第38話 ・・・

隣にいた夫にそれを告げてから、

母親に電話をしました。

まりちゃんの心臓が止まったって、病院から連絡があったの。

お母さん、落ち着いて、今からタクシーを呼んで先に病院へ行って。

その方が早いから。

私は夫と病院へ向かうから。


私が病院へ着いたのは、電話を受けてから1時間ほどたってからでした。

病室へ入ると、そこには青い照明があたっているかのように青白くなった妹が眠っていました。


母は妹のタオルか何かををたたんでいました。


担当の医師は帰った後で、たぶん当直の医師だったと思います。

テレビでよく見るように、ご臨終ですと言われたのかどうかは覚えていませんが、

苦しまずに逝かれたと思います。と医師は言いました。

それもマニュアルに書いてあるのを読んでいるかのようでした。


その時がきたらこうしようと事前に母とは決めてありました。

私は葬祭場に連絡をいれ、迎えに来てもらうよう依頼しました。

妹はそのまま葬祭場に運んでもらうよう言うと、

早口で聞き取りずらかったのですが、4万円ですといわれました。


移動の準備のために。私たちは別室でまたされていましたが、

お姉さんちょっと、看護師さんに呼ばれました。

足がね、曲がったままなので・・

妹の両足はくの字に曲がって、大きく開いてしまっていました。

何故か足にいくつものあざがありました。

出来るだけ真っ直ぐになりませんか。母が切ながるので。

結局、開いた両足をひもで結び、膝を立てた状態にしかできませんでした。

布をかけると、足の部分はこんもりとしていました。

妹さんは、何年くらい施設にいたんですか?

看護師さんが聞きました。

ダウン症の人って、結構早くから施設に入る人が多いから。

妹は三年前に施設に入ったんですよ。

じゃあそれまではお家にいたんですね。

はい、家にいました。


支度が済んで迎えが来るまで、母と夫と3人で妹のそばにいました。

私はただただうなだれて、発する言葉もありませんでした。

今はこのままでいたいと思いました。

何時間でもこのままでいたいと思いました。

思考は停止していました。

このまま妹のそばにいたいと思いました。

ここを一歩出れば、現実が待っているようなそんな気がしたのです。



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