第7話 仮病

夫はとても優しい人でした。

お兄ちゃんお兄ちゃんと言って、妹はよくなつきました。

夫も嫌がることなく妹を可愛がってくれました。


父親は彼が69歳の時、初期の胃癌が見つかり、

内視鏡で切除手術をしました。

その後毎年定期検査を受け、今度は食道癌が見つかりました。

これも内視鏡で切除手術を受けることになりました。

2006年6月のことです。


病院は実家から車で一時間ほどのところにありました。

入院の当日は、夫と母と妹と皆で病院へ行きました。

入院の準備の間、夫と妹と私は待合の部屋にいました。

私の向かい側に座っていた妹は、ちょっと苦しそうな顔をして

胸を押さえ始めたのです。

じょじょに痛みが増すようで、呼吸が荒くなりとても痛がっているようでした。

すぐに看護師の方が来てくれて妹を横に寝せ、バイタルのチェックをしてくれ、救命室へと運んでいきました。

母は父の入院手続きがあったので、私が付き添いました。

医師はオレンジのつツナギを着ていて、医師っぽく見えませんでした。

原因がよくわからなかったらしく、様々な検査ようです。

結局医師の診断は、異常は見られないということでした。

妹も落ち着き、その日は帰宅しました。


父の手術は無事に済み退院しました。

ただ、その後妹に同じようなことが何度もあったようです。

最初はあわてて病院へ連れていったりしていたようですが、

そのうちに怪しんだ母親が、症状が出ても放置するようになりました。

すると、しばらくすると何事もなかったかのように平然としているのです。

思い通りにいかなかったり、何か不安なことがあると発症するようでした。


私が妹を内科の病院に連れて行った時のことでした。

診察が終わり待合で待っていると、胸を押さえて痛がり始めたのです。

周りの人は苦しがっている妹を見て心配しています。

私は治まるまで放置しました。すると更に横に倒れようとして痛がるのです。

それでも放置していると、薄っすらと目を開けて私の様子覗っているのです。

本当に痛いのか、演技なのか、大げさなのか。

そのまま無理やり車椅子に乗せて、車に乗せました。

そのころにはケロリとしているのです。

知恵があるのだと思いました。

大げさに痛がったりすると、周りの人が心配して親切にしてくれるということをどこかで学習したのだと思います。


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