第3話出撃

「結嶋。」

ノイズ音と共に聞こえる、低く落ち着いていて、尚響く小波傑こなみすぐる毒殺優先部隊長の声。ノイズ音の奥には…繫華街にでもいるのだろうか。賑やかな人の声が途切れ途切れで聞こえる。

一応、トランシーバーにはGPSがついていて各隊員がそれぞれ見られるようにはなってはいるのだが人のプライバシーに興味はない。


「次はどこですか。」

淡々とした声で対応する。いつ出撃となってもいいように日頃から準備はしてある。

というか、それ以外することがないのだ。趣味もない、友達もいない、仲のいい身内もいない…随分哀しいやつに思われるかもしれないがこれでも充実している。


「いつでもいけるんだな、さすが結嶋。えっと確か3年の飛び級だったか。」


「4年です。まだ14ですので。」

普通、この特殊部隊に入るのは18歳からなのだが私の場合は飛び級…というか武術と剣術の師匠からの推薦で入らせてもらった。元々志願していたから少し嬉しかった部分もある。


「あ、そうかそうか。」


「それで、次はどちらですか。」


「そこから9時方向に100m、2時方向に50m地点だ。目標は体長180㎝前後のツキノワグマ。現在被害者はなし。付近に人影もなし。近くの山だな。ここ最近雨が降っているから地盤も緩くなっているだろうが気にせずいつも通りいけ。無理そうだったら引け。戦略的撤退は誰も責めやしない。わかったな。」

一瞬で声色が変わる。やはりこの切り替えのスピードはさすが部隊長というところだろう。まぁ私は普段から戦闘準備をしているから切り替えなど必要ないのだが。


「了解です。6分で仕留めます。」


「結嶋、お前制限時間決めるの好きだよなぁ…。無理だけはするなよ?絶対にだからな。将来有望のお前に怪我させたら怒られるのは俺なんだからな、、ったくやっぱりまだ子供だな。…あれ、もう切ってやがる。」



部隊長は無駄に話が長い…。そこだけは好かない。

あ、目標確認。見えた。

向こうはこっちと目が合うと牙をニヤァと出して口元をよだれが伝う。

まずは遠距離から向こうの毒の進行状態を見極める。ただ襲ってくるようだったらまだほとんど毒のまわっていない状態。あまり唾液に気を遣わず戦える。襲う時にあからさまに人間の弱い部分を狙ってきたり、また、爪での攻撃より鋭い牙を使った攻撃が多い場合は毒が回ってきている証拠だ。

遠距離からまずは威嚇射撃。

向こうは怯える様子もなくゆっくりと近づいてくる。鼻をクンクンとさせながら近寄り、私の顔との距離はあと10㎝ほどのところで口を大きく開けた。

少し後ずさるも地盤が緩いのと、斜面なのもありあまり長引かせるのはよくないだろうと思い決意する。

決めた瞬間、私の右手はナイフフォルダーからナイフを抜き取りそのまま心臓へ。それと同時に左手で銃を構え鼻を狙って撃つ。

するとツキノワグマは後ろへ倒れた。


「完了。…わっとっと。危なかった。」

ギリギリ近くにあった木を持ちそれで身体を支える。


「終わったか?今日は4分…だな。ツキノワグマにしては早めの戦いだったな。」


「わざわざいつも計ってくれてありがとうございます。ちょっと地盤が緩かったので。」


「あー俺ならあんなところで戦いたくもねーわー。早く家に帰りてぇ。嫁にあいてぇ。あ、俺独身かぁ…。」


「部隊長が何を言っているんですか。次の戦い待ってますね。」

そう言いながら体制を元に戻す。

毎度毎度時間を計ってくれる部隊長はなんだかんだ言って優しいと思う。まぁやっぱり話は長いが。

次の戦いに備えて、刃を研いでおかなければ。師匠がくれたこの刃。大切にしないと。

肉親よりも大切な師匠がくれたものなのだから。




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