第百三話 お嬢様と勇者

 変なハゲの相手はシェンナさん達に任せてワタクシは芋虫……キャピラータ戦車に乗って勇者を目指しますわ。

 異世界にきて魔王退治ならぬ勇者退治をする事になるとは、一体誰が予想できましょうか?

 わちゃわちゃと兵士がたまにやってきますが、面倒なので全員撥ね飛ばしますわよ!


 さらに十分ほど突き進むとようやく見えてきましたわね。

 疾走してくる大きな芋虫に驚いている勇者の顔が見えてきましたわよ!


「おいおい、なんだよあの芋虫でけー!」

「キャ、キャピラータという希少なモンスターです!」

「この世界にきて五年ちょいだが初めて見るな」


 芋虫見てビビってらーですわ! よし、このまま突っ込んで周りの兵士はぶっ飛ばしましょう!


「回転突撃ですわよ! ムシビワハヤテ号(キャピラータの名前)! 荷台パージ突っ込みなさい!」

「キュピー!」


 良い返事とともに丸くなり車輪のように突っ込む芋虫、その際に荷台が外れワタクシも飛び降ります。

 慌てふためく兵士達に突っ込む戦車! ムシビワハヤテが突っ込んでいくと兵士達がどんどん撥ね飛ばされていきますわね、爽快爽快!


「無茶苦茶だなアイツ! てか、なんで体操服にジャージ羽織ってブルマなんだよ!」


 ワタクシはそのまま走っていき、挨拶代わりのナックルアローをブチかまします。


「ごきげんよう! そして挨拶代わりのナックルアローですわ! 喰らったらそのまま死んでくださいな!」


 ワタクシの拳が勇者の顔面を捉えました、拳がめり込む嫌な音とともに勇者が数メートル吹き飛びます。


「ぶべらば!」


 少しすると立ち上がってまいりましたわね、これで倒れててくれれば楽でしたのに。

 勇者は起き上がると首を回し血の混じった唾を吐き捨てました。


「随分滅茶苦茶な挨拶だな」

「挨拶は大切ですのよ」

「まあ、その通りだな」


 クイっとポーションを飲み空き瓶を捨てる勇者。


「くそ、俺のイケてる顔に傷が付いちまうだろうが」

「殴られた瞬間の顔はとてもセクシーでしたわよ」

「うるせー」


 まったく、丈夫な男なようですわね。

 さて、ワタクシはこんな相手にでも丁寧に名乗りますわよ。


「さて、ワタクシは礼儀を忘れない女ですので名乗らせていただきますわね。ワタクシは久那伎真奈香と申しますわ」

「ん、あぁ。俺は園田翔だ」


 ワタクシが名乗ったことで勇者も名乗りました。園田翔、聞いてた名前と一致しますわね。やはり日本人でしたわね。


「ん? クナギ? どっかで聞いたことがあるな……おいおい、あのクナギグループかよ!」

「ええ、ワタクシの親が経営しております会社ですわね」

「かー、お嬢様ってヤツかよ」

「この世界では、元お嬢様になってしまいますわね」


 少し残念な元お嬢様の異世界英雄譚ですわね! この『残念』って部分いりますの?

 さて、それは置いといて。正直この男がそこまで強そうには見えないのですわ。

 ですが五年前の魔王領襲撃といいマトモじゃないのは確かでしょうね、それほどまでに勇者のギフトは強力ということでしょうね。


「さて、クナギのお嬢さん。魔王の仲間なんてやめて勇者御一考に鞍替えしちゃどうかな?」

「えー、なんかオッサンばかりの場所なのでお断りしますわ。ワタクシ、オッサンとかイケメンとか興味ありませんの」

「おいおい、マジかよ……」

「ふふ、ふふふ」


 おっさん勇者と美少女魔王比べるまでもありませんわね!


「さて、ではそろそろ侵略者たる貴方を排除させていただきますわね」

「おいおい、侵略者って、俺は魔王を倒しに来た勇者様なんだって」

「ほざけ! ですわね」


 ワタクシは勇者相手にボクシングスタイルで構えます。


「お、ボクシングか。俺は勇者スタイルってヤツだ!」


 勇者は左手を腰の所でこぶしを握り右腕を胸の前、左上に伸ばし……それ変身のポーズじゃないんですの?


「は? 勇者スタイルって変身ですの?」

「その通り! 変身! とうっ!!」


 勇者はそう言うと、伸ばした右腕を車のワイパーのように動かしますとバク転しました。

 光に包まれ着地した時には、メタリックブルーの全身鎧を装着しております。


「それが、あなたのギフトですのね……まさかパワードスーツ系だとは思いませんでしたわね」

「ははは、こいつは俺の星5の能力だ、超防御力の鎧だぜ。そしてこれが勇者としての力だ!」


 勇者がそう言うと空間が揺らめき、そこに手を入れましたわね。

 勇者が手を引き抜くと輝く刀身の剣が姿を現しました。


「勇者の剣! 栄光の剣だぜ」

「名前ださ!」

「うるせー! ブルマ女に言われたくねーよ!」

「動きやすいんですわよ!」

「それは認める」


 栄光の剣……なんかもう少し良い名前無かったんですの?

 まあ、良いんですけどね。それでは気を取り直して勇者退治といきますわね。


「さて、気を取り直して。貴方に退場願いますわね」

「はん、やってみろよ。お嬢様!」


 こうしてワタクシと勇者の最終決戦の幕が上がるのでしたわ。

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