第一章 終末の足音Ⅳ Part1

 昴は受話器をもとに戻した。


  まだ、寝てるのかな?


 そろそろ起きているはずなのだが。あとでかけなおすことにして部屋に戻った。


 昴は押入から大きなバックを引っ張り出した、災害時の避難袋だ。しばらくその前でボーッとしていた。一応避難の準備をするつもりだったのだが、やっぱり気が進まない。今ここを出たら、二度と戻ってこれないような気がする。


 とは言え、寿雄が戻ってきてからグズる訳にもいかない。いくら何でも、昴はそこまで子供ではなかった。


 昴は母の遺影をバックの中に入れた。カードや通帳は寿雄が持っている。結局、朝食は鰹節と醤油、それにお湯をご飯にかけて食べた。


  あとは着替えくらいか……。


 昴の視界に机の上に重ねられた数冊の本が飛び込んできた。


  そうだ、これどうしよう?


 その本は、真那が昴に貸してくれたものだった。密教やバラモン教、ゾロアスター教などの宗教について書かれたものだ。


 真那は寺の娘であるにも関わらず、信仰心とは無縁の性格をしている。これらの本も、宗教的ではなく、歴史的、哲学的な見地から書かれたものだ。


 真那は神仏自体は信じないが、それに関する話しは好きだ。お化けを信じていないのに、怪奇番組やホラー映画が好きなのと同じだ。


 昴もさほど信仰心がある方ではないが、時間は充分にあったのでほとんど読んでしまった。内容は難しくてよく理解できなかった。


  そうだ、ぼくも返して欲しい物があった。


 真那は最後に来たとき、昴に小学校の卒業アルバムを借りていった。


  あんなもの、なんに使うんだろう?


 そのとき、真那は数名の生徒についていくつか質問をしていった。その生徒の中に、日下琴美も含まれていた。


  日下さん、どうしてるかな?


 昴は本棚の隅に立っているミデアムブルーのブックケースに眼を向けた。そこには『はてしない物語』と書いてある。図書室で借りて読んで、とても気に入ったので父に頼んで買ってもらった。


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