第十章…「その違いに思う所は。」


「・・・んが・・・」

 自然と目が覚めた…気がしないでもない。

 さっきまで、もう二度と見たくないモノを見てた気がするけど、そんなモノは起きた瞬間に忘却の中に沈んでいった。

「はぁあぁあぁ…」

 ウチの意識を、また睡魔が夢の中に引きずり込もうとする証明と言わんばかりに、盛大に欠伸が出る。

 おかげで自然と目に涙が溜まるけど、それ例外には何も起こらなかった。

 眠気なんて何にもない。

「ん…」

 窓の前にある紙の…、確かフェリスが障子…と言っていた紙の窓が光を一杯に浴び、眩しくない淡い光で薄暗いこの部屋を照らす。


---[01]---


 目に優しく、その光も、ウチをまた夢に誘おうと揺らめいているように見えるけど、今日はそんな光にだって負けないぐらい、バッチリと目が覚めていた。

 なんでだろうか…と頭の中で考えてみるけど、その答えは何処にもない。

 とにかく、今日は自分でもびっくりするぐらい、良い目覚めだ。

『ん…』

 体を起こそうとした時、右手には重み…、甲殻や鱗で覆われた左手には微かな温かみを感じた。

 そこに、耳へと届く小さくも可愛い吐息の音。

 この感覚は久しぶりだ。

 ウチの腕の中で、背中を預けるようにフィアが、ウチの右腕を腕枕に寝息を立てている。


---[02]---


 …これがいつも通り、これがウチらにとっての…。

「・・・」

 だいぶ久しぶりに感じる要因はフェリスだ。

 ウチの寝床にフィアが潜り込む事も無くなってないけど、フェリスの所に行ってしまう事が多くて、結果的に激減、それでウチもフィアに釣られてそこにいくモノだから、今みたいな形になる事はそう無い。

 フィアの寝相が悪いのはそうだけど、なんでいつもフェリスの所ばかり…、柔らかみとか?

 アイツと比べたら、ウチの方は筋肉がついてて硬め…だし、小さいし…、その辺なのかなぁ~、いやそれだったらエルンの方に行けばいいじゃ…と思うも、それはそれで違う…と結論がすぐに出る。


---[03]---


「はぁ…」

 とにかく、久々な極上の目覚めだ。

 フィアが起きてたら、そのまま抱き着いていてもおかしくないけど、でも、まだフィアは夢の中、ウチのせいで起きちゃったら悪い。

 フィアの枕と化している自分の右腕から、ウチは枕にその任を返す。

 こういう時、自分の左手は硬いし…刺々しいし…、適任とはかけ離れたモノなのが恨めしく思う。

 そんな事を思うのも久しぶりだ。

 なんとか枕と役交代を果たしたウチは、立ち上がって使用済みの畳まれていない布団を片付ける。

 よく見たら、自分が今の今まで寝ていたのは、フェリスが使っていたはずの布団だ。


---[04]---


 今片付けた布団が、ウチが本来使っていたはずの布団、そしてフィアが使ってたはずの布団は、既に片付けられ、隅に置かれていた。

 当然、この部屋の中にフェリスの姿はもうない。

「起きるの早…」

 尻尾の先で痒い背中を掻きつつ、ウチは部屋を出た。

 厠に行きたいし…、喉も乾いたし…、腹も減ったし…。

 とりあえず、まずは厠だ。

 ウチは寝ている間に固まった体を伸ばしながら、厠へと足を延ばす。

 それにしても、昨日食った飯は、全部が全部美味くて、思い出しただけでよだれが出るってものだ。

 天人界にいる時は一日一回あるかどうかの空腹感が、こっちにいる時は定期的に襲ってくる。


---[05]---


 今感じている空腹感は、向こうにいる時にも感じるヤツだろうけど、この感じ自体は嫌いだ。

 それを、1日に何回も感じなきゃいけないと思うと、嫌な気分にしかならないと思ってた。

 でも、それを満たすモノが…なんて言うのかな、幸せと感じられるとは思ってなかった。

「フェリの奴、昨日の夜なんて言ってたっけな…。おい…おい…おいしい?」

 ウチは強くなる事に一生懸命で、学の方は全然。

 フィアに何度か教えてもらったけど、それでも身にはならなかった。

 とにかくそんなウチよりもフェリスは勉強とかできる…はずだ。

「そう、おいしい…そう言ってた気がする」


---[06]---


 ここの使用人も、おいしいですか…なんて、そんな風な事を聞いてきたし、きっとそれがここでの飯を食った時に感じた幸せを表す言葉のはずだ。

「おいしい…おいしい…か」


 厠を済ませ、今日の飯は何か、今度はどんなおいしい飯が出てくるのか、胸が躍り出した時、何か…どこか聞き慣れたような音が聞こえてくる。

 ドンッだの、バタンッだの、・・・訓練場とかでよく聞く音。

 その慣れた音に導かれるように、ウチの足は進む。

 渡り廊下か何か、別の建物に進む廊下の先に、少し大きめで高い建物があった。

「・・・」

 この寒い中、大きな扉をいくつも開け放ち、外気温と変わらない中で、フェリスと少年が組手をやっている最中だった。


---[07]---


 2人がウチの事に気付かない中、その光景を見ていて分かった事は、基本、少年が攻めでフェリスが受け、少年の攻撃を防いで防いで…、そっちから攻撃する事はない…て事。

 人に教える技量があるのかどうなのか…なんて、そんな事を言うつもりはない。

 その真剣な2人の顔は、遊びでやっているようには見えなかったから。

 何かの訓練…特訓…、この光景を見る限り、フェリスではなく、少年の方に付き合っているようにも見える。

 あの悪魔の一件以来、訓練の模擬戦で、フェリスの攻めの数が減ったように思うし、この訓練にはアイツもアイツなりに何か考える所があるのかもしれない。

『…ん?』

 そんな時、フェリスと目が合う。


---[08]---


 同時に意識を持ってかれた事で、少年への意識が薄まり、迫る攻撃に対処が遅れて、挙句の果てには足がもつれて尻餅をついた。

『だ、だいじょうぶ…ですか?』

 少年が不安そうにフェリスの方へと駆け寄っていく。

『大丈夫、ごめん。よそ見しちゃって』

 そう言って、フェリスは立ち上がりながら、再びウチの方へと視線を向けた。

「え? あ…ほ…他の、天人さま…で…すか?」

 フェリスに釣られて少年も、自身の後ろ、入口に立つ私に気付き、慌てたように頭を下げた。

「やめろ、そういうの。堅苦しいのは苦手だ。イクシアとかイクとか、どうしてもって言うならノードッグでもいい。とにかく天人様はやめろ」


---[09]---


 こっちにいて嫌な事があるとすれば、これだ。

 様様様と下から上げられるのは嫌い、ウチは偉くないし、偉くなりたいとも思わない。

「イク、どうしてここに?」

 隅に置かれていた手ぬぐいと…飲み物を2人分取って、フェリスが少年に渡しながら首を傾げる。

「厠に行ったら、何か聞こえてきたから来ただけ。むしろ何してんのか聞きたいのはこっちだっての。日も上ったばっかだってのに、何やってるのさ?」

「私は、この子の鍛錬に付き合うって約束してたから、それを果たしているだけよ」

「ふ~ん。で…、こいつは誰だ?」

 ウチの肩ぐらいまでの身長で、肉付きは普通、孤児院の男児と同じぐらいだから、シュンディよりも年下ぐらいの少年は、私から逃げるかのように、過ごしだけフェリスの後ろへ身を寄せた。


---[10]---


「オ…オレは、真田義弘…です…」

「義弘か」

 真田とその義弘という名前に引っ掛かりを覚える。

「あ~、よし君10歳」

「ど…どうしてそれを…」

 気になる引っ掛かりはすぐに出て、悪魔界で会った真田深琴、その印象が強い女の子供の事を思い出す。

 そして、出てきたソレも間違いじゃなく正解らしい。

「なにそれ?」

「こいつの母親と悪魔界で会ったんだよ。変わってるというか、好きが強すぎる感じの人だった」

「好きが強いはあなたもでしょ」

「何か言ったか?」


---[11]---


「何も」

「まぁいいや、それでなんでいきなり鍛錬なんてやってんのさ?」

 母親が夜人なら、その子供である義弘も夜人かその見習い…はたまたその予定、立派な夜人になるために…なんて理由か?

「あ~それは…」

「強くなりたいからッ!」

「うおッ!?」

 ぼそぼそというか、言葉を詰まらせる様にしゃべってた義弘が、唐突に声を荒げる。

 突然の事にウチではなく、フェリスの方が驚きの声を上げた。

「まだ小さいのに頑張るな」


---[12]---


 孤児院のシュンディも、なんだか強くなりたいとかなんとか、そんな事を言っていたような気がするが、歳の相応の願いだ。

 むしろ、ウチの時はそれ以外に何もなかった。

「それで…、なんでまたフェリなんだ? いつのまにそんな約束を…」

 相手は子供だし、自分の訓練の為…という意味ではあまり期待は持てないけど、こっちだと向こうみたいに体を動かせないし、動かす機会を作れるなら願ったり叶ったり、完全に出遅れた自分に喝を入れたい気分だ。

「訓練するにしたって、他にいないのか?」

 昨日とか、悪魔界に行った限り、夜人はそれなりの数がいる、決して少ない訳じゃないはずだ。

 ここは鍛錬をするための建物、それなりに立派な作り出し、それだけ力を入れて建てたなら、ここでの鍛錬に精を出す奴が他にもいていいと思うんだけど。


---[13]---


「基本的に夜人は悪魔界の方で鍛錬をするから、この道場を使う事はあまりないらしいわ」

「悪魔界か」

 それもそうか。

 ここじゃ、人としての力は鍛えられても、夜人として、悪魔と戦う力を鍛えるには役不足。

 あいつらは夜人って存在を隠してるらしいし、ド派手に訓練したら、その正体を隠せなくなるもんな。

「じゃあ、夜人の連中は、今まさに向こうで訓練してんの?」

「義弘が言うにはそうだって」

「じゃあ義弘は置いてけぼりをくらったのか」

「ち、ちがう…、オレ、まだヤトじゃ…ない…から」


---[14]---


「そっか。なんかするんだっけか?」

「夜人は、身体に悪魔の魔力機関を移植して、初めて戦う力を得るのよ。説明されたじゃない」

「そうだったな。じゃあ、夜人になるには何歳から…とか決まりがあるのか。ウチらで言う所の魔力機関の成熟…みたいに」

「エルンから聞いた話だと、13の誕生日を迎えてからだって。だから義弘が今10歳なら、あと3年ね」

 3年か…、長いのか短いのか…。

 いや、純粋に強さを求めるとなれば、もちろん基礎も大事だけど、最前線の力を手に入れられない期間と見れば、3年は相当に長いな。

「だから子供は向こうに行かずに、こっちで訓練すんのか。でも、1人で訓練じゃ、さすがに物足りないな。それなら、フェリでもいいから付き合わせないと張り合いもないか」


---[15]---


「でも…て酷いな。というか、夜人になるべく鍛錬してる子供は、別に義弘だけじゃないわよ。他にも何人かいる」

「いるのかよ。じゃあなんでそいつらと一緒に訓練しないんだ?」

「戦闘関連になると、ほんと容赦なく聞いてくるわね…。この子にも事情があるのよ」

「事情?」

「さっき言ってたでしょ? 強くなりたいって」

「あ~。だから他の連中が起きてくる前に、1人で訓練してたのか」

「そう言う事よ。まぁ起きてくる前にと言っても、子供は学校から帰ってきた後に訓練するんだけどね」

「学校? 子供の頃から兵学校に行ってんのか。すごいな」

「・・・違うわよ。こっちには義務教育で子供は皆、一定期間決まった年齢の時に、計算とか歴史とか…とにかく色々と幅広く勉強する事になってるの」


---[16]---


「そうなのか…」

 計算に歴史…、やれと言われたら、嫌だ…と即答するだろうなウチ。

『・・・常識…違…が・・・』

 フェリスが額に手を当てたながら何かを呟くけど、その部分はうまく聞き取れなかった。

「なんか言ったか?」

「何でもないわ」

「ふ~ん…。にしても、一日訓練してるだけじゃいけないってのも、嫌なもんだな。机と椅子に縛り付けられて、いつまでも呪文みたいな話を聞かされるのは、本当に必要なのかと疑問になる」

「必要なのよ、こっちの世界じゃ」

「そうか」


---[17]---


 大変なんだな、こっちの世界も。

「よしッ!」

 学校の話はどうでもいいけど、義弘が強くなりたいっていうのはわかった。

「何がよし…よ」

「何って、ウチもその特訓に付き合おうと思って」

「えぇ~…」

 ウチでもわかる…、あからさまに嫌そうな顔をするフェリスに、ウチは不服顔で、腰に手を当てながらその顔を覗いた。

 この少年の出現は、フェリスにとって新しい刺激になるはず。

 死の淵から帰還したフェリスは、今まで教えられる側だった…、でも今は教える側に立ってる。

 あの時…、ウチが追い求める背中が立っていた場所に立ってる。


---[18]---


 もしかしたら、記憶が戻るきっかけに…、なら…。

「ウチがいないと始まらないだろう」

「なんでそうなるんだよ」

「いいじゃん別に。夜人の子供達が、どのぐらい戦えるのか興味があるし」

「はぁ…そうかい」

 まぁ子供の強さがどんなもんか興味があるのもホント。

 孤児院基準だけど、向こうの子供の強さは大体把握してる。

 その差がどんなものか、興味があった。

「それにさっきの組手、フェリは全然攻めてなかっただろ。アレじゃ経験が偏っちゃうっての」


---[19]---


「そこは…、反論をする気は無いわ。私も思う所があるのよ、その辺はね」

「じゃあ、そう言う事で。義弘はそれでいい?」

「え…あ…はい」

 朝だからこその体の固まりをより一層丁寧に解し、義弘が頷くのを見て、ウチは飛び跳ねながら最後の確認をした。

 体の調子は問題なし、ここと違って悪魔界には魔力が潤沢にあった様で、言われていた程の魔力不足からくる気だるさはない。

 それでも、普通にしている時ならともかく、少し動くだけでいつもと違う息苦しさにも似た何かは、確かにそこにあった。

 戦う…動く…その辺の事に関して、自然と魔力で体を強化する癖がついているから、少しの事で何だかんだと魔力を消費し、その分をいつも通り元に戻せないからこその苦しさ。


---[20]---


 義弘の訓練に付き合うと言ったけど、魔力を使えないからこその戦い方…、それがきっとあるはずだ。

 まぁ混血なウチは、竜種と人種、両方の「特性」を持ちつつも、どっちつかずとも言える存在、竜種の良さも持っていればその逆もしかり、人種の部分もまた同じ。

 その関係で、魔力の扱いも竜種のフェリスや人種のフィア達以上に、慎重を要する部分がある。

「ウチは竜種と人種の混血だから、魔力の扱いが大変なんだよ」

「初耳だ」


---[21]---


「そうだっけ? 覚えてないけど、おしえてなかったか? じゃあ簡単におしえてやる。竜種は肉体強化に特化してて、人種は魔力制御に特化してる。単純な近接戦においては竜種が強く、魔力を使った術戦なら量のゴリ押しが無けりゃ人種が有利だ。魔力への抵抗力…耐性は魔力で体を強化する分、竜種が有利で人種が不利。逆に耐性があるからこそ竜種は魔力の扱いが不得手で、人種は耐性が低いからこそ細かく魔力を感じ取れるから扱いが上手い」

「じゃあその2つの種族の血が流れる混血はどうなる?」

「人によってバラつきはあるけど、極端に竜種の特性が強い奴もいれば、人種の方に強い奴もいる。ウチはどちらかと言えば竜種寄りだ。・・・よし準備完了」

 準備運動を追え、右の肩をグルグルと回して違和感の無さを確認する。

『ありゃ~…珍しいイクシアの饒舌な勉強会はもう終わりかなぁ~?』


---[22]---


 いざ訓練…と思った矢先、聞こえてくるのはウチの勝手な印象だが、獲物を狩る獣のような声。

「エルン、おはよう」

「お…おはよう…ございます」

「ああ、おはよ~。なんかここに来たいって子供がいたから、連れてきたよ~」

 そう言って、エルンは自身の服を遠慮がちに掴んでいる小さな子供の頭に、優しく手を置いた。

『とおやッ!?』

 子供に真っ先に反応したのは義弘だった。

 すぐさまその子供に駆け寄った少年、その少年に気付き若干の笑顔を見せる子供。

「誰だ?」


---[23]---


 状況を把握しようと、ウチはフェリスに話しかける。

「義弘の弟で十夜」

「ふ~ん」

 本来、まだ十夜が目を覚ます時間ではなかったらしく、驚きを見せる義弘、一人でココに来ようとしたその子に一瞬怒るような表情を見せるが、その色はすぐに姿を隠し、優しい微笑みへと変わった。

「す…すいません。ちょっと…とおやのせ…せわをしてきます」

「気にしないで。私達はまだここにいるから、時間があれば戻ってくるといいわ」

「は…はい」

 義弘はこちらにお辞儀をして、十夜と手を繋ぎこの場を後にする。

「え…ウチとの特訓は…?」

「状況を考えなさいな」

「く…」


---[24]---


 仕方ないと思う気持ちと、戦ってみたかったと思う気持ちが、ウチの中でせめぎ合う。

 残念としか思えず、ウチの口からはため息がこぼれた。

 そして、その鬱憤が胸の中で渦巻き、視線が自然とフェリスの方へと向く。

「じゃあフェリでいいや。訓練に付き合え」

「じゃあ…て失礼過ぎるでしょ…」

「いいだろ別に、減るもんじゃない」

「そうだけど…」

 フェリスが相手じゃ…いつもの訓練と変わらない…なんて思ったけど、場所が違うんだから、全部が全部同じって訳じゃない。

 最初の目的、いつもと違う場所で動けば記憶が…て話も、まだ有効なはずだ。


---[25]---


「人間界で戦う時の、魔力の感覚にも慣れておきたい。フェリだって覚えておいて損は無いんだから、ちゃっちゃとやるぞ」

「さっきの特性どうこうにも関係があるのか?」

「ある」

「じゃあその辺の事も、さっきみたいに説明してよ。訓練しながらでいいから」

「ウチはそんな器用な事出来ないっての。後でエルンにでも教えてもらえよ」

「いやいや~。戦いながら頭を回転させる訓練と思えば、結構良いモノになるし、この際だからフェリ君の要望に応えてあげてよ、イクシア」

「ぐ…」

 いやだ…その一言が口から出ない。

 ここでエルンがそれでもいいよ…と言ってくれれば済んだ話、せっかく話を振ったのに跳ね返ってきやがった。


---[26]---


 エルンは普通のおねがいのつもりだろうけど、ウチの体は勝手にそれを命令と理解する。

 勝手に…、ホント勝手に拒否権を、その辺に捨て去ってしまう。

「・・・わかったよ」

 また別の意味のため息がこぼれつつ、ウチは頭を縦に振る。

「じゃあ本気で行くからな。この人間界で、いつ戦闘になってもいいように、しっかりと鍛えてやる…」

 ヤケを起こしている部分はあるし、フェリスからすればとばっちりだ。

「物騒な事を言わないで欲しいんだけど…」

 そのフェリスの苦笑いに若干の同情はすれども、なんだかんだ言って燻ぶっている逸る気持ちに応えるように、ウチはフェリスに向かって構える。

 その訓練は朝食の準備ができるまで続くのだった。


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