第16話強者ý

象は図体がでかいから鈍いもんだと思ってたけど意外と速い。原付くらいの速さ。


「僕全力で走ってるだけだからなぁ…スピードじゃ勝てないなぁ」


そりゃあそうだ。全力疾走の自転車でもその半分いくかいかないかくらいなのだから生身の人間がスピードで勝てることなんてあり得ない。


「二次元のキャラみたいにピョンピョン空中ジャンプして象の上に乗って首切るとかできたらなぁ(笑)」


そんな幻想を言ってる暇はない。避けるので精一杯なのだ。あの無駄に大きい足に踏みつぶされたらひとたまりもない。


「先輩が言ってた死ぬ覚悟ってこういうことだったのか~」


もっとサクッといけると思ってたのになぁ。今日の武器はいつもと同じだし。このナイフじゃ象の骨まで入らないよなぁ…。

久々にあいつ使うかな。この間決着付けた後、傑さんに調整も鍛錬もつけてもらったし、やっちゃいますかぁ。


「先輩に見せる予定だったけど、それはまた今度かなぁ。先輩も結構苦戦してるっぽいし」


まぁ見せるって程の技じゃないんだけどね。とりあえず...どうしよっか。象の頭を狙いたいんだけど...高いから当たり前だけどこのままじゃ届かないよなぁ。


「あ、あそこの木ちょうどいいかも…。

ねーねー象さん!!僕についてきてね~」


あのベンチのすぐそばの木にうまく登れれば…っと。


何度も何度もくねくねと急カーブを繰り返し、目的のベンチの傍でスピードを一気にあげる。

急カーブを繰り返したのは重心がずれて倒れてくれることを望んだからだが、そんなにうまくはいかない。

ベンチの背に勢い良く駆け上がり、素早く木の枝に足をかけて次々と上へ登る。


象は僕のことを見失ったようだ。

でも、完全に見失ってもらっては木に登った意味がない。

今のうちにいつものナイフに縄を括り付けその縄を自分の腰にも括り付ける。

腕を動かすと自然に木が揺れるから象もこちらに注目したままだった。

でも見えないから下手に動かない。毒に侵されたら頭もよくなるのかな...?


「まぁいいや。そんなこと考えてる暇ないし。早く片付けないと。先輩に勝てなくなる…」


…準備はできた。よし、あとは象の背中に移るだけ。


左手に縄を括り付けたナイフを握りしめ、象をじっと見据える。


そして、右足で足場にしていた枝を蹴り、その勢いとともに象の背に飛び移る。

右手ですぐ目の前の象の背を、跳び箱でするように後ろに掻く。そして掻くと同時に右手首を回転させ、象の背に跨る。その後すぐに左手に持ったナイフを象の首元に強く深く刺す。


「早く終わらせてあげるからさぁ~!あんまり暴れないでね…っ」


右手で素早く背の日本刀を抜き、象の額目掛け力いっぱいに剣を振り下ろす。

これはテクニックなどではない力任せのようなものだ。


仲のいい剣道部のあいつから笑い話に交えて聞き出したことがここで役に立つとは思わなかったけど。


「…やっぱ1回じゃダメみたいだねぇ。ごめんね何度も何度も…」


外れかけていたナイフを一度抜き取り、もう一度刺す。

そして2,3度剣を振り下ろすと象が膝から崩れ落ちていく。


「おっとっと…あっぶなぁ」


急いでナイフを抜き取り崩れ落ちていく象の下敷きにならないように気を付けながら地面ギリギリに近づいたところでジャンプして降りる。


「えっとーこれを写真にとればいいんだっけ...?こんな写真を提出させるとか幹部の奴らも悪趣味だよね…。ってうわっナイフも剣も血みどろじゃんかぁ。もーっめんどくさいんだからこいつらの手入れ!!」


まぁ1人でぶつぶつ言ったって周りには誰もいないんだけど。

いないならこのキャラやめればいいって?

そんなめんどくさいことしないよ~。

本物になるのは完全に1人の部屋の中って決めてるんだからさ。


「あ、そーいえばもう先輩行っちゃったのかぁ。僕も急がなきゃだ」













血まみれの真剣を背負った鞘におさめ次の獲物を探し歩く。











「そういえばさっきの象って難易度どれくらいなんだろう。ちょっと手こずっちゃった…」





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月ノ輪 レイ @Rei_Tukinowa

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