第24話  異食

妹は少しずつ変化していきました。

車に乗ることが出来ないことも度々ありました。

乗り方がわからなくなったようです。

そんな時は、こっちの足を乗せて、腰をおろしてと手を添えて乗せてあげました。


私は妹の変化をあまり母に伝えませんでした。

騒がれるのが嫌だったのもありますが、

知らないほうが母にとってもいいのではないかと思っていたのです。

いずれ、母の方が先に逝くのだから、出来るだけ家にいた頃の思い出だけを残してあげたいと思ったのです。


寮に入ってしばらくすると、おかっぱだった髪をショートヘアにカットされました。

施設では誰もがショートヘアなのです。

支援員の方が管理しやすいからなのだと思います。

母はとても驚いていました。

私もショックを受けましたが、何か言うことはしませんでした。

会うたびに妹は様子が変わっていきました。

なんと言っていいのか・・・

子供だった妹が老婆に近くなっていくという感じでした。


その年の5月、R寮から連絡がありました。

まりこさん、イショクが見られます。

イショク?

イショクという言葉からは移植しか思い浮かびませんでしたし、

何のことか理解できませんでした。

何か口の中で噛んでいるようすだったので、見てみると、

ジグソーパズルのピースを噛んでいたんです。

認知症に見られる症状で、異食です。

他にも食事の時、ナプキンの模様をつまんで口にいれようとします。

異食という言葉を、この時私は初めて知りました。


そして、認知症でよく聞く、徘徊とか食事を食べたのを忘れるとかの症状は、この病気では序の口なのだということを後になって知るのでした。

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