第16話 巣の中を歩く

 竜王の巣、内部は真っ暗だった。

 ドラゴンは暗闇でも目が見える特殊な目を持っている。ちなみに俺も暗視眼の魔法を使えば見ることが可能だ。

 メオンも暗視眼くらいは使えるらしく、灯りをつけずに付いて来る。

 意外とほかのレミ、ミナ、アイシャの3人も使えるようだった。まあ、そこまで難しい魔法ではないか。


「広いな。どこにいることやら。知恵のあるドラゴンを見つけたらそいつに聞くか」


「教えてくれるのか?」


「聞き出す」


「どうやって……とは聞かないほうがよさそうじゃな」


 俺達は竜王の巣を歩く。

 しばらく歩くと、かなり近くで雄たけびが聞こえた。


 そして、ドシンドシンと地面が揺れて、巨大なドラゴンが姿を現した。

 赤い色。この大きさは古代龍(エンシェント・ドラゴン)か。

 500年は生きていそうだな。


「うわ……うわぁ……」


「終わりだぁ……絶対死んだよう……」


「…………」


 レミとアイシャはブルブルと震えている。ミナはピタリと微動だにしない。また気絶したな。


『人間か。殺されに来たのか?』


 ドラゴンが低い声でそう言ってきた。


「何! 殺してくれるのか! よし! じゃあ殺してみろ!」


『……変な人間だな。望みどおり殺してやろう』


 ドラゴンはそう言って俺を踏み潰してきた。

 グシャ!!

 俺にドラゴンの大きな足が乗っかる。


『次は他の奴らだ』


「「ひぃい!」」


 俺を殺した、と思ったドラゴンは、標的を変える。レミとアイシャはかなり怯えている。


「その程度じゃ……」


『ぬ?』


「死ねないんだよ!」


 俺はドラゴンの足を持ち上げて、投げた。


『ぬああああ!?』


 巨体が宙に浮いて投げられて地面に落ち、地面が大きく揺れ轟音が鳴り響いた。


「あーあ、殺してくれるっていうから、殺されにいってしまった。無駄ってわかっているのに」


「ペ、ペレスさ~ん……!」


「あのドラゴンを投げ飛ばすとは……」


 アイシャは腰が抜けたのか座り込んだ。


「難儀な性格をしておるのう……」


 そういいながら、メオンがとどめを刺すための邪術を使おうとしている。


「やめんか」

 

 俺はメオンのその行動を止める。


「何故じゃ」


「居場所を聞くと言っただろう。それに今回は黄の賢者に知識を教えてもらいに行くのに、ドラゴンを殺したら非常に心象が悪い。殺生は禁止だ」


「面倒じゃ。我はお主に従う必要は無いわい」


「従わないのだったら、強引に追い出す」


 俺は少しメオンを睨みながら言った。


「ぐ……分かったわい。殺しはやめる」


 メオンは邪術を使うのをやめた。


 俺はその後、ドラゴンに近づき、


「さて、俺は黄の賢者を探しているのだが、どこにいる?」


 と尋ねた。


『ぐっ……バラシア様の事か? 誰が貴様ごときに』


「口には気をつけろよ。俺はドラゴンには結構詳しい。どこが弱点とか、痛みを感じやすい場所はどこかとか、全部分かっている。例えば、この翼の付け根あたりとか」


 俺は翼の付け根まで行き、そこをじわじわと攻撃した。


『いだだだだだだ! 分かった言う! 言います! やめてください!』


 いきなりへりくだってきた。ドラゴンにも色んな奴がいるが、こいつは強い奴には下手に出て、弱い奴には威張り散らすタイプの奴みたいだ。


「ド、ドラゴンをまるで赤子のように……」


「強すぎるわ……」


 アイシャとレミが、震えながらそう言った。


「で? 賢者はどこだ?」


『人間共が黄の賢者と呼んでいる、バラシア様なら、巣の最奥におられます……そこまで行くには、俺なんかよりずっと強いドラゴンを何体も倒さないといけない。帰ったほうが身のため……』


「そうか、奥ね。あ、お前はしばらく寝とけ」


 ドンと頭を打って気絶させた。起こしてると邪魔されるかもしれないからな。殺せないとなると仲間呼ばれたりしたら結構めんどくさいし。


「じゃ、行くぞ」


「帰ったほうが身のためって……今のドラゴンより強い奴が何体も」


「大丈夫だろ」


 俺は特に気にする事無く、先に進んだ。


「うー、帰りたーい。帰らないまでも、この辺で待機していてもいいんじゃない?」


「それこそ危険だ。ペレス殿に離れないように行かなければ、死、あるのみだ……」


「そうかー……」


 アイシャとレミが俺の後をついてくる。


「おい、もう1人忘れてるぞ」


 メオンがそう指摘する。


「あ、ミナ! 忘れてた」


 その後、気絶したミナを起こしに行ったようだ。待つのもめんどくさいから俺は先に進む。


「あー! 待ってくれー!」


「おいてかないでよー」


 アイシャとレミはミナを抱えながら追いかけてきた。


 その後、どんどん奥まで歩いていく。

 相手になるドラゴンはいない。


 淡々と倒しながら先に進む。


 そして、


『我は超雷轟古龍(スーパー・エンシェント・サンダー・ドラゴン)のエメステアウィドル・ペペレクロメンダオウンだ。この先には絶対に……』


「名前が長い」


 俺は蹴りを放つ。殺さず気絶させるような絶妙な力で蹴って、無駄に長い名前のドラゴンを気絶させた。


「何かラスボスっぽいドラゴンを3秒で倒したんだけど」


 倒すようすを見ていたミナがそう言った。


「あれだけビビッていたのが馬鹿らしくなるな」


「てか、ミナちゃん最初はドラゴンが出るたびに、ビビッて気絶していたけど、平気になったわね」


「慣れた」


 さてだいぶ奥に来たし、そろそろ黄の賢者に会えないかな? ここにいる事は、最初のドラゴンの話から間違えないみたいだし。


 と思いながら少し歩いた所に、かなり豪華な感じの扉があった。


「これは、いそうな雰囲気じゃな」


 メオンが扉を見てそう言った。


「ああ」


 俺が同意する。


「黄の賢者ってどんな人なのかな?」


「凄い物知りなんだろう」


「何か緊張してきた。心の準備をさせて……」


 アイシャがそんな事を言い出したが、俺は聞き入れない。

 扉を開いて中に入った。




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