第八十六話 オカマvsイ 前編

 このソンジンという男、結構な手練れねぇ。

 マナカちゃんと同じく素手で闘うスタイルのようだけど、隙がないわ。


「チェイ!」


 ソンジンが私の右横腹を狙って左のミドルキックを繰り出してきたわね、速いけど防げない速度ではないわね。

 私はミドルキックをメイスの柄で受ける。受けたがかなりの衝撃が響く。


「ぐ! クソ重いなぁ」


 今ので私の頭はクリアになり冷静になる、危うくお兄さんに戻ってしまうところだったわよぉ。


「でも、今ので冷静になれたわねぇ」

「ふん、あの程度では直撃はしないか」

「当然よ私は冒険者パーティーの盾役なのよ。そんな攻撃食らうわけないじゃない」

「てや!」


 正面への二段蹴りねぇ。マナカちゃん曰く蹴り技は強力だけどどうしても大振りになってしまう。だったわねぇ。

 でも、コイツ蹴りしか使わないわね、話に聞いてたテコンドーってやつかしら?


「それ、テコンドーってヤツかしら?」

「む、テコンドーを知ってるだと? そうかそっちにも異世界人がいるのだったな」

「そういうことよ、貴方より強い子よー」

「ふん!」


 少しムっとした顔で、またまたミドルキックを繰り出してくるわね。


「それは当たらないわよぉ」


 そう思った瞬間に蹴りの軌道がミドルからローに変わった器用ねぇ! 私は蹴りを踏ん張って耐えることにする。


「こういった蹴りもある!」

「痛いわねぇ!」


 セルカドちゃんも使った変化する蹴り、しかしセルカドちゃんより数段鋭いわね。

 今度はそのまま前蹴り、いつまでもやられてばかりじゃ格好悪いわね。

 私は前蹴りが伸び切る前に、前に出て低い威力の時に蹴りを盾で止めつつメイスの柄を足に落とすわよ。

 しかし相手も反応が早いわね、メイスはカス当たりじゃないのよ。


「ぐあ! まさか前に出て受けに来るとは。しかもカウンターのオマケまでつけてくれて!」

「遠慮せずにお釣りも取っときなさいよ」


 ソンジンは私から飛びのくと距離を取った、マナカちゃん曰くテコンドーは多彩な足技が特徴と言ってたわね。

 と、私が再確認した瞬間、ソンジンが私の視界から消え気付いた時には私の目の前にソンジンの足の裏が見えた。

 とっさにガードしようとしたが間に合わず私はソンジンの蹴りをモロに顔面で受けてしまったわ、乙女の顔になんてことを!

 しかし、私は意地で倒れず踏ん張ってみせた。


「バカな! アレをモロに受けて倒れないのか?」

「オカマ舐めんじゃないわよ、生半可な気持ちじゃオカマはできないのよ! 戦闘も一緒なのよ」


 驚いて隙のできたソンジンに私はお返しと言わんばかりに、バックラーでのバックブローをその横っ面に叩き込んでやった。


「がふ!」


 たまらずソンジンは二メートルほど吹き飛んだ。


「あら? そんなところで寝てると風邪ひくわよー」


 私はマナカちゃんに教えてもらったポーズをとる。鼻血を親指でふき取り手のひらを上に向け二回ほどクイクイっと指を内側に動かす。確かジークンドーって格闘技の達人が相手を挑発するときに取るポーズって言ってたわね。


「オカマが! 貴様も魔物と同じだ排除してやる!」

「あらー、本性出ちゃってるわよん」


 ん? あらぁ? ソンジンの体が微妙にぼやけてるわね。これは少し厄介かもしれないわねぇ。

 おそらくソンジンのギフトでしょうね……


「本気で行くぞ!」


 ブレる体から繰り出される攻撃は面倒ね間合いが測りにくいわねぇ。

 調子に乗ったソンジンが連撃の蹴りを繰り出してくるが、間合いが測りにくく完全にガードができないわねぇ。


「くぅ! きっついわね……」


 私はどうしても防戦一方になってしまうわね。攻撃役あっての盾役ですものねぇ。


「さっきまでの威勢はどうした?」

「うるさいわねぇ、こっちはギフトなんて無いんだから仕方ないでしょ……マナカちゃんのギフトは有って無いようなものね……」

「何を言っている! どんどん速くなるぞ」


 どう反撃しようかしらね? ん? あら、痛みが引いたわね。


「し、支援します!」

「戻ってきちゃったのね」

「し、支援しかできませんが、わ、わたしも戦います」

「ッチ!」


 ソンジンが舌打ちをしたわね。

 まあ、このまま終わると思ってたら援軍ですものねー、チヨルカン側の援軍はいないし舌打ちする気持ちもわかるわねぇ


 ただ、支援が増えても、防戦一方なのは変わらないのよねぇ。

 アルティアちゃんの回復魔法のおかげでなんとか耐えてると言ったところなのよね。

 今も蹴りを何とか防ぎながら相手の隙を伺ってるとこなのよねぇ。


「ちぃ! 埒が明かん! これでも食らえ!」


 トドメと言わないばかりに弧を描くようにソンジンの足が跳ね上がる。そして踵が斧のように振り下ろされると同時に。


「べ、ベティさん! い、一瞬でいいので、た、耐えてください」


 意外なことにアルティアちゃんが叫んだ。


「オーケーよ!」


 私はソンジンの踵落としを両腕を交差させて受け止め何とか耐える、そしてそこに――――


「――アクア・ジャベリン!」


 水の中級魔法が私の肩越しに放たれた。蹴りを受け止められバランスを崩したソンジンは無理やり体を捻り、水の槍を回避するも間に合わず左の脇腹に当たった。


「ぐあ!」

「なるほどね、体がブレて見えようがブレない位置を狙えばいいのね!」


 私はバランスを崩したソンジンの胸の部分をメイスの柄で思いっきり突いた。


「うが!」


 ソンジンがたまらず倒れる。


「ナイスアシストよアルティアちゃーん」

「こ、攻撃魔法は、と、得意じゃないんですけどね」


 ソンジンが立ち上がろうとしていた。その間に私はアルティアちゃんの強化魔法を受ける特に防御魔法を強力なやつにしてもらう。


「さて、ここらで仕切り直しね。そして反撃の時間よ」


 第二ラウンドの開始よ!

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