第9話 大聖堂
その後、俺はメオンを抱えながら町を探した。
思ったより近くに町を発見した。町と言うより都市だ。ど真ん中に大きな城があるのが見える。
名前は『ベムサカス』。聞いたことある名前だ。まあ、都市の名前なんてそう頻繁に変わらないか。
さて町に付いたがメオンはまだ目覚めない。
その辺に放置するのもアレだし、宿でも借りてそこに寝かせてやろう。
ちなみに宿は俺も利用する。この町デカイからしばらくここで調べていよう。本来俺は寝なくてはいい体なはずだが、なぜか眠気を感じてしまう。別に寝るのは嫌いではないので、気にせず今まで普通に寝てきた。その辺で寝るのもどうかと思うので、俺も宿はあった方がいいだろう。
問題は金だ。一応持ってきている。超昔の金を。300年くらい前の金貨10枚を持ってきている。
これ今でも使えるのか? 無理か? とりあえず聞いてみるか。
その辺の店に入って尋ねて見た。ちなみに店ではメオンは担ぐようにして持っている。怪しまれたので、妹と言った。
買い物だが無理だった。
ただ、こんな昔の金貨は珍しいので売れるかもしれないと教えてもらった。この店では価値は分からないが、近くに古い宝ものなどを扱っている店があると聞いたので、そこまで行った。
その店で金貨を売ったら、やけに高く売れた。
100枚くらい初めて見る金貨を貰った。
この時代の金貨が1枚どれくらいの価値があるかは不明だが、100枚あればそれなりの額にはなるか。
その後、宿を借り、その宿の部屋にあるベッドにメオンを寝かせた。魔力切れで意識を失っているため、恐らく1日中目を覚まさないだろう。
とりあえず何か探すか。これだけ大きい都市なら図書館とかあるだろうし、調べるにはちょうどいいだろう。
……いや、冷静に考えて図書館に不老不死の呪い解く方法が書かれた本なんて、置いてあるか?
ないだろうな。一般人でも読めるような本に俺の呪いについて書いてあるとは思えない。
呪いについて詳しい人物を聞き出して、そいつに聞きに行くか。
俺は宿の主人に話尋ねてみる。太っているので性別が分かりにくい。髪が薄いのでたぶん男だと思う。
「この街で、呪いに詳しい者はいないか?」
「呪い? あんた呪われているのか?」
「ああ、死ねない呪いをかけられているんだ」
「……はぁ?」
信じていないような表情だ。別に信じてもらう必要は無い。
「あー、とりあえず呪いについて聞きたいなら、ペレペルスト大聖堂にいるグラハムって司祭に聞いてくればいいと思う。結構呪いに詳しいって評判なんだ」
「なるほど。ペレペルスト大聖堂だな。どこにある」
「この宿から南の方だ。詳しい場所は現地付近に行って聞けばいい」
「南だな。情報感謝する」
俺は宿を出てペレペルスト大聖堂に向かった。
向かっている途中、俺はある噂話を耳にする。
「なあ聞いたか」
「突撃隊がゲルヘナードのアジトに攻め込んで、一網打尽にしたそうだぜ」
「そうなのか。これで街道がより安全になるな」
動きが早いな。俺がアジトを出てベムサカスまでたどり着き宿を借りるまでに、そこまで時間を要したというわけではない。それでもすでに突撃隊が出動してアジトを潰したという事は、あの3人の冒険者には何か離れている者に情報を伝える手段でもあったのだろうか。
あのアジトがどうなろうと俺の知った話ではない。メオンには関係ある話ではあるが。
俺はまったく気に留めず引き続き大聖堂を目指して歩いた。
○
それからしばらく歩いて、大聖堂に到着した。
白い大理石の建物で、壁にはステンドグラスが張られている。
大昔の俺なら、「美しい」と一言漏らしそうな建物だが、今の俺が見ても何の感慨も湧いてこない。
大聖堂の中に入る。
中には礼拝に来ている人がそれなりにいた。皆、前方に描かれているドデカイ絵を崇めているようだ。
その絵を見て思い出した。この大聖堂は、俺が暇つぶしで創始した宗教、トルギャン教の建物みたいだ。
創始したのはずいぶん昔になる。3000年は前かな? もはや昔過ぎてどんな教えだったのかとか、どんな戒律があったのかとか、すっかり忘れてしまった。
耳当たりのいい言葉を適当に並べたような気がする。この世で善行を積めばきっと救われるー、とか。愛は世界を救うー、とか、超適当に言っていた気がする。
まあ、言う事は適当でいいからね。
ちょっと常人には出来ない奇跡を起こして、私は神の子だ! とか言えば皆、信じて崇めてくるようになったからな。
最終的に、飽きたからそろそろやめたいと思って、弟子に裏切られて死んだ事にしようと思ったんだったな。それで、斬首される事になったんだ。
再生能力を一時的にきった状態で斬首されたんだ。斬首されたあと、イタズラ心から首だけの状態で信者共に語りかけてやったんだよ。その時は皆、驚くだろうと思ってやったんだけど、少し読みが外れた。驚くのではなく、首だけの状態で語りかける俺の姿に信者共は感激していた。
その時の様子が大聖堂に絵として飾られていた。かなり有名なエピソードの一つとなっているらしい。
しかしこの絵、だいぶ当時の状況を脚色して描いているな。
生首が喋っていて、前にいる信者達がひれ伏しているという構図の絵だ。ただおかしなところが3点ある。
まず、生首が光っているということ、次に生首が宙に浮いているということ、最後に生首が巨大化しているということだ。
確か当時は、斬首されたあと首を晒し台に乗せられて、そこで普通に喋ったはずだ。光ったり浮いたり大きくなったりなどしていない。
やろうと思えば出来なくもないが、別にそんな演出しようなんて全く思ってなかったからな。
こうやって過剰に描かれ方をするのは、よくあることではあるだろう。
ま、ここが俺の創ったトルギャン教の建物だというのはどうでもいいよ。
今日の目的は司祭にあって呪いについて聞く、だからな。
どこにいるんだろうな司祭って。
探しているとシスターっぽい格好している人を発見。
胸があるし、たぶん女だ。女じゃないとシスターっぽい格好はしないか。
俺はそのシスターにグラハム司祭の居場所を尋ねてみる事にした。
「こんにちはー」
「あら、こんにちは。初めて見る方ですね。礼拝に来られたのですか?」
それは違う。俺がトルギャン教の大聖堂に礼拝に来たのなら、自分を拝みに来たということになる。そんな奇妙な趣味は持ってない。
「グラハム司祭に会うためにきたんだけど」
「あら司祭様に何かご用でしょうか?」
「どうやったら死ねるか尋ねに来たんだ」
「え……?」
俺がそう言った瞬間、シスターが顔を青ざめさせる。
少し言葉選びを間違えただろうか。
「そうですか……お辛い目に遭われたのですね」
シスターは悲しげな表情で俺の顔を見ながら言ってきた。
言葉選びを間違えたと思ったが、ちゃんと伝わったみたいだ。俺が死ねなくて苦しんでいるという事が。
その後、彼女は俺の手を取り、
「大丈夫です! 司祭はお優しい方ですから、あなたの悩みにも真摯に向き合って相談に乗ってくださいますよ!」
「そうか。それは嬉しい限りだ」
「きっとあなたも前向きになれるはずです! 生きていればきっと良い事がありますから!」
最後の言葉が少し分からなかった。
生きていればいい事がある。つまり生きていればそのうち必ず死ぬという事だろうか?
言われて見れば確かにそうだ。時間は無限にある。そのうち必ず死ぬ方法を見つける日が訪れる事だろう。
中々深いことを言うな彼女は。いいシスターだ。
少し前向きになれた気がする。
俺はその後、シスターの案内についていき、グラハム司祭と会うことになった。
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