第12話◇詩穂からのメール⑥◇
◇慶ちゃん、今、帰りの新幹線の中で、このメールを書いているよ。
昨日、お昼前に逢えてから、今日、さっきまでの一緒に過ごした時間は、夢みたいにあっという間だった。
まだ、繋いでいた手の温もりが残っている様な気がしてる。
いつもみたいに新幹線を降りたら、いつもの階段下の待合のベンチで慶ちゃんが待っててくれたよね。
そうして、半年以上逢えなかったのが嘘みたいに、すっと手を繋いで歩き出した。
特別なことなんて何も無い、今までと同じコース。本屋さんに行って模型屋さんに行って喫茶店に入って一休みして。
今回はわたしの体調も万全と言うわけではなかったから、疲れやすかったし、無意識に右腕を庇う感じになってしまったりで心配かけてごめんね。
だけど、細やかに気遣いをしてくれて、無理なく休憩を入れてくれたり、疲れてないかって声掛けしてくれるのが、すごく嬉しかった。
何も話さないでいても息苦しくなくて、話をすれば尽きなくて。
夜、慶ちゃんの腕に、ぎゅううってしながら手を繋いでおしゃべりしていると、いろんなキツかったことも不安も、そういうことが全部消えていくみたいだった。
縮こまっていた”わたし”という人間から強ばりが解けて、甘えるということを当たり前の様にできる、その幸せ。
ねぇ、笑わないでね。
この一夜だけは、わたしは温かい腕の中で守られている、ただのオンナノコでいてもいいんだって思えたんだ。
また繋いでいた手を離して、わたし達はこうして反対方向の新幹線に乗って、それぞれの場所に帰っていくけど。
慶ちゃんは「行ってきます」って言って。
わたしは、その言葉が嬉しくて「行ってらっしゃい」って見送った。
そういうことだよね。
わたし達は、きっとまた、わたし達のところに戻ってくる。
§
ウトウトしていたら、もうわたしの街が見えてきたよ。
外はもう暗くなっていて街の灯りが流れていく。
§
今、駅から出て、帰り道を歩き出したところ。
あのね、空を見たらお月様。
綺麗に見えてるよ。
帰り道は、いつも寂しい。
何度、夜空の月を見ながら、慶ちゃんを想っただろう。
だけど、寂しいって思うことは、幸せなことでもあるのかもしれないね。
それはそれだけ楽しくて愛しい時間だったって事だから。
もしかしたら、わたし達は、とても贅沢な恋をしているのかもしれない。
そんな風に、ちょっと強がって言ってみたりする(笑)
帰り道、寒いから慶ちゃんも気をつけてね。
また、メールするね。
勿論、電話も!
愛してるよ。
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