第九十八話 メイドさんと孫六兼元
勇者は憤怒していた。
「おいおいおい、クソだな。ドラゴンゾンビまで投入してこのザマかよ」
そう言いながら、ショウは地団駄を踏む。髪を掻きむしり少し思案すると兵士を呼びつけた、仕方ないといった表情で呼ばれてやってきた兵士に指示を出す。
「もう街なんざ廃墟でいいから盗るぞ」
「と、いいますと?」
「ワイバーン隊に油袋と火種を持たせろ、空爆だ空から街に向かって火を放て」
「味方も街に潜入成功していますが?」
「かまわんよ」
兵士の質問にこともなげに答えたショウは薄ら笑いを浮かべる、その様子を見た兵士は背筋に寒いものを感じていた。
「さあて、俺も投石器を使って向こう岸に向かって防衛網でも張るかな、投石器の準備は?」
「完了しております。勇者殿が出るということはルーツ殿も?」
「ああ、準備させとけ。ルーツはアストに比べて適応率が低いからな、俺の前に置いて橋を守らせる」
「は!」
兵士は敬礼すると後方に指示を出すために移動を開始した。
「まったく、どこまで強くなってやがるんだ魔王国は。まったく面倒くさい」
その後、勇者は投石器で人間砲弾までして川を渡るのであった。
――
――――
マナカ様はとても面白いお方です
ショーユを国に広め、あの勇者と一騎打ちを申し出るなんて、シェンナ的にはとても応援したくなるお方です。
「シェンナ、楽しそうな顔をしていますね」
突然、コリーちゃんがシェンナに話しかけました。
「わかる? なんかマナカ様といると楽しいのよね、久しぶりに対人包丁の『
「孫六兼元ですか?」
シェンナの持つ包丁で最大の切れ味を誇る、『孫六兼元』昔こっちに来てた異世界の人を助けた時にお礼として作ってもらった包丁、その人物が孫六って人だったのよねー。
元の世界では刀鍛冶だったって言ってたっけ?
まあ、その人が作ってくれた刺身包丁ってヤツなのよね。
「あのどう見ても包丁に見えない包丁ですよね?」
「そうなんだよね、普通の料理には全然使えないから対人包丁になってるんだけどね」
「孫六ですって?」
おや? マナカ様が孫六に反応してるな。
「関の孫六、ワタクシの世界の刀匠じゃありませんの!」
「お知合いですか?」
「いや、時代が全然違うので会ったことなんてありませんが。ワタクシの世界では有名な方ですのよ」
「これですよー」
シェンナはスカートから孫六兼元を取り出すとマナカ様に見せてあげました。
マナカ様は包丁を包丁カバーから取り出しマジマジと見ると。
「……素晴らしいですわ、そしてこれどう見ても包丁じゃなくて長ドスですわよね?」
「長ドス? 包丁じゃないんですか?」
「まあ、刀と呼ばれるワタクシの世界の剣ですわね。片刃で少しカーブが入った剣ですのよ」
「長い包丁だと思ってました、凄く切れ味がいいんですよ」
シェンナの魔力を込めて振るうと、刃こぼれもせず大木ですらぶつ切りにできちゃうんですよね。
「まあ、今では関市は刃物の町として世界でも有名でして、包丁なども作っておりますけど。これはどうみても刀だろ! とワタクシは言いたいですわね」
「刀ですか、聞いたことのない剣ですね」
コリーちゃんも刀は知らないようだった。
「あと、シェンナさんのスカートの中ってどうなってるんですの?」
「乙女の秘密ですよ」
「ちょっと中を見せてもらってもよろしいかしら?」
「ダメですよー」
シェンナ達はマナカ様のキャピラータ戦車で移動しながら、そんな会話をしていたら前方から数名の兵士がやってきました。
「あら? 敵ですわね、当然やってきますわよね」
「マナカ様は体力の温存を、この程度なら私にお任せを」
「あ、マナカ様キャピラータはそのまま進んでください。コリーちゃんなら移動しながらでもあの程度のザコには外しませんから」
頷くコリーちゃんは短弓を構えると矢を二本づつ放っていく。弓の腕は変態じみてるのがコリーちゃんの凄いところだ、シェンナには真似できないなぁ。
コリーちゃんの放った矢がどんどんと敵兵士を撃ちぬいていく。
「ナルリアちゃんも凄いですが、コリーさんも凄いですわね」
「お褒めにあずかり光栄です、しかし流石に私でもナルリアさんのような曲芸撃ちは無理ですね」
「あぁ、ナルリアちゃんのアレね。アレはアレで確かに凄いですよね」
戦車は止まらずどんどんと進みます、通り抜けざまに兵士達を処理していきますと、大きな盾を持った大柄な男が出てきました。
「この辺りのボスのお出ましですわね」
マナカ様が戦車を止めます、流石に通り抜けできないと思ったようです。
確かに大物ですねこれは、孫六兼元が火を噴きますよー。
「ぐへへ、お嬢さん方ここは通行止めだ」
粗野な喋りの下品な男が立ちはだかりましたね、オクセェ飯が似合いそうな粗野な感じの男ですが、手に持っているあの大きな盾はなんかヤバそうですね。
「シェンナ、あの盾どこかで見たことないですか?」
コリーちゃんがそんなことを言いました、はて? どこかで見たかな?
「見たことあったかな?」
シャエンナが首をかしげると、意外にもマナカ様が反応しました。
「あ! あの盾はワタクシ達が依頼で運んだ盾ですわね。なんでしたっけ、ゾルバディとかなんとかいう魔族の持ってた盾ですわ!」
「そうです剛魔の盾ですカステリオ様の副官が使っていた」
確か受けた衝撃を相手に返す効果のある盾だったかな? まあ、なますにしちゃえば関係ないかな?
「ここの守りは俺に任されているからな。この剛魔の盾と魔人ゾルバディの力を授かった俺がここでお前たちを葬ってやる」
あー、なんかの方法で剛魔の盾とその使用者の力を得てるんだ。なんで勝手に秘密を敵に喋るのかシェンナには理解できません。
さて、マナカさまは先に行ってもらって、シェンナとコリーちゃんでこのチンピラを相手しようかな。
シェンナはコリーちゃんに向かって頷くとコリーちゃんも頷き返してくれました。
二人で戦車から降りると、ガラの悪い男の前に出ます。
「マナカ様ー、ここはシェンナとコリーちゃんにお任せあれ」
「マナカ様は先に行ってください」
マナカ様は頷くと。
「では、お任せしますわね。魔人ゾルバディの力がどうとか言っておりましたので、注意なさいな」
「大丈夫ですよ二〇〇年も前のロートル相手ですから」
「危なくなったら逃げなさいね!」
マナカ様はそう言うと戦車を再び走らせます。
「ち! 行かせるか!」
男が追おうとすると、コリーちゃんが矢を男の頭に目掛けて放ちます。
頬をかすめて矢が通り抜けると、男はこちらを向き。
「くそ! あんたらを潰さないと追えないようだな」
そう言ってこちらを向き盾と剣を構えました。
「――さあ、
シェンナは準備のために十一本の包丁を地面に落とします、最後の一本孫六兼元を構え男と対峙します。
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