第8話 謎の海賊艦『シー・グリフォン』
アームドスーツから取り外した制御基板をテーブルに並べ、ウェルスは腕組みをしていた。制御基板として使用不能なら、さらに分解して、一個一個の電子部品単位で再利用するしかない。
超高密度LSI(大規模集積回路)チップは爪の先ほどの本体からムカデの足のように電極が出ている。普通は、それぞれの電極が基板にハンダ付けされているために、取り外すとなると途方もない時間がかかる。
だが幸いに、それはソケットに差し込んであるタイプだった。静電気に注意して抜き取るだけなら、そこまで手間は掛からないだろう。
「ウェルスさん、そんな技術を一体どこで身に付けたんですか。しかも、その若さで」
さすがに大人の玩具の動きを眺めるのにも飽きたらしい。ルセナ副官が感心したように首を振った。
(そういえばそうだな)
ウェルスは手を止めて考え込んだ。確かにこんな事を勉強した覚えはない。
「なぜ、僕は知ってるんだろう」
思わず声に出していた。
「すごいですね。それって男の子に特有の遺伝子なんですか」
いや、そんな遺伝子なんて聞いたことがない。
「となると、寝ているうちに人工的に情報を刷り込まれたとか……」
「ルセナさん、飛躍しすぎじゃないですか。まあ、本当にそんな事ができれば、便利でいいんですけど」
そうか、それは残念です。ルセナは肩をすくめた。
☆
世界各地で建造された空母だが、その構造はほぼ同じだ。量産する事を最優先で考えた結果、世界統一基準とでもいうべきものが制定され、それに基づいて制作されたのだ。
大きく分けて『居住区』、『動力ユニット』、『農業(食料生産)区画』、『工業区画』、そして『軍事ブロック』になる。
それらを列車のように連結し、一つの大きな空母を形成するのだ。
ただ、列車と違うのは縦方向だけでなく、左右方向、さらに上下にも連結するところだろう。つまりこれは子供のブロック玩具によく似ている。ユニットを繋ぎ合わせることでどんどん巨大なものが出来上がっていくのだ。
この事から、空母の動力性能は動力ユニットとその他ブロックの構成比率によるのは明らかだ。動力ユニットの比率が大きければその分高機動型となり、その逆なら居住重視となる。
海賊艦であれば当然前者であるべきなのだが、どうもこの艦はそうでもないらしい。お茶室なんか備えているし。
「もっと強力なエンジンを手に入れるべきじゃないんですか」
海賊としてもっと活動範囲を拡げるためだ。
「だけどね、ウェルスさん。そんなもの下さいって言っても、そう簡単に貰えるものじゃないですよ」
ルセナが言う。それはもっともな意見なのだが。
「それ、海賊の言う事じゃありませんよね」
「与えられるんじゃない、奪うんです」
そうウェルスが言うと、ルセナの目が丸くなった。
ほうっ、とため息を漏らす。
「……男らしい。格好いいです、ウェルスさん」
瞳がキラキラし始めた。
「そうか、コルタさんがふらふらになっていたのは、こういう事だったんですね」
いや、あれは。まあ、ちょっと違うんですが。ウェルスは思い出して少し赤くなった。
「あ、そうだ。うちにも一つ、動いてない動力ユニットがありますよ。だれも起動方法が分からなくて」
☆
動力ユニットに入ると、裸の女性が数人、脱いだ服を抱え走って逃げて行った。
「あの、ここは。あれです、クルーの憩いの場になっているんですよ」
ルセナが赤い顔で説明してくれた。
確かに懇親を深めているようだけれど。
ウェルスはユニット操作盤に近づくと、その出力ゲージを見て目を疑った。何度もその最大値の桁数を見直す。
到底、普通ではありえなかった。
不思議そうな顔で覗き込む副官に、ウェルスは言った。
「ルセナさん。このメーターの数値が正しいのなら、ここの動力ユニットは」
アレキサンドリア級の超大型空母を動かすためのエンジンなんですが。
この『シー・グリフォン』って、一体なんだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます