第三章…「その慣れぬ目覚めは。」
そこは…。
白く…しろく…。
何も無いように見える場所…。
目を覚ました俺が、自身の両足で立っている場所…。
…・・・…
水面に落ちる波紋のように…、俺の立つ場所を中心に光る波紋が、何層に…そして不規則に…、広がっていく。
自分が直前に何をしていたのか思い出せない。
額に手を当てて、それを思い出そうとするが…、良い結果は得られなかった。
感じるのは…、額の皮膚に軽く食い込む指先の鋭利な爪の感触だけ…。
おもむろにその額を押さえていた手を見れば、その手の指には爪が…鱗が…。
---[01]---
それは俺がフェリスの時の証のようなモノ。
でも今の俺は、俺だ。
私ではなく俺。
誰かと喋って、俺としての話し方になっているかどうかを確認した訳じゃないけど。
体を見て…、この指や尻尾…、どれも俺には存在しないもので、この胸部にある2つの膨らみだって、俺には存在しない…あってはならないモノだ。
でも体の状態を確認するよりも前から、俺は俺だと自覚していた。
私ではない。
フェリス・リータではない、向寺夏喜としての俺、俺自身だ。
説明はできない。
こうだと俺は自信を持って言う…言える…ただそれだけの事だ。
---[02]---
周りを見渡しても…やっぱり何もない。
自分から四方に広がる波紋のおかげで、その位置が地面なんだと確信を持てるだけの空間。
そして何の前触れもなく、そこに立つ人影。
『思いのほか元気そうね』
いつの間にか強くなっている光に、目は細くなり、時に手でその光を遮る。
そこに立つ人影を、ちゃんと見る事ができない。
…よくわからないけど、体の不調とかはない…
この空間そのものが話をしているかのように耳に響く…その人影の声とは対照的に、俺の声は相変わらずそこに居ないかのように話ができているのかどうかすら怪しく、無響室で1人話をしているかのような気持ち悪さを感じる。
『そう…。それはいい事だね』
---[03]---
…あんたは誰だ? 初めての時は、そもそも話ができなかったし、その次はそれどころじゃなかったし…。多分…多分だけど、今回は問題ない。普通に話をする時間は…あると思う、そんな気がする…
『話ができるのは嬉しいけど、そういう問題でもない。ここにこうして、お互いが向かい合っているのに、あなたと私、2人の意思は関係ないわ。少しなら制御できなくはないけど、無理やり繋げたりとか…、それでもたかが知れてる』
…どういう意味だ?…
『わからない? あなたは、もう非常識な現象には慣れたと思ってたけど』
…慣れとか、そういった話じゃないだろ。慣れと言ったって起きる事をいちいち考えない様にしただけだ。埒が明かなくなるからな。受け入れただけだよ…
『そう…。まぁそれが賢明だな。あとは…そうね。受け入れるだけじゃなくて、受け入れたモノをどう扱うのか、それをしっかりと決める事ね』
---[04]---
…扱いって…、それこそ何が言いたいんだ?…
『・・・』
…おい…
その人影は、唐突に話さなくなり、周囲を伺っているかのように動く。
…あんた、この前は目が見えないとかなんとか言ってたけど、今は見えてるのか?…
『そうだな。この前は…なんと言えばいいか、あなたがそこに居る…と確信する感覚だけがあって、それ以外は何も無かった。でも今回は、ぼやけてはいるけどそこにいる君が見える。いや、ぼやけている…というのは違うな。あなたの今のその体はそんな姿…形をしていなかったはずだし、説明しづらい。とにかく、そこに竜種の人が立っているという事は見て取れる』
…まぁ尻尾が生えている以上、普通の人じゃないけど…
『そうじゃない…そうじゃないわ。私は知っているから』
---[05]---
…知ってるって?…
『こっちの話。それは…今話をする事じゃない…かな。その事よりもまず先に、知って欲しい事がたくさんある』
…例えば?…
『例えば? ん~、そうだな~。世界のありかた…とか?』
…なんでそこで疑問形になるんだよ…
『気にしない。多分、遠くない先で、おのずと知る事になると思うわ。とにかく私を知りたければ勉強しなさい』
…意味深というか…さっきからぼかしてばっかだな…
『そりゃそうだ。いくら私でも心の準備がいる。どれだけ落ちようとも、体を血で染め上げようとも、私は1人の人間だから』
…・・・…
---[06]---
言ってスッキリする事もあるだろうに…、案外頑固者か?
自分に対しての言及を避けているようにも見えるが。
というかこれじゃ俺がスッキリしない、不完全燃焼だ。
第一、こんな意味不明な状態で話をされて信じている俺もどうかと思う…。
…今更か…
『前にも言ったけど、口に出さなくてもわかるぞ。傷つく事があるかもしれないから、その事だけはしっかりと覚えておいて』
…そうでした…
『というか、何を根拠に言っていたかわからないけど、今回は確かに時間がありそう…ね』
…そうなのか? よくわかるな…
---[07]---
『限界まで熱せられた石に少しだけ水を掛ける程度の変化しか起こせなくても、何かできる事に変わりない。それだけしかできないとも言えるけど、おかげで少しだけこの空間の事を把握できる。普段は私の介入なんて体に当たる風に舞った砂粒程度の力しかないけど、体がいつも以上に弱っているのか…この空間であなたと会話するだけじゃないみたいな』
…どういう……
こちらが言い終わるよりも早く、人影は近寄ってきて、俺の手を取る。
身長は今の俺とほぼ一緒…という事はフェリスと同じだ。
手を取られ、その手に伝わる硬い感触、それもフェリスと同じ…竜種特有の指の感触…。
もはや仕様なのか何なのか、手を取り合う距離になったっていうのに、その顔をしっかりと見る事ができない。
---[08]---
後光は強まり、近づけば近づくだけ、後光で見えなかった体は墨でもぶちまけたかのように黒く見える。
『この場を用意した奴は…、余程のお人好しか…物好きか…、何にしてもよく理解しているものだ。本当だったら、あなたを通じて私もわかるはずなんだけど、君の記憶があやふやだからか、それもうまくいかない。なんにせよ、この機を逃す手は無いわね』
…全く話に付いて行けないんだが…
『まぁそうだね~…』
人影は俺の右手と、自身の左手と合わせる。
『私の苦労が少しは役に立つ…て事だ。あいつからしてみれば予想外だろうし…。そもそもこの空間だって予期せぬ場所のはず。そもそも君が同行できる場所じゃないんだよ、ここは』
---[09]---
…は?…
『ほんと…この場所で話をするような間柄になったあなたとは、もっとゆっくりと話をしたい所だ』
手の平を合わせた手が熱くなっていく。
同時に後光が弱まって、黒く塗りつぶされた人影の姿が見えそうになるけど、今度は視界がぼやけていく、真っ白だったこの空間…この世界はまるで俺を追ってきたかのように、俺の後方を暗く…黒く変えた。
…なん…だ…。…
『今できる事…出来うる最大まで…、あなたとの繋がりを強めた』
『今のその体にとって、私は異物だ。でも、この場を用意した人は、私を必要としているらしいからね。いつも以上に張り切りながら力を貸してあげる』
…ちから?…
---[10]---
『仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、力の使い方があやふやというか、安定していないみたいだからね。体が変に感じる事…あっただろ?』
…変…て確かにあったけど…
戦っている中で力が入らなくなるとか、たぶん普通じゃない事ならあったけど、でもそれは悪魔のせいだったり、俺自身が上手く使えてなかったからで…。
『それになにより、こうすれば、少しはここに来やすくなるかもしれない』
…ここに? あんたに聞きたい事は少なくないし、話ができるのなら望むところだけど、そもそも、ここってなんなんだ?…
『ここは、いらないモノが捨てられた掃き溜めといった所かな。・・・そろそろ時間みたいだ』
人影は手を離し、一歩二歩と後ろへと後ずさる。
…は? 時間があるんじゃなかったのかよ?…
---[11]---
『あったけど、見つかったみたいだから、もうおしまいだ』
…見つかったって何…にッ!…
急に体がぐらついて、俺はその場に膝を付く。
『幸か不幸か…。いや、あいつからしてみれば、これはもはや手遅れの不幸…といった所か』
…あいつって…誰だ…?…
『先に謝っておくよ。多分最初の内は調子が狂うだろうし、それに…。…ッ!』
さっきまで俺に目線を合わせていた人影が、別の方向へと動く。
『これ以上話をされるのは嫌って事かしら? 無理してこんな所まで来て』
いったい何を見て…。
人影が見ている方向を見ようと体を動かそうとするけど、それもうまくいかない。
俺が見たいのは自分の後方だ、体を捻って…首をクイッとするだけでいいのに、そんな簡単な事ができない。
---[12]---
『・・・』
いや…、体を動かせないだけじゃない…、さっきまで聞こえていた人影の声が小さくなっていく…。
視力が低くぼやけたかのようになっていた視界も、今度は意識を失う寸前のようにうっすらと点滅していく。
人影が何かを話しかけて来てる…。
視界を…意識を保とうと踏ん張って…、そして少しでも何を喋っているのか知るために目を凝らし、聞き漏らさない様に意識を…。
…お、ね、が、い…?…
口元の動きが見える。
耳に届いた小さな…小さな声を頼って復唱すると…、その口元がほほ笑んだように…見えた。
---[13]---
そして人影を覆う様に現れた黒い靄が、人の手のような形を作って、その首を鷲掴みする光景を目に、何もできないまま俺の視界は闇へと落ちて行った。
目を開き、私は見知らなくても、知った造形の天井を尻目に、どことなく落ち着く印象を受ける状態で目を覚ました。
体を起こし、畳の和室で、布団で寝ている事に違和感を覚えながら、隣の襖越しの先の部屋で、人の話し声が聞こえる事に気付く。
「はぁ…」
体が重い。
体育祭後の十分休めなかった翌日の早朝のような…そんな気分だ。
ただただ怠い…。
痛みとかが無い分、いつもの怠さを感じていた時の状況とは違う事はわかるけど、それでもきついモノがある。
---[14]---
立ち上がれば体はふらつく、寝起きだからといっても万全とはいえない状態だ。
『フィーもイクシアも、たくさん作ってもらってるから、そんな焦って食べなくてもいいだろ~、喉をつまらせるぞ』
襖を開けた先の畳の部屋には、大きい一枚板テーブル、そこに並んだ朝食、それを食べるエルンとトフラ、貪るイクシアに、いつもより食べるのに勢いのあるフィアが囲む。
「あ~、起きたか、フェリ君。おはよう、体の調子はどうだい?」
箸を起き、こちらに寄って来ようとするエルンを手で制止、自分から彼女の横に座る。
「体調が悪い…というか、とにかく怠いわ…。疲労困憊みたいな怠さ。他に変な所は無いと思いたいけど、怠さが強すぎで、他に変な所が無いか気に掛ける気力が出ないわね」
---[15]---
「それはまた」
「よくない状態かしら?」
「いやいや、ある意味、正常な状態と言えるかもねぇ~。昨日ここに着いて、今日はある意味でこの世界が向こうと違うと体で実感できる1日目だ」
そう言ってエルンは、湯呑に入った緑茶をすする。
「この世界の人間の魔力機関が貧弱という事は、覚えているね? その原因は、この世界に満ちた魔力量だ。私達の世界と比べてとても薄いんだよ、この世界の魔力は。だからこそ、この世界の人間は魔力を頼りにしない進化をしてきた結果、魔力機関が貧弱になった。なら逆に魔力が潤沢に存在し、それを前提とした魔力機関の進化を遂げてきた私達はどうか…」
エルンが私の胸元を指差す。
---[16]---
「それは簡単、本来外部から得られる魔力量が極端に減った事で、それを補うために、少しでも魔力を吸収しようと体は働き、自身が作り出す魔力も普段以上にその労力を割く。つまりはそう言う事だ。普段とは違う環境に対して、体は普段通りの調子を維持しようと頑張っている結果、体に疲労が溜まっているんだよ」
「すごい本末転倒な頑張りね」
「慣れの問題もあるし、個人の意識の問題もあるけどねぇ。特にフェリ君は…。昨日は良い夢を見れたかなぁ~?」
「良い夢…か。アレを夢と言っていいのかわからないけど、考える事というか、謎は増えたと思うわ。会話しているようで会話で来ている気がしなかった。」
「それは成功という事かな?」
「成功?」
「うん。君の中に眠る過去の記憶を呼び覚ます試みだ。詳しい話はまた後でするとして、「アレ」が上手い具合に機能して良かったねぇ。まぁ次も成功するとは限らないし、あまり喜んでもいられないけど」
---[17]---
「アレ? 昨日、多分寝る前だと思うけど、その辺の記憶が無いのは、エルンのせいって事かしら?」
「本当? まぁ大事な事だったし、人間界に来たし、試すには十分すぎるぐらい条件が整っていたから、許してねぇ~。ちゃんと説明するから」
「は、はあ」
「そんな事よりも…だ。その体の怠さは、体調不良ではないから安心したまえ。そしてこの世界で私達が何よりも大事にしなければいけないのはこれだよ、フェリ君」
エルンは見せびらかすように両手を広げ、テーブルに並んだ料理を私に見せる。
「向こうにいた時は、身体の健康を維持するにも魔力の力が効果を発揮していたけど、今はその魔力が普段よりも少なくなっている。つまりは身体を健康にするために、その日その日の大事な栄養源をここで確保しないといけないよ」
---[18]---
「三食ちゃんと食事を取っていこうって事かしら」
「そう言う事だねぇ~。身体の食事面の健康を食事でちゃんと補って、限りある魔力を少しでも温存…効率よく使っていこう、つまりはそう言う事さ」
「ふ~ん」
まぁ本来あるべき形に戻る感じか。
向こうじゃ、結局食事は食欲を満たし、満腹感を得るためだけの行為、もちろん子供達みたいにその枠に入らないものもあるけど、本来なら食事をする事で得られる健康維持を魔力が賄ってくれていた。
でも今は魔力が少ないから、食事を取って魔力を節約しよう…か。
「まぁ、大事な時に魔力不足で大事になったら嫌よね、確かに」
『フェリさん、早くしないとイクがみんな食べてしまいますよ』
普段、真面目で節度を持った行動を心がけている…と思うフィアが頬を膨らませてこちらに声を掛ける。
---[19]---
不貞腐れて頬を膨らませている…という事ではなく、口いっぱいに食べ物を入れたからこそ起きてしまうモノ。
そんなに頬張りながらご飯を食べるフィアの姿は新鮮だ。
というか、基本的に私でいる時は、食事は質素極まるモノで、そこに喜びを得る事は一切しない…というか無い事だった。
だからこそ、こうやって口いっぱいにご飯を入れる光景は、フィアに限らず新鮮だ。
そして、フィアの言葉を聞きながら、イクシアの方へと視線を向ければ、そこにはフィア以上に物凄い勢いで食事に当たる彼女の姿があった。
そもそもテーブルの上には、おにぎり、卵焼き、味噌汁、漬物…と昔ながらというか、俺からしてみれば決して豪勢な食事とは言えないが、今の私にとっては腹の虫が叫び声を上げそうな豪華な食事が並んでいる。
---[20]---
その状態を私自身が自覚した瞬間、イクシアの行動が微笑ましく、納得のできるモノに見え始めた。
「ここでの初めての食事だし、まずは豪華なものよりも素朴な料理を用意してもらったからねぇ。でも、美味しさは折り紙付きだ」
まぁシンプルではあるけど、濃い味のモノがない分、胃には優しいだろう。
でもそう言う事でもないか、食事を取り消化するという事は、この体もやってきた事なんだから。
シンプルであっても食材の味をうんたらかんたら…、美味しさが折り紙付きなのは、言われなくてもわかる。
イクシアが両手におにぎりを持って満面の笑みを浮かべているのも、わかる…すごくわかるぞ。
美味しそうと思う私の感情と、自分にとって身近で馴染みのある料理をおいしそうに食べてもらえている喜ばしさに満たされた俺の感情、両者が混ざって感情は絶頂に達している所だ。
---[21]---
自然と笑みがこぼれてた。
「はい、フェリさん」
「ありがとう、フィー」
フィアに差し出されたおにぎりを受け取って、それを下品にならない様にと、大人しめに頬張る。
でもそんな理性は一瞬でガタが来た。
知った味、どこにでもある普通の味付けのはずなのに、まさにほっぺたが落ちる。
頭ではこういう味…と理解していても、体は初めて知るその未知の世界に振るえた。
シンプルな料理が、まさに高級レストランのフルコース料理のようだ。
その後はもう無我夢中、出された食事を全て食べきるまで、エルン達の会話を流しつつ、一言も話す事はなかった。
「じゃあ、話した通り、今日は二手に分かれて行動していくからねぇ」
---[22]---
エルンは、皆準備して入口に後で集合して…と言い残し、トフラと一緒に部屋を出て行った。
「はぁ…食べた食べた」
お腹をポンポンと軽く叩きながら、イクシアは満面の笑みを浮かべる。
誰よりも食べたのだから、そりゃそうだろう。
食べた分、お腹が出て服がキツいとか、そんな事にならなければいいが。
「今日は、私とイクが悪魔界の調査で、トフラさんとエルンさん、フェリさんが人間界側の調査ですね」
言葉の合間に、笑みを浮かべながらお茶をすするフィア。
緑茶を初体験という事だが、にしたってそんな顔でお茶を飲む奴を初めて見た。
「そうね。こっちはともかく、悪魔界の方が危なそうだし、気を付けてね」
「はい、大丈夫ですよ」
食事面はフィア達に多大な衝撃を与えたはず、悪い意味で調子を狂わせなければいいが、そのお茶をすする表情を見ると、どこか心配になる。
---[23]---
「悪魔界を調査する側も、人間界を調査する側も、どちらも夜人の人達が護衛に入ってくれますから、大事が起こるとしたら、それはもう大事どころか一大事…ですね。戦いに来ている訳ではないので、出来ればそう言った事態にならない事を祈りましょう」
「そうね。しばらくは物騒事なんてごめんよ」
ブループに悪魔、向こうでも稀に見る問題を体験したのだから、その間間は問題が無かったとしても、精神的な部分で回復しきっていないし、平和に事が進むに越した事はない。
「じゃあ準備をしましょう。イクも、いつまでも大の字になってないで、準備」
「いつになく張り切ってるな、フィー」
湯呑に残ったお茶を飲み干して、立ち上がりながら横にいるフィアを見る。
「もちろんです。人間界に来られるのは軍人であっても数えられるほど。私は軍人と言ってもフェリさん達みたいに何か功績がある訳じゃない、でも私はここにいます。これを逃せば次はないかも…、こんな絶好の機会逃す手はありません。仕事を熟しつつ、しっかりと勉強しないと」
---[24]---
「熱心だな」
私は悪魔等の問題の中心にいるって言う事、イクシアはその戦闘能力と経験を積ませるため、フィアの言う功績等も含めてここにいる理由にはなっているけど、彼女はあくまでエルンの助手としてここにいる。
彼女なりに思う所があるんだろうけど…。
「エルンの助手としてでも、能力を買われているからこそ、許可されている訳だし、自分を下げるような言い方はやめた方がいいわ」
「・・・はい、ありがとうございます、フェリさん」
「じゃあ、私は準備して先に行くわ。なんか、イクが二度寝をする勢いになってるから、頑張って」
「え?」
フィアの肩を叩き、私は寝ていた部屋へと戻る。
---[25]---
『あ、イク、起きて。仕事ですよ』
『ん~…』
布団をたたみ、用意された服を身に纏う。
ほんと、不思議な気分だ。
知らない場所ではあるが、見知った造形の部屋で夢の存在である私が服を着替えている。
この世界…人間界は現実と大差ない世界で、用意された服も黒いスーツ、もちろん尻尾を考慮して弄ってはあるが、その尻尾のせいでこちらは違和感が半端ない。
ファンタジー的な存在たる私に黒いスーツか…、マッチしているんだか、ミスマッチなんだか。
---[26]---
姿見で自分の今の姿を見ても、正直判断できない。
似合っているかどうかは、俺には到底判断できない領域だ。
ようやく準備に取り掛かったフィア達に、先に行くと伝えつつ、私は部屋を出る。
料亭とか高級宿でもない個人宅にしては長ったらしい廊下を進み、何となく視線を向けた中庭に集まる人混み。
大人…とまではいかない少年少女の集まりが、目に留まる。
その群れの中、その足元にそんな彼らよりも小さい子の存在に、私は視線だけでなく、体までも持っていかれるのだった。
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