第九十九話 レッツクッキングタイム

「へっへっへ、俺はルーツってんだが嬢ちゃんの名前は。これから死んでいく者の名前はなるべく憶えておきたいんだよ、まあ三日くらいだけどな」

「誰がテメェみたいなゲスにシェンナの名前を教えるんだよ!」


 そんなやり取りをしている二人ですが、シェンナはやはり時々バカですね、あの子一人称が名前なのでモロバレしてるのに気づいていません。


「こっちは名乗ったってのに名乗らないとは失礼な奴だ」


 そして名前に気付いてないルーツという男もバカですね。

 さて口調からもわかるようにシェンナは既にハンティングモードに入ってるようです、私はいつも通りシェンナの隙をカバーするように動くことにします。


 ゾルバディの剛魔の盾は受けた攻撃の衝撃を相手に返す魔法がかかっており、あの盾で防がれ続けられのは避けたいところですね。

 矢などの飛び道具でもある程度の範囲になら衝撃を返すことができるので、私も注意が必要となります。


「シェンナ! あの盾は受けた攻撃を衝撃として返してきますから、盾で防がれるのはなるべく避けてください」

「了解だよ」

「この盾を知ってるのかよ、やりにくいな」


 剣を地面に刺し、ルーツは禿げ上がった頭をポリポリと掻きながらアチャーといった大げさなジェスチャーをとっております、余裕の表れなら後悔させてやりましょう。


 孫六を構えて上段に構えるシェンナ、私はシェンナが構えたのを見てルーツの盾を持つ手に向かって矢を放ちます。


「おっと! 残念」


 狙い通り盾を使って矢を弾きます、そして拳で殴りつけるような衝撃が私を襲いますが私も予想通りなので衝撃をなんとか躱します。

 その隙を見逃さないシェンナが地面の果物ナイフを手に取り、投げつけそのナイフを追うように孫六を振り上げ突っ込みます。

 しかし、ルーツもシェンナの孫六を受けるのに集中し、ナイフはそのままにし腕でわざと受けます。

 孫六を盾で受けるとシェンナも孫六で衝撃を受け後ろに飛ばされます。


「いってー! 行き成りな挨拶だな」


 このルーツという男、戦い慣れています。傭兵上がりか何かでしょう。

 致命の一撃とそうでないかの区別を一瞬でしてダメージが少ないほうを受けたようです。


「お前たち、結構戦い慣れてるな。こいつは俺もふざけてられないかもな」

「面倒な盾だなぁ。おら! 盾なんて捨ててかかって来いよ!」

「アホ! 誰が切り札捨てて突っ込むか!」


 緊張感の無い二人ですね。

 私は少し呆れながらも矢を撃ちます。そしてシェンナは矢に合わせて動きます、これは長年の付き合いのなせる業ですね、彼女とはもう一五〇年ほどの付き合いになりますね。

 最初に言っておきますが人間の時間間隔で話さないように! 私たちは人間でいうところのまだ二〇歳くらいですから。


 しかし、ルーツという男はどうやらあの力を使いこなせていないし。よく見ると攻撃はほとんどしてきてませんね。守ることに必至というより守るのが正しいといった感じの動きですね。

 これを逆手に取れば勝つのは難しくないかもしれません。

 私はシェンナの方に向かうと小声で作戦指示を出します。


「どうやら、相手は盾の力を過信しすぎなようです。ほとんど攻撃せずカウンターでこちらを倒そうとしてますから、逆にカウンターで倒すとしましょう」

「相手に攻撃させるってことだね」

「そうです、見ため通りなら粗野で怒りっぽい正確なはずです」

「挑発しろって事ね」

「ええ、できますか?」

「余裕」


 単純な作戦ですがこういった手合いには有効だと思います。


「なんだ、ビビってるのか?」

「うるせぇ、ハゲ黙ってろ!」

「あぁ? 誰がハゲだって?」


 ん? んん?


「お前だろうが! ハゲなんてお前しかいないだろーが! シェンナはふさふさですからー」

「テメェ! よりによって俺にハゲだと! 許せん、ぶっ殺す!」


 なんだか、あっさり事が進んでます。これはうれしい誤算。

 私も追い打ちしましょう、どうやら彼にハゲは禁句のようですね。


「どう、ぶっ殺すのですか? 言ってみなさいそこのハゲ」

「な、てめぇまでハゲって言ったな! 上等だ切り刻んでやる!」


 ルーツは大雑把に剣を振り上げて私めがけて切りかかってきました。


「な、なんて適当な動き?」


 あまりにも拍子抜けな攻撃で逆に避けるのが少し遅くなり、剣がかすってしまいました。


「コリーちゃんダサー、当たらないでしょあんなの」

「いや、防御は割と上手かったので攻撃も鋭いかと思ったら、アレなので逆に反応に遅れてしまいました」

「確かにアレは酷いよね、しょせんはハゲだねぇ」

「うおおおお! 俺を馬鹿にするな!」


 ハゲは滅茶苦茶に剣を振り回しています、盾の力を得て強くなったと勘違いしてるだけのチンピラのようです。ゾルバディの力を得たと言っていたから警戒しすぎたようです。

 そこらへんの兵士なら脅威となる相手でしょうが私達からすると拍子抜けもいいところです。


「うおおおお! 死ねぇぇぇ!!」

「吠えるなんじゃねぇよ! 駄犬がぁ!」


 シェンナの孫六がルーツの剣を持つ手首に振るわれました、剣ごと宙を舞う手首。

 ルーツは自分の手首をマジマジと見ていますね、信じられないといった表情。


「いひゃあああああ! 俺の手が」

「おはははは!手も無けりゃ髪も無いもう打つ手も無いってか?」

「シェンナ、つまんないです。そしてこれ以上は時間の無駄ですよ」

「はいよー」


 シェンナが鎧の比較的に薄い部分を横薙ぎに斬りつけました。ルーツは斬られたのにも気づかずにまだ自分の腕を見ております。


「ハゲの生け作りいっちょ上がり!」

「味見をする気すら起きませんね」

「大した相手じゃなくて良かったねぇ」

「ええ、本当ですね。見掛け倒しで助かりました」


 約一分ほどしてからルーツは自分が斬られたことに気付いて悲鳴を上げました。


「な、な、な……バカないつの間に? 剛魔の盾を与えられた俺がこうも簡単に……」


 最後まで言い切らずにルーツは崩れ落ちていきました。


「さあ、シェンナ。マナカ様を追いかけましょう」

「りょうかーい!」


 私は盾を回収してシェンナと二人でマナカ様を追うことにしました。

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