第5話初めての依頼
「はーい」
ルーカスはそう言うと、家の外に向かった。
私はドアの内側からそっと様子を伺うことにした。万一、街の知っている人だった場合、私がここにいるとバレてしまう。
門のところに5歳くらいの小さな男の子が立っていた。ボロ切れ…としか言いようのない布に何かをくるみ、大事そうに抱えている。
男の子は泣いていた。
ルーカスは膝を折り、男の子目線に高さを合わせると、優しくこう言うのが聞こえた。
「こんにちは、何の御用かしら?」
その声は男の人の声なのに、まるでお母さんみたいに甘かった。
「いっ、いっ、いえのうらで、いぬが、こいぬを、うんで」
男の子はしゃくりあげていた。
「6ぴきうまれたのに、おかあさんいぬがしんでしまって」
そこで来るものがあったのか、男の子は、うう、と声をあげた。
「もっとはやく、ボクがきがつけば、たすけてあげられたのに、おちちをのめなくて、こいぬが5ひきしんでしまって」
「そう、それで?」
「いきているのはこのこ、一ぴきだけなんです。どうか、このいぬを、まじょさん、たすけてくださいっ!」
男の子はそう言って、包みを差し出した。ルーカスをそれを大切なものを扱うように受け取ると、こう言った。
「対価は持ってきたかしら」
「はいっ!」
そう言うと男の子は、ズボンのポケットから袋を取り出した。中にはお金が入っているらしかった。それを受け取るとルーカスは言った。
「この子犬は、コウモリの森の魔女が確かに預かりました」
「ありがとうございますっ!」
男の子は顔を上げると、くるりと後ろを向いて駆け出した。後ろを振り返ることはなかった。
子供一人でこのコウモリの森、しかも魔女の家まで来るのはとても勇気がいったことだろう。私だって、怖かった。
ルーカスは包みを抱えて家の中に入ると、こう言った。
「話は聞いていたわね?さあ仕事よ、あなたの初仕事」
そういって、包みを目の前に差し出した。
「うわあ」
私は言った。
そこには、子犬がいた。
子犬といっても結構でかい…、小さな猫くらいの大きさがあるその子犬は、鼻がピンク色で、体はグレーと白の二色に分かれていた。
目に周りに黒い縁取りがあり、体を丸くして小刻みに震えていた。時々ピスピスと鼻を動かす。体全体は薄汚れていて、目やにがすごかった。
「これはソリを引く犬ね。大きくなればいい番犬になる。この子犬の面倒を見てちょうだい」
そうやって子犬を私に手渡すと、ルーカスは居間の奥にあるドアを開けた。
そこは台所になっており、さらに奥は倉庫になっていた。食材や薬草、乾燥したハーブなどが乱雑に置かれていた。
「ここにあるものは好きに使っていいわよ。私は書庫で、少し資料を見るから。あなたの部屋は、倉庫を出て右の離れ。そこも好きに使っていいわ」
それじゃあね、と言い残してルーカスは居間を出て行った。
どうしよう…。
一瞬途方に暮れそうになったが、ふと腕の中の子犬を見ると小刻みに震えているのがわかる。
私はハッとした。
「何はさておき、この子犬を死なせないようにしなければ」
そう、途方に暮れている場合ではない。私はこの犬を助けなければ。
私はまず、お湯をたくさん沸かすところから始めることにした。
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