第11話 最終兵器。学園の『曹操』①
よく昼休み。俺達は教室の隅に机をくっつけて弁当を広げていた。
メンバーは、今日お招きの客人と仲のいい制香と俺、プラス――
「この度はご協力賜りましてありがとうございます!
ぺこーっ!と頭を下げるとくすくすと楽しそうに肩を上下させる学年一の美少女。
肩より少し長めくらいの艶やかな黒髪に透き通るような白い肌。長い睫毛に華奢な体躯。まさに、絶世の美少女だ。笑顔も控えめで、なんだかこっちまで頬が緩んでしまう。
「ふふっ。下神君て面白いよね?面白いなぁとは思ってたけど、こうしてきちんと話すのは初めてかな?」
「お褒めにあずかり恐悦至極!」
「そんな堅くならなくていいよ?クラスメイトでしょ?」
「それも、そうか……」
終始てれてれしっぱなしの俺に、制香から痛い視線が飛んでくる。
「なんかごめんね?ウチの幼馴染が」
「いいよ。制香ちゃんの頼みだもん。制香ちゃんとは、『クマさんコレクター同盟』だもんね?」
「そうなの?」
制香ちゃん?いつの間にそんな可愛い称号身に着けたの?
目を向けると、制香は照れ臭そうに首肯した。
は~……女子の『同盟』可愛すぎかよ。
俺と河飯と藤吉なんて、『女子仕留め隊』だぞ?
まぁいい。本題に入ろう。
「それで、不壇通さんに折り入ってお願いがあるのですが……」
「聞いてるよ?みっちゃんに協力して欲しいことがあるんでしょ?」
「……みっちゃん?」
「うん。私の幼馴染のみっちゃん」
「それってもしかして……『曹操』?」
「ふふっ。そんなあだ名らしいね?そうだよ。D組の佐々木
はぁ~……美女にかかればコワ~イモテメンも『ちゃん』なのね?
わぁ、お可愛いこと。
「それで、みっちゃんに何をお願いすればいいの?」
「えっと、俺達が選挙活動に使おうと思ってた屋上が不良に占拠されてしまって。それを取り返したいんだけど……」
「不良の人を追い払えばいいんだね?」
「その通り、なんだけど……お願いしてもいいのかしら?こんなこと。危なくない?やっぱ危ないわよね?どうしよう、もう一人くらい味方を――」
心配そうに視線を泳がせる制香に、不壇通さんはにこっと微笑んだ。
「多分平気だよ?」
「それが、実は不良は三人いて……」
「平気だよ?」
「でもでも!やっぱ三対一で、相手はタバコ吸うようなワルだし!ひょっとすると刃物とか……」
俺の中の不良に対するイメージが暴走する中、不壇通さんは淡々と告げた。
「平気だよ?みっちゃん強いもん」
「そ、そう?」
「いっつもナンパしてくる人から守ってくれるもん。不良三人くらいなんてことないよ?」
「えっと……そうなんだ?」
どこから来るんだ、その自信……これも幼馴染フィルターか?
てゆーか、『曹操』強すぎじゃね?なんだよそのスペック。
「じゃあ、ひとまず協力してもらえるってことでいいのかな?」
制香と一緒に首を傾げると、不壇通さんはにこっと女神のような笑顔を向けるのだった。
ああ、この笑顔に嘘はない。俺の心は、その笑みだけで浄化された。
◇
そして、放課後。俺と制香、河飯、藤吉は不壇通さんと共にD組の前にやってきた。
「みっちゃんには、放課後ちょっといい?って連絡してあるから!」
「助かります!不壇通さん!」
ほんと、あなたは
帰りのHRが終わって皆が部活や帰宅の為に教室からぞろぞろと出てくる。しかし、『曹操』は出てこなかった。
「あれ?みっちゃん遅いなぁ?」
不壇通さんが何事かと教室を覗き込む。俺達も後に続く。
するとそこには、自席で鞄を手にした男子生徒を呼び止めている女子生徒の姿があった。
もじもじと膝を合わせる女子生徒を何でもないような目で見下ろす黒髪の男子生徒。
「あの、佐々木君……ちょっといいかな……?」
「なんだ?」
「少しお話したいことがあるんだけど、空き教室まで来てくれないかな?」
「ここじゃダメなのか?」
「その、ここは人目があるから……」
「「「あ~…………」」」
様子を見ていた俺達一行は、全員が納得して物陰に身を潜めた。
こりゃ、告られるわ。間違いないわ。さすがモテメン三英傑。
告白フラグに微動だにしないなんて、相当慣れていらっしゃる。
く~、爆ぜろ!
俺はそんな妬ましい視線を『曹操』――もとい、佐々木に送る。
「悪いが時間があまりない。要件は?」
「えっと……その、あの……」
「?」
「私、佐々木君のことが――」
『おおお……!』
生で見る告白に、俺達一行は興奮を隠しきれない。
その瞬間――
ガタッ!
掃除ロッカーの影から、端っこにいた不壇通さんがはみ出した。
「――あ。」
中腰な姿勢で『やっちゃった感』丸出しで固まる不壇通さん。
その不壇通さんを見て、佐々木が口を開く。
「
「あ、えっと……ごめん。邪魔した、よね……?」
「別に。用があると言われたので足を止めたが、一向に話してもらえなくてな。待たせたか?」
「いや、そんなことは……それより、彼女、お話がって――」
言われるままに、女子生徒を振り返る佐々木。
「悪いが、放課後は先約がある。要件があれば、まとめて後日伝達してくれ」
「あ、佐々木君……!」
「じゃあな」
「えっ、ちょっとみっちゃん!?」
佐々木は反対側の扉から半分泣きべそで出ていく女子生徒を気にもせず、不壇通さんの前まで来ると足を止めた。
「咲愛也の用事の方が優先度が高い。今日は改まって何の用だ?」
その言葉に、俺達一同、絶句。
『うわ~。あっさりバッサリかよ……これだからモテメンは……』
『ちょっと、僕を見ないでくれる?あんなヒドイことしないからね!?僕は話は最後まで聞くよ!なんならデート一回はする!思い出に!』
河飯?行き過ぎた優しさも、時には毒になるんだぞ?
二大モテメンにジト目を向ける俺の脇でブツクサと小言を呟くのは藤吉だ。
『いやアレ、告られるってわかってなかったでしょ?佐々木って、鈍感系だったのね?』
『鈍感系モテメンまじ鬼畜……』
『うわぁ……私なら耐えられない……』
制香ちゃん、俺ならあんなことしないからね?安心してね?
制香ちゃんが告るなら俺はいつだって準備万端――
やっぱり俺から言い出したいから、ちょっと待ってね!
そんな鬼畜モテメンにかける言葉がない俺達の前に、不壇通さんと佐々木が揃って姿を現す。
整った鼻筋に涼しげな眼差し。上品にカットされた黒髪。
姿勢が綺麗なせいなのか、どこか気怠そうな様子にも関わらず、雰囲気が全体的にキリっとしていて、『モテ無双・曹操』言われるのも無理ないくらいのイケメンだ。
恐るべし、佐々木。だが、ウチの河飯も負けないぞ!
「あはは……なんかタイミング悪かったみたいだけど、来てくれるってよ?」
「俺に頼みがあるらしいな?咲愛也を自宅まで送り届けないといけないから、手短に」
「みっちゃん!?私も下神君達のお手伝いするんだから、それまで帰らないってば!」
「ならいい」
「もー!ちょっとは他の子とも仲良くしようよぉ!」
「別にいい。仲良くしようが、しまいが」
「そういう事ばっか言ってると、おじさんに言いつけるよ!?」
「うっ……わかったよ……」
(うわー、マジで幼馴染なんだな……)
不壇通さんの隣に並んだ瞬間に雰囲気が柔らかくなる佐々木。
俺は『幼馴染』という称号の持つ底力を目の当たりにした。
(不壇通さん……まじで『曹操』を手懐けちゃってるよ……)
けど――
「頼もしい限りだ。よろしく頼みます、佐々木君」
「同い年なんだ、呼び捨てでいい」
「頼むぞみっちゃん!」
「…………」
あれ?一瞬イラッとした風に見えたけど大丈夫だった?
隣の不壇通さんを見ると、くすくすと口元に手を当てて可憐に笑っている。
どうやら大丈夫みたいだ。よかった。
「それで、頼みっていうのは?」
「ああ、それは――」
実際に見てもらうのが早いだろう。俺達は佐々木を連れて屋上へ足を運んだ。
扉の前で事情を説明しようと足を止めると、佐々木はおもむろに扉を開く。
「ちょ、まだ説明が……!」
思いのほかせっかちなんですね!ほんと、不壇通さん以外どーでもいいって感じ!
ちょっとは依頼主である俺の言うことも聞いていただきたい!
俺は、藤吉の言った『不壇通さん以外には動かせない』という言葉の意味を理解した。そうこうしている間に――
「ああん?」
「なんだオメー?」
「…………」
不良と佐々木、エンカウント。
「こいつ!こないだユウジをボコったっていう、D組の佐々木じゃねーか!」
「――そうだったか?」
「はぁん!?やんのかコラ!?」
事情を説明するまでもなく、一触即発。
はわはわとテンパる俺、河飯、藤吉の『魂の波動・静』一行をよそに、幼馴染の雄姿にわくわくする不壇通さんと『やっちまえ』感満載の制香。
図らずも一同の期待を一身に背負った佐々木は、俺達を振り返って一言呟く。
「……消せばいいのか?」
社会から?
俺はそこで佐々木の父親がムショ帰りであるという噂を思い出す。
「あ、いや。命まではご勘弁を……」
してあげて?
「?何を言ってる?咲愛也、通訳を」
「ええと、この屋上は下神君達が選挙活動の為にキレイにしたの。それが――」
「わかった。消せばいいんだな」
佐々木は不壇通さんの言葉を半分も聞かないうちに理解すると、ずかずかと不良に歩み寄っていく。
そして一言――
「どけ。邪魔だ」
「「「――っ!?」」」
(いきなりかよっ!?)
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※ お知らせ
ここまで読んでくださった方、いつも応援してくださる方々、ありがとうございます。ただいまアフターエピソード公開中の作品『美人双子に愛され過ぎて、気づいたら監禁されていた』とのキャラクターリンクを開始しました。
EP.1話より、不壇通さんと佐々木君が登場します。
よろしければ、是非そちらもよろしくお願いいたします!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054890475742
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