第36話  着信

スマホの着信音が怖かった。

今日に始まったことではないけれど、妹が入院してからは、スマホが鳴るたびにドキッとしました。


医師からの説明があったその日、私はお酒を飲むのをやめました。

夕食時には毎晩夫とお酒を飲むのが習慣になっていました。

もしも夜に病院から連絡があった場合、お酒を飲んでいて車の運転が出来ないのはまずいと思い、飲酒を控えました。

けれど、飲まなかったのは3日くらいでした。

缶ビール一本くらいなら大丈夫じゃないかと飲み。

今日は病院へ行って妹の顔を見て来たから大丈夫と思って飲み。

お酒を飲んでも常に後ろめたさがつきまとっていました。

それなのに、お酒を飲むことはやめられませんでした。


医師の説明があってからも、妹は点滴をしていました。

点滴をしているならまだ大丈夫。

まだ、大丈夫・・・


私はもういいのでは・・

と思いました。

これ以上はかわいそうな気がしていました。

妹は痩せて、ただ心臓が動き、ただ呼吸をしているだけでした。

言葉には出しませんでしたが、

私は、もう終わりにしてあげたかったです。


出来ることはみんなしてあげた。

振り返ってもしかたないことばかりで、

そう信じることが私の救いでした。


7月の終わり、母から連絡がありました。

今日病院へ行ったら、先生が、今日はお姉さんきてないですか?って言われて、

お母さんにお話ししますって。

その時がきたらしい。


夏の盛り、湿度が高くいつもよりも暑さがこたえる日が続いていました。

とにかく明日、仕事が終わったら病院へ行ってみるから。

お母さんは明日は休んでいて。

明日病院へ行ったら電話するからね。

私は母にそう言って、電話を切りました。


翌日夕方病院へ行きました。

妹の目は開いたままで、上を向いたまま動きませんでした。

涙が一滴だけ流れたので、拭いてあげました。


医師が説明に来てくれました。

このときの説明を私は全く覚えていません。

ただ、もうその時がとても近いのだということだったと思います。





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