力の流れは意識の有無に関わらず、その流れを止める事はない。眠っている時にも魔力は流れ続ける。だからこそ君の魔力状態を診る事ができていたんだから」


「・・・」


「だからはっきりと言っておこう。フェリス・リータという人間は、もう死んでいるんだ。もういないはずなんだよ。あの体には、フェリ君しか、存在していないんだ」


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