第30話  昼食

日中のほとんどを車椅子で過ごすせいでしょう、

お尻の近くに小さな褥瘡が出来ました。

実際に見てはいないのですが、説明では一円玉くらいの褥瘡だそうです。

常に同じところが接触しているのと、栄養不足が原因だということです。

面会に行くたびに経過を説明してくれましたが、良くはなりませんでした。


何度か昼食の時間までいたことがありました。

初めて見たとき、施設での食事はこんなにも大変なものなのかと大変驚きました。

そこには自分でスプーンを持って食べる人はいませんでした。

70代ダウン症の女性はほとんど眠っていました。

支援員はまず彼女を起こすところから始めます。

しっかりと覚醒させてから食事をしないと、誤嚥してしまうからです。

食事はすべてがムース状のもので、見ただけではどんなおかずなのかはわかりませんでした。

汁物とお茶にはとろみがついていました。

食べながら途中で眠ってしまうこともあるようでした。

そうなると、口の中に食べ物が残っていないかをよく確認をしていました。

残っていると、いつのまにか飲み込んで誤嚥の原因になるそうです。


妹の場合は少し粒が残ったムース状のものでした。

眠ってしまうということはありませんでしたが、

食べるのを嫌がることがよくありました。

口を開けないのです。

私も母も食べさせようと試みましたが、拒まれることがよくありました。

支援員の方はスプーンを替えてみたり、スプーンの角度を変えてみたり、

それでもダメな時は、他の人に交代したりと出来ることは全部やっていのだと思います。

根気も時間もかかる作業です。

妹の昼食は50分くらいかかっていました。

日によってですが、全部食べたり、少ししか食べなったりだったそうです。

一日に3回これをやるのかと思うと、仕事とはいえ頭が下がります。


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