誰にも言えない、私の初恋の話。

@marry_me

第1話

「歌鈴、終わった?もう暗いから途中まで一緒に帰ってやるよ。」


塾に通い出す子が増え、周りの影響を受けた親が、家が近いからという理由で決めた塾でのこと。算数の問題を解く手を休め、ふと顔を上げるとまだ幼さの残る彼。・・・あぁ、懐かしい・・・。小学生の時の夢を見るなんて。


「・・・なに企んでるのよ、掃除の時はあんなにブスブス言ってたくせに。」

「ちょ、まだ根に持ってるのかよ、・・・しゃーねーな。ほら、このキャラ好きだって言ってただろ?切り抜いてきてやったから、機嫌治せよ。」

「・・・、しょーがないな。次も読み終わったら切り抜いてきてくれたら嬉しいなっ!」


彼、渡辺裕太は学年が一つ下で近所に住んでいる。小学校の清掃班も一緒で、話す機会が増えて・・・この頃からもう好きになってたんだと思うんだけど、馬鹿な私はそんな事に気がつかず、漫画のキャラが1番で現実なんて見てなかったの・・・。

課題が終わり、先生に提出し合格点をもらうと帰宅の準備にかかる。ワインレッドの私のランドセルは既に彼が持っていてくれた。


「いくか。」

「うん、待たせちゃってごめんね。」


塾の先生に挨拶を済ませると、街灯の灯りを頼りに彼の半歩後ろを歩く。一つ下の学年と言えど、隣を歩くのは照れくさくて。皆がいる時はちゃんと喋れるのに、2人きりだと短い返事しか出来ない。

・・・変な気持ちだった、これがなんて感情なのか表現出来なくて。沈黙のまま私の家がすぐそこに見える。彼と過ごす時間は、今日はおしまいだ。


「ばいばい、気をつけてね。また明日。」


一瞬だけ、・・・彼の顔を見つめ、なるべく平常心で別れの言葉を紡ぐ。彼も短くじゃ、って返事をして僅かに歩調を早め帰路につく。

・・・今振り返ると、私の歩調に合わせてくれてたんだなって気づくんだよね。こういうさり気ない彼の優しさが心地よかった。


「・・・本当に好き、だなァ。」


携帯の画面は5:30を過ぎたところ。部屋には朝日が差し込んでいる。そんな中、しんと静まり返った空気に溶け込むかのように、私の独り言は消えていった。・・・幼き彼の姿はもう居ない、夢から覚めたから。

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