第百四話 決戦! お嬢様vs勇者

 勇者は構えすら取りませんが、空気が変わりましたわね。

 右手に剣を携えただ立っております、なかなか舐めた真似してくれますわね、いいでしょう少しキツイ挨拶でもしてやりますか。


 ワタクシは前かがみで構えたままステップし近付くと、左のボディブローをお見舞いします。


「ぐ!?」


 マスクで表情は見えませんが、前かがみになったところを左のショートアッパー、アゴが上がったところに右のバックブローを食らわせます。勇者もこらえることができず吹き飛びます。


「ははは、いやーこの鎧というかスーツが無かったら今ので終わってたな」


 頭を左右に振りながら、すぐに立ち上がってきました。


「悪い冗談ですわね……あれでノーダメージですの?」

「まあ、衝撃は受けてるが、痛みは無いからな耐えれるもんだぜ」


 なるほど絶対的な防御力というよりはダメージ吸収、緩和系と見るべきでしょうね。

 休む間もなくワタクシは近付きワンツーと顔に打ち込みます、しかしこれもノーダメージ。

 ですが本当にノーダメージなのでしょうか?

 打撃を打ち込むが避けることすらしないのはスーツの絶対の自信なのでしょう、しかし後悔させてやんよ! ですわね。


「そろそろ、俺も反撃してかないとな」


 散漫な動きですが妙な迫力がありますわね、これが星5の力ということでしょうか?

 無造作に剣を横薙ぎに振りますが、その程度ではワタクシにかすりもしませんわよ。


「ふふ、当たりませんわよ」


 ワタクシはスウェーで剣を躱そうとすると剣先が少し伸びました、顔を捻りなんとか躱すも剣が頬をかすめます。


「――な!?」

「はー、今のをよく躱したな!」


 勇者はそう言うと砂を蹴り上げました、ワタクシは咄嗟に目を守るべく両腕で砂をガードしました、しかしお腹に衝撃! 勇者の前蹴りがワタクシの腹部に炸裂しておりました。


「――カハ!」


 何というバカ力! ワタクシはたまらず数メートルほど吹き飛びます。


「すまないな、騎士様のような奇麗な戦い方じゃなくて。俺が教えを乞うたのは騎士じゃなく傭兵なんでね。さて、強烈なの行くぞ」

「くー、効きましたわよ!」


 ワタクシは腹部を手で押さえ立ち上がろうとしました。


「――我は汝に命ずる、光よ我に集え」


 魔法の詠唱? ワードからして光属性の魔法ですわね。

 ワタクシは勇者の詠唱に反応し勇者の方を見ました、すると勇者はなぜか剣を地面に刺し腰を落とすと、両手を腰の横に持っていき構えると、もごもごと何かを呟きだしました……あのポーズどこかで見たことがあります……亀の人の流派のあの技のポーズじゃないですのよ!


「――、光の柱よ我が敵を穿て!」

「……凄い魔力ですわね、避けれませんわね……一か八かですわね」


 体勢を崩している状態では避けれずはといってガードしてもいいのか謎の魔法。

 勇者が両手を前に突き出し……


かーめーはー〇ーシャイニング・波!!レイ


 両手からビームが放たれましたわね。


「――ディアマントシルト!」


 ワタクシは咄嗟に地面に両手をつき魔法を使います。ワタクシオリジナルの鉱石魔法とでも言いましょう、金剛石の盾ですわよ。


「この魔法はミスリル鉱石の盾だって貫くぞ!」


 まあ、自信満々に撃つからにはそれくらいの破壊力はあるでしょうね、ですがそんなことは想定済み!


「ワタクシの盾は、キラキラのピッカピカですわよ!」

「は? それがどうした!」


 光が盾に当たると……ワタクシの予想通り光が拡散して散っていきますわね。光を屈折させ分散させていきますが飛び散った光が周りの兵士を吹き飛ばしていきます、しかもどこに飛ぶか予測不能。


「わーお、地獄絵図ですわね」

「な、なんじゃそりゃ!」


 いまのうちに完全に体勢を立て直し勇者へ向かって走りますわよ。そのまま勇者の突き出した右腕を取り後ろに回り込むとワタクシは腕を捻り上げてから勇者の背中に自分の背中を合わせて投げ飛ばします。


「ぐあ!」

「おや?」


 いま痛がりましたわね。なるほど無敵のパワードスーツではないようですわね。内部にいる本人に直接ダメージが行く攻撃なら、ダメージを通す事ができるようですわね。

 投げのダメージはスーツが吸収してしまうようですわね。


「くそ? なんだ今の痛みは?」

「なるほどなるほど」

「何をした!」

「教えるわけないじゃありませんの!」


 しかし、サブミッションだけで倒すのは骨が折れますわね。栄光の剣や光の魔法がありますものねぇ。

 ですがダメージを通す方法が見つかっただけでもよしとしますか。


「おかしな技を使うようだな、アレか中国拳法の気功とかか?」


 勇者は関節技を決められたのに気付いていないのでしょうか? 確かに露骨な技でなく投げる瞬間だけ捻りましたが。どうやら格闘関連は素人のようですわね。

 というか、この世界の人もそうですが、素手の打撃に関しては大雑把ではありますが、関節に関しては全くと言っていいほどその技術が無いんですのよね。

 ワタクシ達の世界ですら、素人では関節技なんてのは有名どころしか知らないですものね。

 狙いどころは関節技、頸なんてワタクシ使えませんしね。


「しかし、勇者の防御力と攻撃力はやはり厄介ですわよね。星5効果の身体能力向上もかなりのもののようですし、全く。素人が勇者ってだけでここまで強くなるとか理不尽な世界ですこと」


 ワタクシの呟きが聞こえていたのか勇者が答えます。


「ああ、全くだよな。俺も元の世界じゃ格闘技もやったことのない素人だけど、星5の勇者として呼ばれて傭兵に少し技術を教えてもらっただけで、ドラゴンすら倒す存在になるんだもんな」


 そう言って勇者は下位の光魔法を撃ちながらこちらに走ってきます。

 ワタクシも光弾を最小限の動きで躱しつつ、勇者を迎撃します。


「さーて! 続きと行こうじゃないか!」


 第二ラウンド開始ですわね。

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