第6話人間
「祐さんは、人間を相手したことはある?」
「僕はないです。でもだからワクワクしてます!」
「祐さん、一回死んできて。...ごめん。なんでもない。本当に殺した後もその気持ちのままでいられたならすごいと思いますよ。」
「毒に侵されたら人は人でなくなるんですよ?それを殺したところで誰も悲しまない。」
…なんだろう。祐さんはなんか違う。私とも違うし、普通でもない。なにか毒に侵された人間への執着というか特別な感情があるのか。違和感しかない。
「それは違う。…まぁ言葉で言ってもわからないか。実際見てみたらいい。」
「ええ。わかりました。」
「「目標、発見」」
「周りに死んでいるのは......?」
「もちろん毒殺優先部隊員。」
「そうですか、じゃあ頑張らないとですね。」
…さっきの毒に侵された人間の死と、普通の人間の死、あからさまに態度が違う。
だめだ。このタイプ苦手だ。昔の奴らにどことなく似ている。
「1人、2人ずつでいいですよね?結嶋先輩?」
「え、ええ。わかった。」
「では、僕から失礼します…っ!」
祐さんは軽くその場でジャンプした後、ゆっくりと歩いていきあと数十㎝のところで一気に間合いを詰め、左利きなのだろうか。左手に持った刃渡り20㎝弱のナイフで綺麗に心臓へ。その後すぐに右足で男を蹴り飛ばす。
実に早く、綺麗な殺し方だ。
「じゃあ私も。」
一気に近づき背負い投げ。腰をうまく使えば私のような小柄な人間でも大人を投げることは容易だ。そして倒れたところに銃で一発。シンプルなこの殺し方が一番好きだったりする。あまり外傷を付けずに、余計な弾は使わない。人は、たとえ毒に侵されていても人なのだから、敬意を払って戦わなければ。
他の2人も難なく撃退。
その後、遺族がきて泣いていく。今回の場合毒殺優先部隊員を殺しているが、この組織は秘密裏のもののため人は殺していないこととなる。
私たちは警察官という設定になるのだ。いや、本来は...だ。私たちのような飛び級組は裏に隠れておくしかない。なぜなら、見た目で年齢がバレてしまうからに決まっている。
「うちの旦那を殺してくれてありがとうございます…。いなくなって、しかも毒に侵されたのはとても辛いことです…が人を殺していないと聞いて安心しましたっ。」
泣きながら微笑んでいたようだ。飛び級組は人づてに聞くのだ。
この時代、毒に侵されて死ぬ人は多い。だがその中で、人を殺さずに死んだ人は貴重なのだ。正確には殺している場合がほとんどだ。だが秘密裏に動いている毒殺優先部隊員などを殺した場合は殺していないの方に入ってしまう…。秘密裏に動いているからこそ、自分が揺れ衣を着なければならないのだ。相手は自分を殺しているのに、殺していない。でも自分には毒に侵された人間に負けて殺されたという汚点のようなものだけが残る。
この仕組みだけはいつまでも慣れない…いや慣れたくもない。
「祐さんどうだった?」
「殺すまではよかったんですけどね…。そのあとが無理です…。」
「ね。最初言ったことわかった?」
「はいっ…。毒に侵された人間のことよりも、その遺族が、真実を知っている僕たちからしてみればとても悲しかったです…。そして、殺された隊員の分も。少し悔しいです…。なんでですかねっ、こんな複雑な気持ち初めてですっ。まだ13歳の僕にはよくわかりません、、とか年齢のせいにしたくなりました…。」
無理やりでも泣かないように...いや、泣いているがそれをごまかそうと笑っている自分より幼い少年を見ると、早くこの戦いを終わらせなければと強く思う。
「帰りは電車でも使いますか?夜空が綺麗ですよ。戦いは終わったんです。一度心を落ち着かせてください。でないと、こんなことはしょっちゅうあることなんだから。一々心を壊していたようじゃだめです。切り替えの方法を見つけないと。」
「そうですね。...結嶋先輩は大丈夫なんですか?」
「大丈夫なわけないです。でもこの毒殺優先部隊に入ったからにはこれが日常なんです。仕方がない事なんです。私は毒殺優先部隊に入ってまだ半年ちょっとの新米です。ですが今日殺した2人を含めると、
103...
103人です。」
この言葉を行った時丁度電車が駅のホームに入ってきた。
乗りながら祐さんは話す。
「…そうなんですか。覚えているんですね。」
そっと端っこの席に並んで座った。
「その中の8人は顔見知りで、仲の良かった人です。ある1人は、昔からの友人でした。またある1人は来週ご飯でも行こうかと言っていた友人でした。
あと6人は肉親です。そこまで仲が良かったわけではありませんでしたが十数年一緒に居たわけですから流石に撃つのは心苦しかったですよ。母方の祖母と祖父、父と母、姉と弟です。そうですね、弟は年子でしたから丁度あなたと同い年です。家族の中では一番好きで一番仲が良かったですね。ふとした瞬間にあなたと弟を重ねないようにこれから気を付けなければなりませんね。」
「結嶋先輩…?なんで笑っているんですか…?」
「あぁ、すいません。私は無理にでも笑うんです。でないとすぐ泣いてしまいますから。人の前では泣かないと決めたんです。昔、弟と。でもそのおかげで、私の切り替え方はすぐに見つかりました。泣くことです。」
「そうですか…。僕も早く見つけて結嶋先輩に追いつかないといけませんね。」
「頑張ってくださいね。でも、私も簡単に追いつかれるような先輩ではないので。」
軽く2人で笑う。その言葉の後は、お互い言葉を発さない。
私は少し語りすぎたなと心の中で思いながらも、きちんと人の死について理解してくれた祐さんのほんの数時間の成長を嬉しく思った。
祐さんはキョロキョロと外を見ながら、きっと切り替えの方法を模索しているのだろう。
まだペアでの戦いは始まったばかりだ。
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