第二章 阿修羅Ⅰ Part3

「待ってッ」


 真那が慌てて後を追おうとすが、篤志が遮った。


「おまえらじゃ信用できねェ、アイツはオレに任せろッ」


 一方的に言うと、篤志は琴美を追って走り出した。


「あら~、すっかり信用無くしちゃったわね。それにしても〈アートマン〉はあたしたちをドンドン化け物にしていくわ」


篤志の背中を見送りながら、真那は呆れたように呟いた。


アートマン〉とはバラモン教において、本体、精髄、霊魂、自我を意味する言葉だ。真那は自分たちが使う能力ちからをその名で呼んでいた。


 真那が琴美と初めて出会った時刻に、勇人と篤志も二宮神社の近くた。そして、二人とも同時に貧血を起こしていた。


 真那と昴も、同じ時間に貧血を起こしている。ただの偶然とは思えない。この事から、真那と勇人はこの時に能力ちからを手にしたと判断した。


 事実、これ以前に能力を使ったと思われる事件は誰の記憶にも無かった。昴の体質が問題を起こしたのもこれ以降だ。


「俺はアシュラが出現次第、すぐにおびき寄せるように待機している。昴のことは好きにしろ」


 そう言い残すと、勇人は真那を置いて行ってしまった。


 相変わらず、勇人の考えていることがよく解らないが、琴美を見る眼が一瞬ひどく哀しげなのに曇るのを真那は見逃さなかった。


  おまえらじゃ信用できねェ、か……。


 篤志から信用されていないのは勇人も一緒だ。勇人の心の傷が、先の見えないこの戦いにどう影響を与えるか不安だった。


  ま、あたしも人のこと言えないけど。


 真那は昴の所へ向かうことにした。勇人は大丈夫だろうが、篤志が勝手に昴に接触する可能性がある。その前に昴に会い、戦いに巻き込まれないようにしておかなければならない。

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