第7話目覚めとスープ

「私と父さんは血が繋がってないって本当?」




私は言った。ドアを叩く音が止んだ。私の名を呼ぶ父の声も止んだ。




「答えて」




返事はなかった。沈黙は肯定と同じだ。




「私以外のみんなが知っていて、知らないのは私一人だったなんて、笑える。赤の他人である私が、この家を継ぐ気まんまんで、薬草のことを勉強したり、診療所のこと、経営のことを知りたくて計算や帳簿のつけ方まで習っているのは、さぞかし滑稽だったろうね」








自分で言っていて、なんて嫌なやつなんだろう、と言う言葉が口をついて出た。わかっていても、どうにも止められない。








ドアの向こうで何かが動く気配がしたが、返事はなかった。










「もういいよ、なんかもう、いろいろくだらない」










そう言って私はドアを背にすると、そのまま床に座り込んだ。両手で膝を抱える。






自分のてのひらは暖かった。自分で自分を抱き締めるって、なんだかすごく惨めな気分になった。それでいて少し安心感がある。








そのまま私は、眠ってしまった。















「え、あ、うわあ!」








目が覚めると、まず天井が見たことのない模様だった。






さらに言うと、私はストーブのある大きな居間で、長椅子の上で眠っていた。肩までブランケットがかけられている。頭の下にはいつの間にかクッションが当てられていた。








ブランケットは暖かく、多分ウールでできている。とても質の良いものだった。








ふと足元を見ると、小さな野菜を入れる木箱の中に、野菜ではなく子犬が収まって眠っていた。リネンの布にくるまり、静かに寝息を立てている。








そうだ、私は魔女の家で助手見習いとして雇われたのだった。








それが、よりによって初日に、勤務時間中に寝てしまうとは。








これって、ものすごい失態では…私は目の前が、本当に一瞬暗くなるのを感じた。








長椅子の前に小さな丸いサイドテーブルがあり、ノートほどの小さな大きさの黒板が置いてある。そこには白いチョークで、こう書かれていた。






『外出します。昼過ぎに戻ります。昼食の準備をお願い』








私は長椅子から飛び降りた。窓の外を見ると、日は高く上がっていた。今の季節だと、正午少し前。








私は台所に駆け込んだ。








台所は少々乱雑だが、一通りそろった調理器具が棚に並べられていた。壁には銅の鍋もかかっている。








調理器具の一つ一つは、それなりにしっかりした作りのようだが、長い間それらは使われていないようだった。








「まずは調理器具の整理だな。次に、食材の把握」








私は自分自身に言い聞かせるため、声に出してそう言った。








実際、言葉にしてみるとその考えはしっくりと私に馴染み、落ち着きをいくらか取り戻す効果があった。








こったものを作るつもりはないので、まず必要なのは鍋、それにフライパンがあればいい。








食器は棚の中に、無造作に重ねて置かれていた。








スープボウル、薄いプレート、マグカップ、色は全てシンプルな白だった。食事をするには、これだけあれば十分だ。










私は倉庫をのぞいた。








まだ雪の残る遅い春の季節、野菜であるのは貯蔵のきく玉ねぎ、ニンジン、そしてジャガイモくらいだ。これは大きめの木箱に無造作にゴロゴロと積まれ、凍結防止のために上から厚い毛布がかぶせてあった。






天井からベーコンの塊が吊るされている。これも使わせてもらうことにしよう。








調味料を入れる棚に、チーズの皮、オリーブオイル、塩。カゴには卵も5つ盛られている。








「ルーカスさんの食べ物の好みがわからないなあ、あと、好き嫌いとか」と少し悩んだ。








それでも「おそらく一人暮らしであろうルーカスさんが、わざわざ自分の嫌いなものをストックしておくこともないだろう」と言う考えに最終的に落ち着いた。








「よし、とりあえずスープだな」








私は腕まくりをすると、スープの下ごしらえにかかることにした。


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