第百五話 マナカとショウ

「ちょこまかと良く避ける!」


 栄光の剣での二段突きを躱しつつ反撃としてボディにパンチ! ですが効果は殆どありません。


「そういうのは無駄だから」


 勇者の突きが右肩をかすめましたが、構わずアゴに右ショートフック。勇者の顔が歪みますが、何事もなかったように、すぐさま反撃の左ストーレトがワタクシの顔面を捉えます。


「くー、キッツ。ワタクシの美少女具合が上がってしまいますわね!」

「まだまだ余裕だな」

「状況的にはそこまで余裕はございませんのよ」


 勇者は首を左右に振っておりますわね……まさかとは思いますが、試す価値はありそうですわね。


「さっさと負けを認めろよ」

「それは無理な相談ですわね!」


 ワタクシは勇者の足元を中心に攻めます、ダメージは無くとも足を止めさせて顎狙い。

 ワタクシの予想通りなら近いうちに効果が出ますわよ。

 しかし、高防御力に物言わせたカウンター戦法ってのは単純ですが厄介ですわね。


 ――

 ――――


 すでに十数分は勇者の顎狙いで打撃を加えまくっておりますが、これがなかなか厳しい。

 栄光の剣の直撃こそは避けていますが、かすり傷は増えていきますわね。


「息が上がってきてるぞ」

「ぜぇぜぇ、ご心配なく」


 ワタクシの新魔法その二ですわよ! アルティアさんがいたからあまり出番のなかった魔法ですが、いまこそ出番ですのよ。


「――アース・ヒール!」


 地に足をつけてる間体力と傷が回復する魔法ですわ、即効性は無いですが。ワタクシにはこれでも十分ですのよ。


「あー、アースヒールってやつか。確か地属性の中位魔法だったな、いやいや地属性とか地味じゃね? せっかく転生したなら火とか光とかでガツーンといきたいだろ? あ、闇もなんかカッコよくていいよな、でも地は無いわー」

「地属性も慣れれば良いものですのよ? 攻撃防御回復と万能ですのよ」

「いやー、でも地味だわー」

「派手なだけの光属性に言われたくありませんわね」


 勇者のバカ話に付き合って時間稼ぎですわよ、気付いてるのかしら? この魔法の効果を?


「あれ? なんか顔色良くなってないか? ああ! しまったアースヒールって徐々に回復する魔法だったな! くそ、騙された!」

「誰もだましてはおりません」


 体力がそこそこ戻ったところで、攻撃再開ですわ!

 またまた顎狙いで行きますわよ。

 ワタクシは大振りの攻撃は極力避け、ジャブやショートフックを駆使し勇者を攻めます。


「くっそー、振出しに戻った気分だ」

「何をおっしゃてますの? ワタクシが先にゴールして終わりですわよ」

「ああ、そうかよ!」


 ワタクシは勇者の懐に潜り込み足を止めるため、左足の膝部分に右のローキックをお見舞いします。すると予想に反してワタクシの蹴りを躱すと、ワタクシの背中に勇者の手が添えられますと。


「アクセント的にたまに避けると効果的だろ!――光よ明るき力の権化よ爆ぜよ! シャイン・ボム!」

「しまった!」


 ワタクシの背中で爆音! そして凄まじい衝撃ワタクシはぢ面に叩きつけられます。


「げふ!」

「光の上位魔法だ。詠唱が短い割には強力な魔法なんだが射程が短くてな。防御力に物言わせて叩きつけるように使ってるんだよ」


 至近距離での爆発魔法……勇者のスーツがあるからできる戦法、参りましたわね。

 しかし幸いな事に対魔法ジャージで助かりましたが……痛い。

 容赦なく栄光の剣を突き刺してきますが、かろうじてそれは躱します。


「なんで避けれるんだよ、ええい!」


 脇腹に蹴りを入れられます、単純な蹴りですが無防備になった脇腹にはキツイですわね。


「がふ! くー、好き勝手やってくれますわね」


 ワタクシはなんとか蹴られた勢いを利用して転がり体勢を直します。

 骨の数本イカレたかもしれませんわね、それだけ勇者のパワーが凄いということでもありますわね。

 アースヒールはまだ持続中ですわね、しかし勇者もアースヒールの効果は気付いているので休む暇はないでしょうね。


「これで終わりじゃないぞ!」


 ソレ勇者のする攻撃じゃないですわよね! 走りながら頭を突き出しての体当たりってせめてショルダータックルに……しかし、あの防御力を生かした単純ですが有効な攻撃! ですが足が遅いのが救いですわね。


「く!」


 ワタクシはギリギリで躱すと、勇者の背に乗り両腕を取り上方向に捻り上げます。


「パロスペシャル! ってやつですわよ!」

「ぐががが! クソ! そうか痛みの原因は関節技が!」

「流石に気付きましたわね!」

「ならば潰れろ!」


 勇者は後ろに倒れます、ワタクシもろとも倒れます。


「く、さっきのダメージで反応が遅れましたわ!」

「異世界転生もので関節技とかあんま聞いたことないぞ!」

「仕方ないじゃないですの! ダメージ通す方法がコレくらいしかないんですから!」


 そのまま腕を取り締め上げようとしますが、腕力に物を言わせた攻撃でワタクシが投げられます。

 空中でバランスを取りなんとか着地。


「ふ、ふぅ。 ドラゴンより厄介なお嬢様だな……この世界でまさか関節とか狙う相手がいるなんてな。しかし、礼を言う。まさかこのスーツの弱点が内部や関節への直接攻撃だとはな」

「ワタクシ、関節技も投げ技も得意なんですのよ」

「戦うための技術ってのはやっぱ強力な武器だな」


 勇者は改めて栄光の剣を構えましたわ。

 ワタクシはボクシングスタイルをやめ、柔道の構えに移行し勇者と対峙しました。

 そろそろ終わりにしませんとね。

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