第三十章…「その目に宿るモノは。」


「フィー、大丈夫?」

 それはもはやただの決まり文句…、彼女の状態は明らかに傷を負った負傷状態で、大丈夫な訳がない…。

 でも、何を言えばいいのか…それがわからなくて、まず最初に出てきた言葉がそれだった。

「大丈夫」

 私の言葉に、簡潔な言葉が返ってくる。

「そう…、ならいいんだけど…、向こうの人たちも無事だから、まずは保健室の方に戻りましょう」

「はい。」

 フィアは返事と同時に、俺のいる保健室の方へと歩いて行く…。

「・・・」


---[01]---


 私はそんな彼女の後をすぐに追わず…、倒され…灰となって消えていく悪魔を見た。

 彼女が持っていたはずの武器はバット1本、それを証明するように、硬い物で潰された頭も悪魔の亡骸もある…、でも、私が気になるのはそこではなく、もう1体の方…、胴体をザックリと斬られた悪魔の方だ。

 鈍器じゃなく、明らかに刃物で斬られた痕…、ここに来る直前の戦いで、彼女がその止めを刺した所を私も見た…。

 今、彼女が持っている剣…、多分パロトーネで作られた剣だけど、アレはあくまで訓練用の疑似武器を作り出すモノとして私は認識している…、けど他にも使い方があるのか?…、それとも、風の魔力とか…なにか特別なやり方で武器として使えるようにできるのかな?

 もしそんな方法があるなら聞いてみたいけど、今のフィアは近寄りがたい。


---[02]---


 怪我をしていた…、かすり傷とかそんな怪我ではなく。血の量からしてそれなりの傷だ…、でも、彼女はその怪我の苦しみを表に出していなかった…、痛みに顔を歪める事もなく、何事も無かったかのように、こちらの言葉に受け答えをして、保健室の方へと歩いて行った。

 見た目ほど大した傷でもないのか…ソレはわからないけど、少しぐらい表情に現れていてもいいだろう。

 それなのに彼女の表情には「なにもなかった」。

 戦闘をして…怪我をした…その直後の表情とはとても思えない。

 感じ方次第…人それぞれ…と言ってしまえばそれまでだけど、その表情には、感情と呼べるモノが無いように感じた。


「フィー、コレ取って来たから」

 保健室に戻った私は、まず先に、彼女の剣を見せる。


---[03]---


「・・・」

「あと、役に立てばと思って、あの家に置かれていたパロトーネ、これはエルンが置いていったヤツだと思うけど持ってきた。何がどういう効果のモノか…、正直大半がわからなかったから、とりあえずそこにあったモノを全部、コレに治療に使えそうなのはある?」

 パロトーネはどれもこれも、形はチョークと同じ小さな棒状のモノばかり、違いがあるとすれば、色とか模様とか、それらが千差万別にある…、その中で何とか覚えられたのは疑似武器を作り出すモノ…、覚えた…というよりそればかり使ってたせいで覚えてしまったというか…そんな感じだけど。

 そんなパロトーネが詰まった箱から1本取り出し、自身の傷を負った場所に当てる。

 手の平が光に包まれ始め、治療をし始めた事が見て取れた。


---[04]---


 治療に使えるモノが合って、とりあえず一安心だ。

「ふぅ…」

 一息付ける状況…だと思うけど、それにしても…これからどうしたものか…。

 一応…ここに来る途中、全部とはいかないまでも、方角的に学校を目指してた悪魔達を倒してはきたけど…、そんなものはただのその場しのぎにしかならず、今後どうするのか…の根本的な解決にはなっていない。

「…その様子では夜人の方達との接触はできませんでしたか」

「う…うん」

 決して自分が悪い訳ではないけど、無表情で何の感情も籠っていない目で見られながら言われると、まるで自分が責められているような罪悪感に襲われる。

「人っ子一人いなかったわ。作業途中のモノも全部ほっぽって消えたというか、まるでみんな一斉に神隠しにでもあったような、そんな状態だった」

「…その神隠しが何なのかはわかりませんが…、助けの目途が立たなかったという事は、理解しました」


---[05]---


 フィアの言葉を聞きつつ、周りに視線を巡らせる。

 皆意気消沈というか、心ここにあらずというか…、絶望のどん底で気力が完全に無くなっているように見えた。

 助けの目途が…とか、駄目だった…とか、マイナスになる言葉はできるだけ避けたいように思って、フィアから出たその言葉に、周りの様子が気になったけど、無用な心配なようだ。

「…それで…、見慣れないモノを色々と持ってきたみたいですけど…、それは夜人の方達の装備ですか?」

「ん? あ~、そう。使えそうなモノを片っ端から持ってきたって感じ」

 私はそう言って、持ってきた装備を一個一個見せるように置いて行った。

「…と言っても、まともに使えるのは、やっぱ刃物類かな。ライフルとか銃系統の得物は、ここに来る途中で使ってみたけど、ま~当たらない当たらない…」

 映画なりアニメなり、もっと簡単に当てているイメージがあったけど、やっぱソレはイメージの域を出ないモノだった。


---[06]---


 最終的に10メートル圏内まで寄って撃つ…挙句の果てにはゼロ距離射撃までし始める始末…、結果を広げて見れば、銃なんて使わずにいつも通りの戦い方をしていた方が、疲れないまである。

「当たり所によるけど、当たれば2~3発で悪魔も倒せるけど…、やっぱ練習というか訓練が必要ね。仕えなきゃ、ただただ重いだけで疲れるわ」

「…そうですか」

「それでも、バッド片手に悪魔を相手にするよりもいい。その威力は保証されているんだから」

「…使えなければ意味ありませんよ」

 フィアは、自分の傷を治し終えると、箱から新しくパロトーネを取り出して、今だ意識の戻らない義弘の方へと歩いて行く。

 そして、パロトーネを使いながら、その手を少年の額に当てる。


---[07]---


「…体内の魔力の流れが乱れているので、それを整えます。しばらくすれば目も覚ますでしょう」

「そう…。それは良かった」

 どことなく淡白な感じのするフィアの声色に、私は心配が募る。

「フィー。ごめんなさいね。ここを離れたりして」

 もし、彼女が怒っているのなら、ちゃんと謝っておきたい…。

「いえ、遅かれ早かれ…、夜人の方達と接触しなければいけませんでしたから、あなたの判断を否定はしません。私とあなた、どちらがこの場を離れるのかに関しても、単独行動をする事を踏まえれば、戦闘能力の高い方を優先した方がイイと私は思います。ですので、あなたがこの場を離れた事に対して、謝罪の言葉を口にする必要性はありません」

「そ…そう…」


---[08]---


「あと、今の私の姿は、あなたの目には変に映るかもしれませんが、決して問題の無い…一時的なモノですので、気にしないでください」

「一時…的?」

 一時的…とは?

 言っている意味が分からないのだけど…、気分とかそういうものだろうか?

 それを不機嫌とか…気分的な問題と言うと思うけれど、感情こそ薄く感じるこの会話の中に、敵意めいたモノは一切なく、機嫌を損ねているという印象も、正直違うように思えた。

『あ…あの…』

「…ん?」

 フィアの心情を読む事ができず、不完全燃焼気味になっている中、講師の男性が話しかけて来る。


---[09]---


「さ…さっきは…その、生徒を助けていただいて…ありがとうございました」

 俺は今意識を失っている…、助けてくれて…もなにも、そりゃあ必死にもなる…て話だ。

 まぁソレをこの人達が知る事はないんだけど…。

「いえ、やるべき事をしたまでですから」

「それと、あなたを追い出すような形をとってしまい、そちらの謝罪もさせてください…」

 謝罪か…、理由はどうであれ、フィアと話した通り、遅かれ早かれの問題でしかない…、別段謝罪を受けた所で、謝罪を受けるような事をされていないというのが、私にとしての見解なのもあり、なんとも受け取りづらい言葉だ。

 今のフィアも理由こそわからないけど、こういう気持ちかな…。

「あなた達が無事なら、何の問題も無いですよ。頭を下げる必要も何も無いです」


---[10]---


「ですが、こちらは命を助けられた身です。あなたのおかげで生徒の命が助かったのですから、命の恩人に対して行った無礼は、出来る限り謝罪しておかなければ…」

「そう…ですか。そこまで言うのなら受け取りますけど…」

 俺の行動は…まぁ、この講師の人を助けに入った結果だと思うけど、無茶をし過ぎた結果だ。

 怪我がなくてよかったけど、同時にその無茶な行動にはお叱りを入れたい…、まぁ、自分自身の行動だから、それをしたら自分自身のダメ出しになって、普通に他人を叱るよりも気分の悪くなるだろうからやらないけど…。

「それで…その…、あなたは、国防の方…だったりするのですか?」

 国を市民の安全の守るための国防隊…が、そう思えるのも仕方ない…か?

 言いたい事はわかる…、自分達の安全の為と、心の拠り所を得るためにも、助けの手を探すのは当然だ…、でも私は違う…、隠す事で彼らの心のモチベーションは上がるかもしれないけど、これからの行動を考えれば…、ここで彼らのために…と嘘をついても、良い事はないだろう。


---[11]---


 これからの行動…それは、十夜を探す事だ。

 自分達がこちらに来てしまっているのだから、十夜も男に連れられてこちらに来ている可能性が無い訳じゃないはず…、ここにいる全員を引き連れて探し回る訳にもいかないから、探しに行く人間だけがこの場を離れる事になる。

 夜人の手を借りる事ができたら、どれだけ楽だったか…、フィアの怪我をした姿を見る事がなかったら、どれだけ気が楽だったか…、こちらで問題が起きてしまった以上、下手にこの場を離れる訳にもいかなくなって…、だからこその…これからどうしよう…という問題に当たるのだ。

「いえ、私は…」

『そうです。私達は国防隊の職員です』

 講師の質問に対して、首を横に振ろうとした時、こちらよりも早く、フィアの肯定の言葉が飛んでくる。

「え?」


---[12]---


 突然の事に、思わず彼女の方に視線を向けてしまう。

 義弘の治療を終えて、こちらに向き直っていた彼女は、改めて自分達はあなた達の味方だ…と口にした。

 いや、確かに敵ではないけど…。

「やっぱりっ! あなたが広げた装備、演習場の公開訓練で国防隊の人達が使っていたモノだったので、もしやと思ったのですが、やはりそうでしたか。それならそうと早く言ってくださればよかったのに」

 公開訓練に行くとか、この人案外ミリタリー好きだったりするの?・・・てのはこの際後回しでいい。

 私は、自分の気持ちを訴えかけるように、不満げな表情を浮かべながら、フィアの方を見る。

「国防隊と言っても、その中でも機密な分類に入る特殊部隊の人間なので、おいそれと口外できないのです。ご了承ください」


---[13]---


「そ…そうでしたか…。で…ですが、私達は助かる…という事でいいんですよね? 装備を持って来られたという事は、部隊が近くにいるとか…」

 装備と言っても、今じゃあり得ない剣とか持ってきてるんだけど…それはイイのかな…?

 講師は、暗い雰囲気は消えないまでも、どこか光が見えて救いを手にできた幸福に満ちたような表情を浮かべて、フィアの方に詰め寄っていく。

 この様子を見る限り、普通じゃあり得ない事も、些事として頭の中で処理されていそうだな。

 これらの会話…、藁にもすがりたい救いを求める人間達には、自分達を守ってくれるモノがイコールで繋がっている国防隊という言葉に、周りの人間の落ちていた視線もこちらに向いく。

「…残念ですが、部隊は近くにいません。彼女に応援を要請するために向かってもらいましたが、もぬけの殻だったそうです。あるのは装備だけだったと」

「そ…そんな…では私達は…」


---[14]---


 どういう意図があったのかはわからないけれど、せっかく灯った安堵の顔が、再び陰っていくのはわかる。

「だ、大丈夫です、大丈夫。そんな…そんな暗い顔をしないでください、皆さん」

 これはいけない…と、私は講師とフィアとの間に割って入り、講師の肩を叩きながら励ます。

「ちょ~と彼女と今後の事で話をしなければいけないので、ここを離れますね。大丈夫ですから、皆さん。問題ないですから」

 苦笑ながら笑顔を浮かべ、私はフィアの手を引いて外へと出て行く。

 まったくらしくない…。

 あの人達にフォローする私も、何より今のフィアが…。


「すいません。今の私には、取り繕う事が少々難しいもので」


---[15]---


「すいません…て」

 自分の発言があの人達にどういう影響を及ぼすのか、ちゃんとわかっていた…みたいな言い方だ。

「まぁ事実ではあるけどね…、タイミングというか…」

 相変わらずの無表情、確かにフィアのはずなのに…、同じ顔をした別人を相手にしている気分になる…。

 普段、どういう思いで…考えで彼女が生活をしているか…なんて、私にはわからない…、全部の言葉…態度…それらの本音と建て前を見分けられている訳もない…、フィアがどの程度の気配りをしながら生活しているかわからない…。

 彼女の取り繕う事が難しいという言葉が、正直私をどの程度のレベルで受け取ればいいか…、分からないし困る。

「悪魔と戦って、何かされたの?」


---[16]---


 私がここを離れるまでは、いつも通りの彼女だった…、戻ってきてこの状態なら、原因はそこにあるだろう。

「半々です。あの戦闘での結果ですが、悪魔に何かをされた訳でもありません」

「そう…」

「正確には、私の「魔力の性質」…に由来する影響です。戦闘において負傷した私は、その負傷を意識から外す為、魔力の性質を利用…結果として、感情や思考する部分において、相手への気遣いの部分に欠落が生じている状態です。ただ魔力を使用するだけなら、こういった影響は出ないのですが、性質を利用すれば…このように…」

 感情とか思いやりが薄れる…て?

 いったいどんな力を使えば、別人みたいな状態になるんだか…。

「隠す事ではありませんが、今はそんな事よりも、この状況の打開が優先です」


---[17]---


「そんな事…て…」

 別人みたいになっている事が、そんな事…で済まされるの?

「その状態…というか、その力に、何か危険な事はないの?」

「現状、私自身に問題は生じてはいません。ですが、この魔力性質の事を知る方達は、多用を控えるように…と言っています。私も、使用し過ぎた場合の危険性は、十分理解していると認識しています」

「ん~…そう…」

 また反応に困る事を…。

 言い方にも含みがあるというか…、使い続けても安心…という事はないみたいだ…、それに魔力性質を知る人たち…か、なんか…あまり知られないようにしているような印象をうけるわね…、そもそも自身の魔力性質なんて、言いふらすような事でもないと思うけど。


---[18]---


「わかった…。歯に衣着せぬ物言いになっているなら、わざわざ嘘をつく理由も無いわね。取り繕わないんだから…」

「はい、そうです」

「…うん」

 やっぱり絡みづらさがあるな。

「では私の状況に対して、一応の知識を得てもらったという事で…、これからの事について話をしませんか?」

「これからと言っても…、どうしたもんか…て感じなんだけど、何かいい案があったりするのかしら?」

「いえ、その点においては何も」

「そうか…」

「悪魔界と人間界の行き来に関し、その方法について、私達は知りません。そのため、夜人の方達がいないという時点で、私達だけでの人間界への移動は不可能です。方法がわかったとしても、経験のない私達では危険性が高すぎる…」


---[19]---


 確かにそれはそうだ…。

 この世界への移動は、何か理由があってか、私達は教えてもらっていない…、今回のように完全なイレギュラーな世界移動が常日頃から起きているなら、それに対しての対策を教えてもらえているはず…、それが無いという事は、つまりそういう事なんだろう…。

 方法がわかったとして…、私達でリスク無くできるかどうか…、それも問題の1つ、フィアが言っている事は、まさにその通り…。

 結果、出来る事と言えば、遭難した時の鉄則に従うぐらい…かしら?

「そうですね。見ず知らずの場所…という訳ではありませんが、帰る方法がわからない以上、闇雲に動く事を避け、救助を待つのが鉄則かと。義弘さんが目を覚ませばあるいは…」

 確かにこの面子の中で唯一の夜人…になる前の見習い?…みたいな感じだし、世界の行き来の方法を知っていても不思議じゃない。


---[20]---


 それに…、義弘…か。

「どうかしましたか?」

「十夜の事が心配で」

 ただいないだけなら、まだ心穏やかでいられるだろうけど、攫われたとみて間違いない状態じゃ、ソレも望み薄…、ここでの行動予定が固まっても、その心配と不安が晴れる事はない…、むしろ…他の不安が、予定が決まる事で薄れ、より残った不安を刺激する結果となる。

「では、ここの防衛は私が引き受けますので、先と同じように、フェリさんには、周囲の巡回と共に十夜さんの捜索をするという事にしましょう」

「え…でも…」

 一時的に離れただけで、フィアがこんなになってしまったのに、また離れたりしたら、今度は口すら利けなくなるんじゃないか…と、縁起でもないがそんな嫌な想像が過る。


---[21]---


「大丈夫です。過去、今以上に自分という存在を消失させた事はありませんから」

「…それは安心しろって言ってるの?」

「そのつもりです」

 ・・・わかりづらい…。

 また悪魔に襲われたら…、その不安は、どうあがいた所で消える事はない…、一応は戦える訳だし、装備も揃って気持ち的にも不安は薄れる…、ならソレを信じて進むのがベストか?

「先と違って、今は要救助者達も、私達の言葉に耳を傾けてくれるはずです。であるなら、今まで以上に襲われにくい環境を構築するだけです。やるとするなら…そうですね…、籠る場所を上の階に移し、階段などの通路を封鎖します。封鎖には、フェリさんが持ってきたパロトーネの中に、エルンさんが戦闘で使用するパロトーネが入っていましたのでソレ利用します。本来の用途は氷塊などを作り、それらの形を変えて攻撃するモノですが、氷塊を作るという点で、通路の封鎖が容易になるでしょう。一応、ちゃんとした装備もありますから、特殊な事が起こらない限り、これである程度の時間は稼げるはずです」


---[22]---


「お…おお」

 不思議と…なんか大丈夫そうに聞こえる…、いや実際に時間稼ぎ…という点では、安全を考えた案だ。

「これなら、フェリさんが欠けても、私1人である程度は防衛が可能です。それに、十夜さんを探すと言っても、その間に、夜人の方と接触する事ができるかもしれません。今後の事を考えれば、周囲を捜索するというのは、遅かれ早かれやらなければいけない事です」

「う…うん」

 普段から頼もしい子だったけど、このフィアはなんか、別のベクトルで頼もしい。

 色々と欠落した…と言っても、フィアはフィアな訳だから、この会話もフィア本人から出た言葉だけど、纏う雰囲気の違いでこうも変わるモノ?

 今までのフィアが回復薬を常備した安心感なら、今のフィアは、自分を守ってくれる盾を持つ事による頼もしさがある…。


---[23]---


 なんだろう…、今までは何度か愛くるしさを感じたりしてたけど、今は格好良さを感じた。

 なにはともあれ、その格好良さ、頼もしさは、当てにしてイイモノと感じられる。


 そして私達は、保健室へと戻り、今後の方針について、皆に話をした。

 …と言っても、私が助けを求めて周りに仲間がいないか探しに行くから、あなた達は防御の体制をちゃんと作って待ってろ…ただそれだけの事だが。

 この訳の分からない状況は、結果として、要救助者達に混乱を招いたものの、だからこそ何かにすがりたいという感情を増幅させ、ある程度の無理を言っても飲み込んでくれる状態となっていた。

 普通だったら気になる事も、助かるためなら…という理由から些事になるのも含めて…。


---[24]---


 あ~だこ~だと文句とかその他諸々をわめかれるより楽でいい。

「じゃあフィー、私はそろそろ」

「はい…」

 この学校のキャンパスは3階建て…、その3階の角部屋に人を集めて、一応この世界で作り出された毛布などもまとめて、一時的な避難地を改めて作り出す。

 食料は…、用意出来たらよかったけど、この世界で作り出されるモノは悪魔も含めてある程度のダメージを負うと消滅してしまう…、結果…調理する行為…それ以前に食べる行為を行う事で消滅する…、要は食べられないモノだった。

 周囲の警戒や調査を終えたら、久遠寺家に行って、その辺の入用になるモノを集める必要がありそうだ。

 こうして学校を出て、十夜の影を探して動き回っていても、それらしい姿は見つけられない…、目に映る動くモノと言えば、歩く悪魔ばかり。


---[25]---


 悪魔は魔力に引き寄せられる…と言うが、近くに居る私には見向きもしなかった。

 その割には、学校にいた連中を襲ったのは、どこか引っかかる部分がある。

 人間界の住人は、魔力を有する者としては悲しきかな…底辺だ…、ソレがいくら集まっても塵も積もれば…なんて成果が出る前に人手不足が発生するだろう…、いくらフィアが一緒に居ても…。

 それともフィアに引き寄せられたのだろうか…、いや、それなら近くに居る私に寄ってこないのはおかしいと言うモノだ。

 無意識に体から滲み出る魔力量が違ったり?

 そんな話聞かないが…、なんか臭いの話を考えているようで嫌になるお題だな…、フィアは断じて臭ったりしていない…、むしろ良い匂いだ…、風呂上がりの石鹸の香りとフィア自身の香りが混じった匂いなんてのは…もう…て駄目だ駄目だ…らしくない…、フェリス・リータらしくない…。


---[26]---


「・・・」

 疲れてるのか?

 あれじゃ、まるで…私ではなく俺だ。

 私でいる時は、女体に対してだって感情は揺れ動かなかっただろうに…、何でそういう方向に思考が揺れる…。

「はぁ…」

 問題が解決したら、また休みを貰わないといけないかもしれない…、それこそ、また家族団欒を満喫して、幸福パワーをチャージしないと。

 さて…問題が終わった後の事を考えるのは終了だ…、後ではなく今を考えよう。

 闇雲に子供1人を探すにしては、悪魔界は広すぎる…、広い上に建物も大量…所狭しと並んでいる…、急ぐっていうのに何日時間を掛けるんだ…て話になるだろう。

 なら、何かしら目標を決めて足を進める必要がある…、今なら「悪魔の進行方向」…とか。


---[27]---


 最初は学校に向かっていたと思えたけど、さっきからちらほら見える悪魔達も、進む方向は同じようだけど、その先に学校はない…、その横を通り過ぎるような進み方だ。

 もしかしたら、あの時の悪魔達は、たまたまその途中に学校があっただけかもしれない…、あくまで可能性…、実は…なんて事もあるから断定はできないけど、何の手がかりも無い中で、引っかかりを感じる悪魔の動きは、手始めとしては十分な違和感だろう。

「さて…と」

 自分の腰には使い慣れた武器がしっかりとある…、ついでに久遠寺家から拝借した近未来的なデザインの日本刀、ハンドガン1丁、あとフィアから渡された複数のパロトーネ、偏りを感じなくもないが、装備としては十分だ。

 そして、私はもう1つ、腰に紐で取り付けたお面を触る。

 義弘や十夜と展示会で買ったお面の私の分…狐のお面…、人探しをする上で、何の効果も無いソレだけど、あの子と私を繋げている絆の1つだと私は思う。

 目に見えないし、触る事も出来ないし、何ならあるかどうかすらわからないソレをも頼りに、私は十夜を探し始める…。


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