第九十話 戦う幼女

 

「きのこの軍人? いやしかも大日本帝国だと? 俺のいた時代より六十年も昔じゃないか! む、そういえばソンジンは俺より十年もあとの時代から来ていたな、勇者殿もソンジンと同じ時代だったな」


 と、なるとガクザンは自分より未来から、マナカ殿の時代に近い時代から来ていることになるようですな。


「まあ、いい。やることが変わるわけでもないか」


 自然と我々の周りから敵も味方も離れて、周囲が広くなりました。


「てぇい!」


 鋭い前蹴り、自分はゴーレムの腕で守りますがなんという威力、守りを弾かれてしまいました、魔力で強度を上げてあるウッドゴーレムでなければ、一発で腕の部分がオシャカになるとこでありますな。


「硬いな」


 ガクザンが眉をしかめる、とすかさずナルリア殿の矢がガクザンに襲い掛かります。


「――ッ!」

「む!」


 体を捻り矢を躱すガクザン、死角からのはずなのに避けるとか、これがこの世界に来た恩恵の一つ身体強化というヤツでありますな。

 あいにくと自分には関係ない恩恵でありますが……キノコにしては耐久力が高いのが恩恵なのだろうか?


「てい!」


 ガクザンが石を拾い矢が飛んできた方向に石を投げると、ナルリア殿が木から飛び出します。


「――危ないなぁ!」


 二対一なのですがガクザンは慌てる様子もなく、自分とナルリア殿を交互に見て構えます。


「スナイパーも炙り出せたか、ゆくぞ!」


 凄い勢いで接近するガクザンに対し、自分は右に軸をずらし躱す。

 そこをすかさずナルリア殿がガクザン目掛けて走りながら短刀の一撃を繰り出します。

 しかしガクザンも予測済みなのか、それを難なくいなすとナルリア殿に対して肩による体当たりを返します。

 ナルリア殿も突き出された肩に手を突き後ろに飛んで躱します。


「ほう、なんという反応速度。今のを難なく躱すか」

「――マナカの攻撃の方がもっと早くていやらしい!」

「根が素直なんでな! 攻撃も素直なんだよ」

「――……マナカは根が素直じゃないのは認めよう」


 どんなやり取りなんでありましょうか? 

 しかしナルリア殿について来てもらったのは正解でありましたな、こんなん自分一人では勝てないでありますからな。

 そして二人はというとガクザンの鋭い二段突きを難なく躱し、反撃と言わんばかりに伸ばした腕に蹴りを入れるナルリア殿。


 よくマナカ殿と組み手をしているのは見ておりましたが、まさかあの歳でここまで動けるとは驚き以外の何物でもありません。


「小娘と思って侮るなかれか、末恐ろしい子よ」

「――マナカにも同じようなこと言われた! えっへん!」


 自分出番なくないでしょうか?

 あの中には入っていけないので、ナルリア殿が躱した後など隙のできそうなところで魔法の援護射撃を混ぜることにしております。


「――キノコ中尉援護上手い!」

「厄介なキノコだ」


 ガクザンが自分に狙いをつけるが、するとすかさずナルリア殿の妨害が入りかなりやり難そうなガクザン。


「連携が上手いと素直に褒めておこう!」

「――負け惜しみ!」


 隙をついたナルリア殿がガクザンの首を両手で掴み、両足でガクザンの胸を蹴飛ばしつつ自分は背中から倒れこみ、上に放り投げたところを寝ころんだ状態から小型のクロスボウで浮いたガクザンに矢を放ちました。

 ですが驚くべきことにガクザンは空中で体勢を立て直した瞬間に、空気を蹴りジャンプ。


「――な、空中で飛ぶとか卑怯!」

「二対一に言われたくはないな」

「ナルリア殿、どうやらアレがガクザンのギフトでありましょう」


 空中に立つガクザン。


「その通り、これが俺のギフト『空気床エリアルフロア』だ。まあ、長時間は無理だがシンプルで使い勝手はいいぞ」


 この世界に来てから疑問なのでありますが、何故敵はこう秘密を聞いてもないのにベラベラ喋るのでありましょうか? これが軍なら射殺モノであります。


「――むう、マナカより優秀なギフトとかずるい!」

「何故、マナカ殿基準で突っ込むのでありますか?」

「――なんとなく」


 さて、ガクザンの空気床。名前からして空気を床のように扱う能力でありましょう、持続できる時間はどれくらいか? 床にしかならないのか?

 まずは観察せねばなりません。


「ナルリア殿! 無理はせずに行くであります」

「――了解!」


 ナルリア殿がガクザンから距離を取ると、二人でガクザン相手に矢と光弾を放ちます。

 ガクザンはそれを空中でステップして躱すと。飛び降りるように降りてきたであります。

 単純でありますが厄介な能力であります。


「魔法とは厄介なものだな、俺も火の魔法の適性があるようだが。魔法というものはどうも性に合わん」


 そう言うや否やガクザンが凄まじい勢いの突進を見せ、自分の方に攻撃を仕掛けてきました。

 自分は咄嗟に胞子を撒きゴーレムの両腕でガクザンの攻撃を防御しますが、その威力はすさまじくゴーレムは数メートル吹き飛ぶことになりました。


「はっはっは、胞子で防御ができるものか」

「くー、防御の上からでもきついでありますな……腕がもう持たないであります」


 自分が吹き飛ばされた隙をつき、ナルリア殿の飛び膝蹴りがガクザンを捉えます。


「しまった! がっ!」


 後頭部に直撃を受けたガクザンは踏ん張りがきかず吹き飛びますが、なんとか空中で体勢を立て直すと一回転してから着地に成功します。


「すばしっこい奴め!」

「――ふっふーん」


 得意げな顔のナルリア殿、そして追撃と言わんばかりの猛攻を開始しましたが。そこはガクザンも負けておらず躱しては反撃、防御しては反撃とお互いに譲らない攻防が続いております。


 ナルリア殿が頑張ってる間に、自分も決定打になる戦法を考えねばなりません。

 これ以上時間をかけるのは得策ではありませんな。

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