第18話異形
花畑を抜けたところにまた森が続き、その奥まった先に少し大きめの小屋があった。リィナがドアをノックすると、内側からドアが開いた。
中から出てきたのは、頭からすっぽりと深くローブをまとった人だった。背が高いので多分、男の人だろう。顔も下半分が布で覆われており、表情はわからない。
そして、その人は顔だけでなく、ローブの袖口からのぞく手も包帯のようなものでぐるぐる巻きにしているのだった。なぜ?と私は思った。
リィナがまず、小屋に入る。続いてルーカスが中に入った。一瞬、中からどよめきが聞こえた。小屋の中は暗く、中がどうなっているかはよく見えない。ひときわ高い木々に覆われた一角にある小屋には、陽の光がほとんど届かない。それでいて、あかりは何もない。
ルーカスに促されて私も続く。
中に入ると、そこは薄暗く、空気がこもっていた。人がたくさんいる気配がする。四方は壁。家具の類はなく、中はがらんと大きな四角い箱のようだった。
一般の家屋の様な窓はなく、高い場所のある小さな明り取りの窓から斜めに光が差していた。絵画にある、暗闇に光が差している図そのものの光景だった。
絵と違うのは、光の通り道になり明るく照らされた空間にだけ、埃が舞い上がる様子がくっきりと見て取れるところだろう。
暗い空間の一角がその光に切り取られ、地面に近い壁が照らされているのに目をやって、私は驚いた。
人だ。
だけれども、その姿形が、通常の人とは異なっていた。その人は壁を背に、うずくまっていた。
よく見るとその人の顔は鱗の様に、いびつにボコボコと腫れ上がっていた。顔だけでない。体のあちこちがかさぶたになっている。よく見ると、手足そのものが変形している様だった。
そして、小屋の中にいる異形の人はその人だけではなかった。
壁際に、身を寄せ合う様にして、同じ様に体のあちこちが赤く腫れ、変形した人たちがひしめき合っているのだ。目が慣れてくると、薄暗い小屋の様子が少しづつ見えてくる。
私は息を飲んだ。小屋の中の人たちが、じっと私を見ていたからだ。たくさんの目が一斉に私に向けられていた。
リィナも私を見ていた。感情のこもらない、それでいて探る様な目で。
「何を見ても、何があっても驚かないこと。ううん、驚いてもいいけれど、顔には決して出さないこと」
このことだったのか…。ここへ訪問の前に、ルーカスに言い含められたのは。
いつもはにこやかで、穏やかなルーカスが珍しく、真剣な顔でそう言った。だから私も、心にしっかりと留めておいたのだ。
「さて、診察を始めましょう。エマ、準備して。アイザック、往診用のバッグを持ってきてちょうだい」
そういうルーカスの横顔は、いつもとは違う、コウモリも森の魔女でもなく、治療師でもなく、紛れもなく医師だった。
私はうなずいた。準備のために小屋を出ようと振り返るとアイザックがそこに立っていた。目が合うと、黙ってうなずかれる。私たちは小屋の外に出て、準備を始めることにした。
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