第百六話 さあ、そろそろ終わりにしましょう

 ――

 ――――


 打ち合い再開してすでに一五分は経過しております。

 周りを見るといつの間にか両国の兵士たちがこちらに集まってきて、一騎打ちを見守っておりました。

 その中にシェンナさんとコリーさんの姿が見えましたわね。


「マナカ様! シェンナ達もお手伝いします!」


 シェンナさんがそう言いました、しかしこれはワタクシと勇者の真剣勝負、何人たりとも邪魔はさせませんわ。

 ワタクシはシェンナさん達に言います。


「お心遣いは有難いのですが、これはワタクシと勇者の一騎打ちですわ。なのでワタクシ一人にお任せくださいな。シェンナさん達はそこで見守っててください。もしもワタクシが負ける事があれば急ぎマウナさんに伝えてくださいな」

「ですが!」

「ワタクシとの約束ですわよ」

「……く」


 ワタクシは有無を言わさずに一方的に圧をかけ約束をしましたわ。


「一騎打ちね、いいのかい? 彼女たちの力を借りれば勝てるかもよ?」

「何言ってますの? 私の勝ちは確実ですのよ!」

「は、そうかいそうかい」


 しかし、徐々に人が増えてきましたわね。


「ギャラリーが増えてきましたわね」

「お前が無様に地面に這いつくばるのを見に来たんだろ」

「え? 貴方がギフトで調子こいてるところを、ワタクシに叩き潰されるのを楽しみにしているのでは?」

「ないわー、それは無いわー」


 ないわーといいつつ魔法攻撃は止めませんわね。ワタクシもその魔法をストーンウォールで防ぎつつ魔法の詠唱をしております。


「――黒き地の鉱石よ! 鋭き刃を持つ黒き石、黒曜石よ我が声に応えよ。我が声に応え降りそそぐ死の雨となれ!」


 地面から細かい黒曜石を無数に作り出します。ワタクシのオリジナルである鉱石魔法ですのよ。

 その小さな黒曜石が飛び立ち勇者の頭上へ。


「ん? なんだ?」

「――降りそそぐ黒曜刃オブシディアンの豪雨レーゲングス!」

 そして一つ一つがメスのように鋭い黒曜石の刃が雨のように降りそそぎます。


「うおおおおお! スーツが切れるほどの鋭さだと!」

「これでもダメージが無いんですから嫌になりますわね……」


 ワタクシは降りしきる黒き刃の雨に向かっていきます。そして黒曜石が降り終わった所にすかさず攻撃を仕掛けましたわ。

 勇者の右後方へと回り込み、腰を抱えて右手を勇者の右の脇から通して首根っこをつかみ、相手を持ち上げて後方へと倒れこみ東部を地面に叩きつけますわ、簡単に言えば柔道の裏投げですわね。


「ぐほあ! 痛くはないがめっちゃ揺れたぞ!」

「普通ならこれで倒せるんですのよ」

「スーツ無かったら死んでるわ!」


 ――

 ――――


 こうして更に一〇分ほどの攻防が続きましたわね、てかアイツの体力は底なしですの?

 しかも、あのスーツ何故か修復しておりますし、インチキにも程がありますわね。


「しかし、お嬢様のアンタ、凄い体力だな」

「ぜぇぜぇ、貴方も随分余裕ですわね」

「まあ、体力底上げされててスーツの能力で体力の消費も緩和されてるからなぁ」

「ずるいですわね!」


 コイツの底なしの体力にはそんな秘密があったなんて……こちらはそろそろ限界だと言いますのに。

 その時、勇者が少しフラつきましたわ。


「ん? 俺も疲れが出てきたか?」


 どうやらそろそろこちらも仕上げのようですわね。あれだけ脳みそ揺さぶってやったんですものねぇ。


「体力がなくなる前に終わらせるか!」


 勇者はそう言うと栄光の剣を握りなおすと、今度は基本的な技で斬りかかってまいりましたわ。

 隙を少なくするために小さく鋭く振ってきますが、逆に厄介ですわね。


「もう少し真面目に剣術でも習うべきだったかな」

「基礎は、ふ、やはり、く、大切ですわね!」


 何とか避けつつ隙を伺います。

 しかし、決定打になる隙は無く、ワタクシは軽めの反撃しかできずにおります。


「ふん!」


 勇者が突きを繰り出し、ワタクシはそれを避けようとしたとき……


「な、しまった!」


 思った以上に疲労が溜まっていたのか、足がもつれ突きを避けそこなってしまいましたわ。

 しかし、ワタクシはなんとか体を捻り急所だけは外します。


「くあ!」


 左の横腹に激痛が走りましたわ。


「惜しい!」

「……痛恨のミスです、わね」


 しかし、ワタクシは脇腹から生える栄光の剣を掴み固定します、そして力ずくで剣を脇腹から引き抜き、その剣をこちらに引き寄せます、すると勇者はバランスを崩しワタクシの方へたたらを踏みつつ引き寄せられました。


「おっとっと」

「先ほどのお返しですわよ!」


 ワタクシは右腕をくの字に曲げ肘を横っ面に叩き込みます。


「だから痛くはないと言っている!」

「ぐぬ、ほ本当に無駄だと思いまして?」

「何?」

「ワタクシ、こういった場面で無駄なことはあまりしない主義ですのよ」


 ワタクシはそのまま上段回し蹴りを放ち勇者の頭を蹴り飛ばします。


「ぶは!」


 吹き飛ぶ勇者を確認すると、すかさずアースヒールをかけなおします。


「まったく、無駄な事だっつーのに」

「そろそろ分かりますわよ、身をもって知りなさいな」


 後、一発か二発大技でも頭に叩き込めば完了といったところですわね。

 近付きたいとこですが勇者の光魔法、中位クラスの魔法が絶え間なくワタクシに放たれますわね、勇者の魔法となると下位中位でもかなりの威力なので直撃だけは避けたいところですわね、ジャージがあって助かりますわ。


 しかし、あの勇者ほぼ無詠唱でバカスカ魔法使ってきますわね、ああ見えて実は魔法型の勇者なのでしょうか? 聞いてみましょうかしら?


「貴方、ほぼ無詠唱で魔法をぶっ放しますが。ちょっと卑怯じゃありませんこと?」


 ワタクシが避けながら訪ねると。


「この栄光の剣の効果で詠唱時間五割カットの威力二割増しなんだよ、地味な効果だが案外悪くないぞ」


 そういいつつも魔法攻撃。


「なるほど、インチキ武器ですわねぇ」

「勇者の武器だからな!」


 ワタクシはジャージを盾にし、シャインアローの雨の中に突っ込みます。


「おいおい、お前のそのジャージも大概だな!」

「これはワタクシの国で作った特殊装備ですのよ!」


 勇者の目の前に迫り、そのまま顔に目掛けてのジャンピングニーを食らわせます。

 やはり勇者は避けませんわね、そこはとても楽でいいですわ。


「ぶふぉー! また顔カヨ!!」

「あなた流石に防御や避ける練習でもしたらどうかしら? そのスーツに頼りすぎですわよ」


 ワタクシはアドバイスを差し上げます。

 頭を振りながら勇者が立ち上がります、やはり直接的なダメージは有りませんわね。


「飛び膝かまして、余裕な事言ってるが。お嬢様、アンタボロボロだぜ。脇腹痛むだろ?」


 勇者はワタクシにそう言いながら近付いてまいります、そしてワタクシのボディに剣の柄を打ち込みます。


「ぐ!」

「な、すぐに反応できてないぞ。アースヒールのおかげでなんとかなってるって感じだ。それに対して俺はまだ無傷なんだぜ」

「本当に無傷ですの?」

「さっきから何言ってんだ?」


 さあ、終わりにいたしましょう。

 この勇者との戦いにケリをつけると致しましょう。

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