第12話昔話Ⅱ
「あなたは、弱くはありませんっ」
そう言って私は、なにか生暖かいものを頬に感じながらもにっこりと満面の笑みを見せた。
「強くなった、とは言ってくれないんですね」
「ええ、もちろん。それは私が決めることではありませんから。所詮、他人の評価なんて上っ面です」
「先輩らしい言葉ですね」
「ですから、祐は自分で胸をはって強くなれた、または祐の中にいるお姉さんに認められたと祐が思えるその日まで戦い、生き抜くことをおすすめします」
「もちろんそのつもりですよ」
「まぁいっちょまえに語っては見ましたが正直私は祐が羨ましいです」
何故だかまた目元が緩んだ気がした。いや、気のせいではない。生暖かいものが再び頬を伝う。
「羨ましい...?どうして、こんな過去に縛られた僕が羨ましいんですか。僕からしてみればよっぽど先輩の方がいいように..と言ったらあれですがしっかりとしているじゃないですか」
つい、感情的になってしまう自分がいた。驚きと動揺が隠せない。僕のような出来損ないのどこがいいんですか?!!と問いただしたくなる気持ちを抑えつけ次の先輩の言葉を待つ。
「私のような部外者からすると、祐を縛りつけているのは祐自身なんですよ。だから解こうと思えばできないこともないと思います。でも、それが恐らくですが今の祐はできていない、ということはそれほど深い呪いのようなものなんだと思います。
ですが、私にはなにも無いんですよ。
失いたくない大切な人ももういません。
私が死んで泣いてくれる人ももういません。
目標もありません。
毒に侵された人を怖いとも思いません。
生き甲斐も特にありません。
趣味も特技も特にありません。
幸せを求めることももうしていません。
過去は受け止めきれず辛い時の思い出は半分も残っていません。
未来になにか望みを掲げているわけでもありません。
私を縛るなにもかもはもう既に失ったんです。だから少し祐さんが羨ましく思えてしまいました。
すいません。今日は自分勝手な言葉が多いですね。以後気を付けます。」
「言羽お姉ちゃんは僕が守るからね」
自然にでた言葉だった。自分で自分の口からでた言葉に驚いてしまうほどに。
「...?!ご、ごめんなさい」
「いえ、じゃあよろしくお願いしますね」
「え...?!」
「守ってくれるのでしょう?それなら大歓迎ですよ。でも、その代わり私より何倍にも何十倍にも強くあってください。私は、自分で言うのはなんですが結構強いですよ(笑)」
「はい!!精進します!!(笑)」
今度は、重い鎖のような呪いではなく、暖かな小さな約束事のような、けれども消えることのない灯火が強く、優しく僕を包む。
「では、先輩帰りましょうか」
「お姉ちゃんとは呼んでくれないんですか?」
「それは勢いで言っちゃっただけですからっ」
「そうですか、別に嫌ではありませんでしたよ」
「ではまた呼べる時が来ましたら(笑)」
「ええ。あ、そういえば今日はどうしてここへ?」
「最初は今の事も話すつもりだったんですがもういいです。もう十分話せました。先輩の涙腺も、僕のももう限界見たいですし(笑)」
「あら、そうですか。それではまた機会があれば」
「はい」
「部隊長に一報入れてあげてくださいね。勝手な想像ですが、本部で部下たちにうざ絡みしてると思いますので(笑)」
「言われてみれば、そうかもしれませんね(笑)」
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