第百二話 魔王マウナ・ファーレ

 

 右も左もわからない暗闇の世界、見えるは怨嗟の表情をした悪霊怨霊ばかりです。

 手足も思ったように動かせませんか、しかし


「……生きてるだと妬ましい」

「お前もこちら側に来い……」

「あぁ、痛い苦しい……」


 く! なるほど呪力の籠った恨み言ですか。これを千体分も聞かされたら確かに精神は死にますね。

 強引にでもレジストしてしまうとしましょう。これがカステリオ本人の魔法なら私も無事ではすみませんが、アストはまだ使いこなせていないようですね、これはラッキーです。


「少し強引ですが、ここにいる全ての怨霊を倒させていただきます! ――フレイム・アロー!」


 炎の矢が怨霊めがけて飛びます、矢が怨霊に当たりますが効果は薄く怨霊はほぼ無傷です。魔法を使うことは可能な空間ですか、しかし魔法の効果が薄くなるようですね。

 まあ、魔法が使えるなら問題はありません。


「――我が名はファーレ、魔王マウナ・ファーレ也。我は闇を統べる魔の王也」


 怨霊たちは何かに気付いたのか、様子を見ていただけの霊達も私に怨嗟の声をかけてきます。


「――く!」


 私が魔族だとしても流石にこれはキツイですね、ガリガリと精神を削られていきます。

 魔法の詠唱が途切れないように私も気合を入れて詠唱を続行します。


「全ての者よ我に跪け、全ての者よ我に恐れおののけ、全ての者よ我が力に恐怖しろ! 我が力は漆黒也、我が力は闇そのものである……滅べ。 『ただただ暗き闇オプキュリ・テネーブ』!」


 私の最大級のオリジナル魔法です。ただ単に闇がすべてを飲み込むだけの魔法なんですよねコレ。

 しかし、怨霊たちの抵抗も激しいためか私も無傷で抜けるのは無理ですね。


 闇が闇で塗り替えられてそのたびに怨霊が消えていきます。こんな空間で使うのは初めてですがなかなか凄い光景です。


「……やめろ! また死ぬのか! その闇を止めろ!」

「止めねば貴様を喰らってくれる!」

「そういうわけにはいかないんですよ!」


 徐々に闇に飲まれていく怨霊たち。引きずり込まれた世界も終わりが近いのか空間が歪んでいくのを感じます。


「そろそろ店じまいのようですね」


 私がそう呟くと怨霊たちもほぼいなくなり光が差し込んできました。

 空間が完全に開け元の場所に戻ってくると、アストが驚愕の表情で私を見ています。


「大きな魔力の動きを感じたが……まさか無事だとは」

「……無傷ではありませんけどね。 カステリオがこの魔法を使っていたなら私も無事ではいなかったでしょうね」

「くそ! まだ使いこなせてないのか!」


 悔しそうにしておりますね。モルテのほうはスケルトン達とバトル中のようですね。


「おお、マウナ様ご無事でしたか!」

「ええ、アストが未熟で助かりましたよ。流石に無傷とは言えませんけどね」


 モルテはスケルトンを土に還しながら私の場所に寄ってきました。


「モルテも時間がかかっていますね」

「申し訳ありません、いかんせん数が多く、久しぶりの実戦で勘が鈍っておりますな」

「では、私はアストを倒してきますね」

「雑魚はお任せを」


 アストの方に私は歩みを進めます。

 私の接近に気付き正気を取り戻したアストは闇の魔法を放ちますが、その程度では私に傷一つつけることはできません。


「くそ! 化け物め!」

「魔王ですから」


 アストを守っていたスケルトン達もモルテのおかげでかなりかずを減らしております。もはやアストを守るものはいないと言っていいでしょう。

 私は放たれた魔法を避けようともせず、魔力で壁を作るだけでレジストします。


「どうしました? 表情が強張っていますよ?」

「ここの魔王がこんなに強いなんて聞いてないぞ!」

「当然ですよ、チヨルカンが以前ここに攻め入ってから、どれだけ経ってると思ってるんですか?」


 私は風の弾丸をアストの足に叩き込みます。


「うが!」


 アストが膝をつきこちらを睨みます。アストの顔には恐怖が浮かんでいます、どうやら私の勝ちは確定したようですね、自信が使う最強魔法を破られただけで戦意喪失でしょうか?


「くそ、くそ、くそ」


 後ずさりしながら下位魔法ばかり撃ってきます、カステリオの力を使いこなせない哀れな男にトドメを刺すとしましょう。

 私は右手を手を上げ詠唱を開始します。先ほど大魔法を使ったので残り少ない魔力ですがアストを倒すなら問題は無いでしょう。


「――荒れ狂う風よ! 吹き荒れる風よ! 全てをなぎ倒す大いなる風よ! 我は命ずる、我に牙を向ける愚かな者に強大なる風の鉄槌を振り下ろせ!」

「やめろ、やめてくれ! もうここには近づかないから頼む、許して……」


 なにやら命乞いをし始めましたが、このまま帰すわけにはいきません。

 私は上げた右手を振り下ろします。


「――ゲイル・ハンマー!」


 アストの頭上から大気の塊が叩きつけられます。


「うぎゃああああ!」


 骨が砕ける嫌な音ともにアストが空気の塊に叩きつぶされました。

 私は冷めた目でアストを見下ろし、リミッターを戻します。


「……俺はただ、力が、ほ、ほしかっただけなんだ……」

「だとしたら方法と頼る相手を間違えましたね」

「クソ……くそ……」


 アストはそのまま動かなくなりました。アストから魔力を供給されて動いていたスケルトンも動きを止め崩れ落ちていきます。


「終わりましたな」

「ええ、カステリオの力が本当に使いこなせているのなら、こうは簡単にはいかなかったでしょう」


 さて、あとの処理は他の者に任せ、私たちもマナカさんの元に向かいましょう。


「モルテ、私たちもマナカさんの元に向かいましょう」

「わかりました」


 シェンナ達は上手くマナカさんのサポートを出来てるでしょうか?

 一度城に向かいマナカさん達を追うことにしました。

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