第3話魔女との出会い

目の前に木で作られた素朴な門が有った。門柱には小さなベルが取り付けられていた。下についている紐を引っ張るシステムになっているらしい。



私はベルを鳴らしてみた。



門の先には白い小石を敷き詰めたアプローチがあり、その両端は草花で彩られていた。リンドウの群生株や、セージやマジョラム、何種類かのラベンダー、タイムが低木になっているのが見えた。



すみれの小さな花に、蜂がブンブン言いながらやってきていた。蜂の種類も様々でこの近くに巣があるか、どこかで養蜂場でもやっているのか、と私は思った。



その他にも名前のわからない植物が生えていたが、そのうちの一つにでっかい芋虫がなん匹も群がり、ムシャムシャと葉を食べていた時はギョッとした。



魔女は芋虫も薬にしたりするのだろうか、と私はちょっとゾッとしながら考えた。




しばらくすると、四角い箱のような木の家の中から「はーい」という高い声がした。




その直後、本当に、バーン!と音がする勢いで扉が開いた。



そして中から、ものすごい派手な感じの巨漢の人が飛び出してきた。



その人は背が高く、目の周りを濃い緑のアイラインで縁どっていた。鼻は鷲鼻…ではなく、普通だった。それでも口紅はそれが魔女の定番?と言いたくなる真紅の赤だった。



首には色とりどりのでっかい玉をジャラジャラ言わせたネックレスを何重にもかけていた。一つ一つの球は多分それなりに高価な宝石で、色だって美しかった。



それがなぜだか、首飾りとしてまとめられると、一気にその一つ一つの気品を失い、乱雑になる。それでいてどこか楽しげな雰囲気すら醸し出しているのは、身につけている人の人柄なのだろうか、などと私は考えてみる。




恰幅の良く、肉付き良いその人には、その首飾りが妙に似合っていた。



服のえりの周りには、華やかな鳥の羽が何本も飾られていた。それは私に以前、図書館にある図鑑で見たことのある「極楽鳥」と言う鳥の名前を思い出させた。




着ているのが黒いワンピースなだけに、その装飾品はものすごく目立った。左手の人差し指に、ゴージャスなアメジストと黄金の指輪が光っている。おそらくこれも、魔女以外だと似合わないだろうなあ、と妙な説得力がある品だった。




いっぺんにたくさんの鮮やかな色が視界に入り、目がチカチカした私は何度も瞬きをした。



そんな私を見て、魔女と思われるその人は言った。




「あら、可愛らしい女の子が来た。何の御用かしら?」




私はそう、丁寧に尋ねられた。その声が思いがけず低く、私は驚いた。




「ええと、あなたが魔女さんですか?求人票を見てきました」




私は言った。




「ええ、私がコウモリの森の魔女よ」




「初めまして、コウモリの森の魔女さん。私はエマと言います。治療師の助手として、私をここで働かせてもらえませんか?」



とっさに私は偽名を名乗った。万が一、家族が私を探すことがあれば、本名ではすぐに見つかってしまう。



外見は派手だったが、魔女の目は穏やかだった。私は嘘をつくことに、少しだけ胸が痛んだ。



魔女はにっこりと笑った。




「私の名前はルーカスよ。エマさん、どうぞ中へ」




魔女は言った。予想通りと言うか、魔女は男の名前を名乗った。




やっぱり、と私は思った。



低いけどよく通る声。魔女の肌はつるりとしていて良くて手入れが行き届いている。そこにはしっかりと青髭が見て取れた。




そう、魔女は男だったのだ。




これは、思った以上にとんでもないところへ来てしまったのかもしれない。





それでも引き返すと言う選択がなかった私は、魔女に後ろについて家の中へ入った。



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