第8話 脱出

「痛たたたた」


「お尻がいたいよー」


 穴に落下してアイシャとミナが痛そうにうめく。


「どう考えても私が1番痛いと思うんだが」


 アイシャとミナに下敷きになっていたレミが、恨みのこもった表情でそう言った。


「あ、ごめんごめん!」


「レミちゃん、ごめん!」


 2人は慌てて立ち上がり、レミの上からどいた。

 どいたあと、レミもゆっくりと立ち上がる。


「ここはどこだ?」


 レミは周りを注意深く確認する。


「もしかして……アジトの中に入ってしまったのか?」


「そ、そうみたいだね」


「ど、どうする?」


 アイシャが慌てながら聞いた。


「出る……と言っても、奴らに見つからず出れるかな? アジトの中に入ったと分かれば、出口付近に見張り役を残しおくだろうし……」


「難しいだろうな。どうするか…………」


レミは考えながら、ふと上を見上げて穴を見た。


「この穴、やはりあの男が空けたものではないだろうか」


「ペレスさんだね。アタシもそう考えるのが1番しっくり来ると思うよ」


「仮にそうだとすると、ペレスは常人離れした力を持っているということになる。そして、やつはアジト内にいるだろう」


「力を貸してもらうのかー……」


「多少不本意だが、この際、仕方あるまい。呪いを解きに来たのならゲルヘナードは奴にとっても敵ということになる。共闘する事は可能だろう」


「そうだね」


「じゃあ、探そう」


「問題はゲルヘナードの連中に見つかる前に、探し出せるかだが……」


「後ろ向きな事、言わないでよ」


「すまない。じゃあ行くか。こっそりと、音を立てないようにだぞ」


 3人はアジト内にいると思われるペレスを捜索し始めた。



「いないな……」


 3人が捜索を開始してから30分ほど経過。

 結構広いアジトのようで、捜索に手間取っていた。

 広いことで逆に敵に見つかりにくくなるという、メリットもあったため、まだ敵と出くわしていない。


「ん? この扉は」


 大きな扉を発見した。何やらおどろおどろしい絵が描かれている。


「ね、ねぇ? 入っていいの? この扉……」


 ミナは扉を見てかなり怯えている。


「……嫌な予感は確かにするな」


「やめとく?」


「うーん、しかしこの先にいるかもしれないからな……とりあえず、慎重に入って中を調べるくらいはしたほうが良いだろう」


「そ、そうだね……」


「怖いけど仕方ないかぁ」


 扉を開けるのはレミが担当した。ゆっくり慎重に扉を開く。


 そして3人は慎重に中に入った。そこに……


「おーい、大丈夫か~? あーあ、魔力切れてるなこりゃ」


 ぐったりと倒れている女の子と、その子に声をかけるペレスがいた。



 ○



 俺は魔力が切れて倒れたメオンをどうしようか悩んでいた。

 何もしないでおいていくか? しかし、一応俺を一生懸命殺そうとしてくれたのに、放っておくのは薄情というものではないだろうか?

 せめて、この施設にいるものに、メオン倒れてますよー、と伝えるくらいはしたほうがいいかもしれない。


 ガチャ!


 いきなり扉が開いた。アジトの奴が入ってきたのか? それはちょうど良かった。


 俺は扉の方を見てみる。3人の人間が立っていた。


「ペレスさん!」


「ホ、ホントにいた……」


「その子は誰だ?」


 人間達は俺に近づいてくる。


「……お前ら誰?」


 何か俺のことを知っている風に話しかけてきたけど、正直誰か分からない。


「「「は!?」」」


 三人の声がはもった。


「さっき道を教えてやっただろうが! 名前も教えただろ!」


「ん?……さっき……? ああ! あの時の冒険者か! えーと、レミとミナとアイシャだったな」


 顔が分からんから気付かんかった。まあでもよく考えてれば、俺のことを知っているのは、あの冒険者の3人しかいないよな。


「この短時間で忘れるかしら……普通」


「お前らの顔に特徴がないのがいかん」


「失礼ね! この美少女を捕まえてなんてこというのよ!」


 えーと、こいつはピンク色の髪のアイシャか。アイシャがかなり怒る。


「もっとさぁ。鼻と目の位置が逆にあるとかじゃないと見分けつかないだろ。俺に覚えて欲しかったらそういう顔に変えるんだな」


「どんな化け物!? なれるかそんな顔に!」


「じゃあ覚えきれねーな」


「覚えてもらわなくて結構よ! むかつくわねこいつ!」


「アイシャー。この人に怒っても無駄に体力使うだけだよー」


「は……はぁ、そうね……」


 ミナの言葉を聞いたあと、アイシャは深呼吸を始めた。


「ところで、その女の子はなんだ?」


 レミが尋ねてきた。


「メオンという名の女だ……たぶんここのリーダーだと思う。そういえば聞いてなかった」


「メオン……!? そいつが!?」


「伝説の邪術師の正体がそんな子供だったなんて」


「知ってるのか?」


「その子がメオンだとしたら、確実にここのリーダーである」


「そうなのかー」


 まあ、あれだけ強力な魔法を知っているなら、当然リーダーだろうな。


「しかし、メオンを倒したのは僥倖だ。今すぐ捕らえれば、ゲルヘナードは壊滅したも同然だ」


「そうだなー。……そういえばお前ら調査とか言ってなかったか? 調査ってのはアジトのこんな深くまで来るもんなのか?」


「あんたのせいでしょ!」


「そうだ。森に穴を掘ったのは貴様だろう?」


「ああ、そうだけど、それがどうした?」


「それがどうしたじゃない! 穴を掘ったのを我々の仕業だとゲルヘナードに思われたのだ! 殺されそうになって、焦って穴の中に逃げ込んだら、ここまで来たのだ」


「大変だったんだなー」


「他人事か!」


 そんなこと言われてもな。穴掘ったらこいつらがピンチになるなんて、想像できないしな。


「もういい。メオンを確保してアジトから脱出するぞ」


「ん? そうかメオンを捕まえたいのかお前ら」


 どうしようかな。

 一応俺を殺してくれようとしていたんだ。捕まるのをみすみす見逃すのもなんか悪い気がする。


 仕方ない。こいつが目覚めるまで、俺が逃がしてやるか。


「俺はこう見えて結構律義者だからな。こいつを助けてやろう」


「は? なんだ貴様、メオンに呪いを解いてもらいでもしたのか?」


「解いてもらおうとしてたんだ。失敗したがな。一応俺のためにやってくれたということで、逃がしてやることにする」


「待て待て。そいつは極悪人だぞ。逃がしても得なんか……」


 俺は周囲を見回す。


 お、あれなんかいいな。


 そう思い、部屋中央にある大きな青い球に俺は近づく。そしてその球を手で持ち上げた。

 その球を天井に向かって思いっきり投げた。


 ドガアアアアアン! 物凄いスピードで球は天井に激突して、ものすごい音がなる。球はそのまま天井を貫通して行き、地上まで繋がる大きな穴を空けた。


「じゃ」


 俺はそう言ったあと、メオンを抱えてジャンプ。

 空いた穴から地上に出た。



 ○



「「「……」」」


 あんぐり口を開きながら、レミ、ミナ、アイシャの3人は、ペレスがメオンを連れ去っていくようすを見ていた。


「なにあれ……?」


「分からんが……とにかく今は……」


 背後から大勢の人間が走ってくるような音が聞こえてくる。その音をは徐々に大きくなる。その後、


「メオン様の部屋で何があった!」「敵が侵入したんだ!」「メオン様を助けるんだー!」


 と声が聞こえてきた。


「逃げるぞ! ミナ! あの穴から出れる魔法ないのか!?」


「浮遊する魔法は使えるけど……3人いっきに出来るかわからない……」


「気合で飛ばすのよ気合で!」


「落としたら……ごめんね……」


 その後、何とか3人はミナの気合の魔法で外に出て脱出に成功した。







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