第9話◆慶からのメール④◆

◆詩穂さん、久しぶりのメール嬉しかったよ。逢うことは勿論、声を聴けるのも嬉しいけど、メールはなんて言うか、読み返すことも出来るから。

自分のは恥ずかしすぎて読み返せないんだけどね(苦笑)


電話で話していたけど、僕はあの数日は心配で堪らなかった。

それほど、電話の詩穂さんは元気がなかったから。

出来ることなら、仕事も何もかも放り出せるなら、すぐにでも飛んで行きたいほどだった。

でも、それが出来なくて、そんな自分の力のなさが情けなくて。


詩穂さんはまだ電話で話せる、だから大丈夫だって自分に言い聞かせていた。

そして、そんな気づかないふりをしている

自分自身に苛立って腹立たしかった。

俺はズルい、って。

こんなに自分の無力さを噛み締めたことはなかったかもしれない。


だから、詩穂さんが一番悪い時を抜け出して、いつもの詩穂さんに戻ってきて、本当にホッとしたよ。

12月、半年ぶりになるけど、逢う日を決められて良かった。

詩穂さんの弾んだ声が嬉しかった。


一緒にのんびり過ごそうね。

せめて僕といる時には、詩穂さんを癒して、ゆっくりさせてあげたい。

一緒に美味しいものを食べて、街を手を繋いで歩いて、話しながら書店巡りをする。

ささやかな事かもしれないけど、二人でだと何でも美味しくて、楽しい。不思議だね。

でもこれは僕にとっても大切な大切な時間なんだ。


それと……僕は中年のカッコよくもない町工場のオヤジに過ぎなくて、頼りにはならないかもしれないけど、でも詩穂さんを想う気持ちだけは誰にも負けないつもりだよ。


ずっと一緒に歩いていこうって二人で決めたもんね。

僕らは夫婦では無いし、夫婦になることはないのかもしれないけれど。


このえんきずなを僕は信じているんだ。


口下手で言葉に出すのもなかなかできない僕

だけど、こんな風にせめてメールでだけは、恥ずかしいけど、これからも素直に気持ちを書いていけたらと思うよ。

文字は不思議に僕に勇気をくれて、大胆にしてくれる気がする。


詩穂さん、愛してるよ。


何度でも言いたいし、言おうと思う。


離れている距離の分、僕らは言葉にしていこうね。


12月逢えるのを楽しみにしてる。

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