第13話◆慶からのメール⑥◆

詩穂さん、もう、昨日になってしまったことが嘘みたいだよ。


日常が始まれば、当たり前だけどバタバタと慌ただしくて、いつもの毎日が始まっているんだけど。


ふっとひと息ついた時に、気がつけば詩穂さんのこと、逢った時のことを考えている自分がいるよ。


半年ぶりの詩穂さんは、とても疲れて見えた。白いというよりも青白い顔は口紅をつけているのに、何だか子供みたいに頼りなげで。


手を繋いだら、安心したみたいにそうっと握り返してくる。

その手の冷たさが痛々しかった。


それでも一緒に書店を見て回ったり模型屋を見て回ったり、楽しかったね。

詩穂さんの頬に赤みがさしてきてホッとしたよ。


今回はとにかくあまり、暖房の建物の中に長居し過ぎないことと、いつも以上に気をつけてお茶や水の水分補給をするようにしたよ。


これはでも詩穂さんの為だけじゃなくて、僕も同じく暖房が苦手だから(笑)

こういう時に、どちらかが極端な寒がりとかだと困るけど、僕ら似てるから。


最近、詩穂さんは、ほとんど僕に愚痴をこぼさなくなってたよね。

元々、あまりそういうの言う方じゃ無かったけど多分、僕が母の事と仕事の事でかなり余裕が無くなっていたから、尚更だったんだろうなって。


ごめんね。僕が自分の小ささみたいなのを感じるのはこういう時だよ。

僕は今回も詩穂さんにいつの間にか、色々な愚痴をこぼしてて……詩穂さんは「うんうん」って親身に聞いて「大変だったね」「良くやっていると思うよ」って言ってくれた。

自分だってどんなにか疲れているだろうに。


癒してあげたいって言いながら僕の方が詩穂さんにいつの間にか甘えていたよ。


だから僕はせめて詩穂さんが僕と一緒の時にはリラックスしていられようにしたいなって思うんだ。

「何だかお姫様になったみたい」って詩穂さんは笑うけど。


夜、僕の腕にしがみつくようにして、手を握って、すうーっと眠り込んだ詩穂さんの寝顔を見ていたら、堪らなく愛しくなっておでこにキスしてしまった。

詩穂さん、気づくかなぁって思ったけど、なんでか子犬みたいに頭を僕の肩にこすりつける様にして、ふにゃっと笑ったんだよ。


ちょっと笑ってしまった。

笑ってから何故だか切なくなった。

僕にもっと力があったら、こんな寂しい思いや辛いことから守れる力があったらって。

このひとを。僕の大切なあなたを。


朝起きた時、前日よりも顔色が良くなっていて少し安心したよ。



智子から言付かっていたイベントのお土産も渡せて良かったよ。

そうそう、昨日帰ってすぐに智子にお礼のメールしてくれたんだね。喜んでたよ。

智子も家業の手伝いと母の事で最近はなかなか出かけられないから。


さすがに僕も趣味が同じものなら付き合ってもやれるけど、そうじゃないものも多いから(BL系の話とかは、僕は偏見はないけど趣味ではないし、智子もいい歳した兄に、こういう趣味の話はしたくないだろうし)だから、詩穂さんと趣味の話をするのが楽しいみたいなんだ。

詩穂さんとそういう趣味の話ができるのは、智子にとっても息抜きになってるみたい。

本当にありがとう。


また、一日一緒にいた日が遠ざかっていく。

逢うまであんなに長く感じたのに、幸せな時間はいつもあっという間だね。


最近、僕は逢った後に詩穂さんに

「いってきます」っていって手を振る

そうしたら詩穂さんも

「いってらっしゃい」って見送ってくれる。


わかってくれてるよね。

そういうことだから。

僕は行ってくるけど、必ず詩穂さんのところに帰ってくるから。二人の場所に。


「約束」って小さな声で言ってから俯いたね。

だから指先にキスして、約束だよって答えたんだ。


また一段と寒くなってきたから、風邪ひかないようにしてね。


今度、逢った時に何しようかって、また考えようね。そして逢えない時には、逢えなくても一緒にできる楽しいことを考えようね。


もう何度、この言葉を言ったのかわからないけど、言う度に大切さが増す言葉だよ。

僕に一番遠かったはずの言葉なのに、何度でも言いたくなるんだ。


愛してるよ。

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