第百話 魔王対魔王もどき

 シェンナ達とマナカさんが出て行ってから間もなくのことでした。

 街の方がどんどんと騒々しくなっていきます、どうやら入り込んだ敵が動き出したようです。


「マウナ様! 街の北西辺りに大量のスケルトンが出現とのこと。そして各地でモンスターが出現どうやらモンスターはソースフェールで持ち込まれた物のようです!」


 ベティさんの言っていた嫌な予感が的中ですね。

 そしてスケルトン……これは召喚されたものでしょう。


「マウナ様、どうやら北西の方は例のネクロマンサーのようですな」

「ええ、ネクロマンサーはドラゴンゾンビすら使役できるレベルです。私が直接相手をします」


 私はモルテと部屋にいた者たちに言います。


「な、危険です。マウナ様に何かあってはいけません!」

「私も魔王の端くれです。負けるつもりもありませんよ」

「しかし、ではモルテも来ますか?」

「む? いやしかし、ありかもしれませんな」


 意外、どうやらモルテもネクロマンサーに興味があるようですね。


「では、準備してください。北西と言えば先の襲撃での犠牲者を弔った場所です。これ以上眠る者たちを起こしてはなりません」

「御意のままに」


 私とモルテは急いで準備をします、何があるか分からないので準備は重要です。

 ささっと準備を整えると私とモルテ、そして数名の魔族の兵とともに現場へと向かいました。


 ――

 ――――


 現場付近に来ると、懐かしい魔力を感じます。


「ん? なんでしょうこの魔力」


 私と同じようにモルテも感じているようです。普通はあり得ない事です、この魔力は少し違いますがよく似ています。


「マウナ様……これは、私の良く知る魔力ににております」

「ええ、魔王カステリオ」

「はい我が師カステリオ様の魔力によく似ております」


 そう、死んだはずの魔王カステリオの魔力です。


「嫌な予感がしますな」

「ええ、最悪な予感がします」


 現場付近に差し掛かると魔力反応はさらに強くなり、男の声が聞こえてきました。

 背の低いローブを着た若い男が不穏なことを言いながらスケルトンと歩を進めておりました。


「道すがら成るべく住民は皆殺しにしろ! 住民の死体は片っ端から戦力に変えていくからな」


 なんか、我が国にとって聞き捨てならないセリフですね。

 そしてモルテが男の手を見て声を上げます。


「そ、それは!」


 杖が握られておりました、なるほどモルテが驚くわけです。


「我が師カステリオの『死者の杖』!」

「あの杖の名前そんなシンプルな名前だったのですね」

「はい、しかしこれでドラゴンゾンビをも使役できる秘密がわかりました。あの杖はブースターになっておるのです」

「ネクロマンシィの強化をするということですね?」


 その杖があるにせよ、彼が強力な術者なのは確かでしょうね。


「どちらにせよ彼はここで止めないといけません」

「御意のままに」

「では行きますよ!」


 私は男の前に躍り出ると、先制で忠告もなしに躊躇うことなく火の上級魔法を放ちます。


「――イグニス・ジャベリン!」


 巨大な三本の槍が男目掛けて飛んでいきます。

 しかし、男はニヤっと笑うと咄嗟にスケルトン数体を壁にし炎の槍を防ぎました。


「なんだなんだ? いきなり上位魔法でのお出迎えかよ。イグニスジャベリンを無詠唱ってお前何者だ?」

「マウナ・ファーレ。あなたの敵です」

「おいおい、敵の大将のお出ましかよ。俺はアストってんだよろしくなマウナちゃーん」

「むぅ……」


 今、ゾクっとしました……アストと名乗った男はスケルトンをけしかけてきます。単騎ではそこまで怖い相手ではありませんが数が多いので厄介です。


「魔王様がこーんなキュートでビックリだ! 是非とも俺のゾンビにしてやりたいなぁぁ――ダーク・ストライク!」


 黒い球が私目掛けて飛んできます、闇の中位魔法ですか、私は右手を突き出し


「一重結界!」


 魔力で作り出した盾を目の前に展開しダークストライクを防ぎます。相手の属性は闇ですか闇と死霊術が敵のセントウスタイルでしょう。


「モルテ! スケルトンの相手をお願いします」

「は、了解しました。 マウナ様もお気を付けください」

「わかっています、ここまで単騎で攻めてきたのです、よほど自信があるのでしょう」


 私はマナカさん曰く、ゲートボールスティックにしか見えない杖を構えます。


「自信なんてねーけど、やれって言われりゃやるしかねぇんだよなぁ。それがこの力を頂く条件なんでな」

「借り物の力ですか……」

「うるせぇ! あんたみたいな生まれ持ってのエリートにゃわからねぇだろうな。魔力だけが高いのに適性がほぼ無かった俺の気持ちなんて」

「ん? はい、私は貴方のことなんて知らないので、そんな事言われても困ります」


 私の返しがダメだったのか、アストという男は微妙な表情になっていました。

 しかし、この人がどんな人生を送ってきたのか知らないので、この人の苦労なんてわかるはずもありません。


「……バカにしやがって!」

「なんなんですか! 情緒不安定ですか!」


 アストは叫ぶとやたらめったら闇属性魔法を放ちますがどれも下位、中位までの魔法です。

 おそらく適性は低いのでしょう。


「高位のネクロマンサーかと思いましたけど、これならそこまで苦労はしなさそうですね――」


 私はそう呟き、闇の上位魔法の詠唱に入りました。


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