第11話昔話Ⅰ

「わざわざこんな遠くまでありがとうございます。今日はちょっと僕のことを知ってもらおうと思ったのでおよびたてしました。先輩のことはこの間少し教えていただいたので。」


「そう。なら聞かせてください、少し興味もあったので。」


「ええ。まず僕の家はありません…いえ、帰る場所はありましたが、大切に思える温かな家ではなかった。僕が4歳の時に母と父が毒に侵されて殺されました。本来ならばここで警察と繋がりのある孤児院などへ送られるんですが、残念ながら僕と燐花りんかお姉ちゃんはそうはいかなかった。


無戸籍だったから。


ただの拾い子だと思われたんでしょうね。だからどこかの家へ帰そうとした。でも戸籍がなかった。当時はおそらくですが毒殺優先部隊のようなものがなかったんだと思います。だから警官しか来なかった。

それで手いっぱいで大人は戸籍のないその辺から湧いて出てきたような子供なんかに費やす時間なんかなかった。

そのせいで近くのおんぼろで衛生管理なんてなってない孤児院に強制的に入れられた。

それはそれは酷かったですよ。言うことを聞かなかったらすぐ暴力・暴言。

みんな職員の傀儡子くぐつのようでした。

まぁ僕も例外ではなかったんですけどね。

でも、多少は自分の意思はありました。燐花お姉ちゃんがいたから自分を見失わずにいられたんだと思います。

時々バレないように外へも出ていました。

他の子は完全に職員の手の中って感じだったからそんなことする子はいなかったですけど。




ある日、僕が小学3年生の時いつものように燐花お姉ちゃんと出かけていたんです。近くの川にかかる橋の下に秘密基地をつくってここが本当の僕らの家だって言って遊んでました。

いつも僕はそこに行く度お姉ちゃんは僕が守るって言って旗を掲げて遊んでいました。言葉自体は本気でした。

普段は人なんて寄り付かない静かなところなのですが、その日だけは秘密基地がおかしかった。

見たことのない、あかいべとっとしたものが周りにあって、それは秘密基地の中へと続いていた。

遊びの延長で燐花お姉ちゃんは、


『まってて!今お姉ちゃんが中を調べてくるから!祐は、見張りしててね!』


と言って中に入って行きました。


20分経っても25分たっても…いや、恐怖があったからそんなに長くはなかったかも知れませんが小学3年生の頃の小さな僕にはそれほど長い時間に感じました。

何度呼びかけても燐花お姉ちゃんは反応しなかった。声は届かなかった。



そして僕が叫び疲れていた頃に突然前触れもなく、秘密基地が壊れました。

もともと小学生の子供の遊び場だったから大人が立つと簡単に壊れてしまうそんなもろいつくりでした。


そこには毒に侵された人が燐花お姉ちゃんの大切にしていた髪留めを付けていました。手は、周りにあったものと同じようなあかくてべっとりとしたものがついていました。


僕は必死で燐花お姉ちゃんを呼びました。でも答えなんて返ってこない。そんなこと信じたくなくて何度も何度も叫びました。逃げ惑っていました。



あと少しで捕まるっ



そう思った瞬間目の前に誰かかが立っていました。

そして、今度は紅いさらさらとした液体が僕の前に、彼岸花が咲くかのように散りました。細いたくさんの紅い線と紅く細かい水玉模様のようなものが僕には彼岸花の様に写った。

綺麗…と思ってしまうほどのナイフさばきでした。


でもすぐに恐怖が元に戻り僕はその場で立ち尽くしていました。

そしてその人に僕は保護されました。

その人には恋人がいました。

婚約もしていたみたいでした。

そんな2人に包まれて僕は1人で生きました。


燐花お姉ちゃんはその人が…今のがくる前に息絶えていたそうです。

僕が守るといっていたのに約束を破ってごめんねと何度も謝りました。


何度も何度も僕がその名前を呼んだから、部隊長は燐花お姉ちゃんが僕の姉だと気付いてくれていたようです。火葬のあとに小さな燐花お姉ちゃんの白い小さな遺骨と、あの髪飾りを渡してくれました。今聞くと普通に業務違反だそうですが(笑)

そして、僕には燐花お姉ちゃんと、お父さんとお母さんと、すぐるさんと桜さんという家族がいました。

今僕とともに生きているのは傑さんだけですが。


燐花お姉ちゃんのことがあってから僕は毎日傑さんに稽古をつけてもらいました。そして今に成ったんです。

でも結局弱いままです。毒に侵された人を殺した後に泣きそうになるなんて…。傑さんには合わせる顔もありません。

休んでいる今も、前も傑さんは家に帰ってきていません。たぶん僕に気を使ってくれているんだと思います。

決着がついたら連絡しろと、置き手紙だけのこしてくれていました。」


「では、これが祐さんの…の決着なんですね」


「..?!…ええ、そうです」



「あなたは、―――――――――っ」



そう言って私は、なにか生暖かいものを頬に感じながらもにっこりと満面の笑みを見せた。



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